チュートリアルカフェ
オープニング
~ある日のターミナル~
『0世界~、0世界~。ターミナルに到着しました。どなたさまも、お忘れ物のないようにお降り下さい』
アナウンスに見送られて、仲津 トオルは列車を降りる。
いつも変わらぬ青空と、暑くも寒くもない気候。変化のない駅前広場の風景が広がる。
「あれ。なんか人多いな」
風景に変わりはないが、どことなく空気が違うことに、トオルは気づく。
トオルのセクタンが、ぴょこんと顔を出して、あたりの気配を探るようにきょろきょろとした。見れば、広場にはあまり見かけない顔が多いようだ。
「ようこそ」
「えっ」
一瞬の闇――、そして、ローナはどことも知れない部屋にいる。
特に変わったところのない女性に見えるローナだが、瞬時にどんな態勢にも移行できる警戒姿勢をとったことを、部屋のあるじは察知している。彼女が銃型のトラベルギアをすぐに抜けるようにしていることも。
「あ。これって『チェンバー』ってやつですかー?」
反して、口調は穏やかだ。知らぬ間に誰かの私的空間に踏み込んでしまったのかもしれないというわずかばかりの懸念が混じる。
「そう。多くの人の話を聞いてみたくね。まあ座って」
ふわり、と浮き上がったのは、古びたマント……、そのフードの下にある闇の中を見通すことはできなかった。
声は、ワタシはヘータと呼ばれている、と名乗った。
「あ、それなら」
ローナは応えた。
さっき、広場で会った少女の言葉を伝える。
「つまり、新規ロストナンバーへのチュートリアル」
「そういうこと!」
アリッサはにっこりと微笑んだ。
「把握しました。伺います。準備すべきことはなにか――」
「そんな堅苦しいものじゃないの」
アリッサがくすくすと笑ったので、エレシュキガルは継ぐべき言葉をなくす。ロストナンバーは世界図書館の庇護を受ける。その代表がこの少女なのだから、概念上は上官にあたるわけだが……広場で突然声をかけてきたアリッサは親しい友人に示すようなプロトコルをとりつづけていて、いささかエレシュキガルを戸惑わせた。
「話が聞こえたんだが……図書館の中庭だって?」
すっと近づいてきた男は背中に翼を持っている。
青い髪に青い瞳――そして有翼。あきらかな異世界人の特徴を、アリッサは瞳を輝かせて見つめ返した。
「そうよ。中庭にカフェを出すの。誰でも来ていいよ。新しくロストナンバーになった人に必要なことをお話して……前からターミナルにいる人とも知り合いになってもらうの。だから、知ってる人がいたら誘って一緒に来てね。ええと……」
「ウルケル・ピルスナー」
「ウルケル。うん、よろしくね!」
世界図書館の中庭でなにかやっているらしい――。
そんな話が、広場にいた人々の間に広まっていく。
「にゃ!」
トラムが発車したのに気づくが、もう遅い。ポポキを乗せずに、それは図書館へ向かう坂道を登っていく。
「にゃ~、また乗り遅れちゃったにゃ」
しかたなく、道を歩き始める。
「乗っていく?」
しかしその傍らに、すっと滑り込んでくるものがある。館長専用トラムの窓から身を乗り出して、アリッサが訊ねた。
「にゃにゃ、いいのかにゃ!?」
「どうせ図書館に行くんでしょ? いいよ。……ほら、そこの人もよかったら。うん、あなたのことだよ。着いたらお茶を淹れるから、何がいいか考えておいて。それじゃ、行きましょう!」
ご案内
最近、ロストナンバーの数が急増しています。そこで世界図書館は、新しくロストナンバーとなった人々に、0世界に慣れてもらい、基本的な知識の習得や仲間との交流ができる場として、図書館内にカフェを設けました。
このイベントはイベント掲示板の運営という形式で行われました。
→イベント掲示板『チュートリアルカフェ』(過去ログ)