飛んで！世界遺産：第１ターン

ノベル

　２０１２年現在、世界遺産の登録は１０００か所近い。
　壱番世界が文字通り世界に誇る世界遺産も、このときばかりはコンダクターでさえ、その数の多さを呪わねばならなかった。
　しかし、ムチャぶりほど燃えるのは世の真理、と言った人がいるかどうかは知らないが、トラベラーズカフェの一画に持ち込まれたホワイトボードには壱番世界の世界地図が貼られ、ロストナンバーたちはどこか嬉々として、行き先つぶしの作業に入った。
　綿密な情報交換を行いつつ、ロストレイルが各地へと旅人たちを送り届ける――。


「うおおぉ！！ここが自由の国アメリカーー！」
　ナオト・Ｋ・エルロットはサングラスで目を保護しながら、アメリカ合衆国はニューヨーク、自由の女神像下で叫んだ。
「ここが合衆国第４７代大統領が……パワードスーツのみで巨大戦車相手に大立ち回りしたという自由の女神像ッスね」
　ゼノ・ソブレロは、誰かに吹きこまれた情報を信じきっていて、感動のまなざしを女神像へと向けた。
「しかし肝心の妖精ちゃんはいないみたいだね」
　と、ニコ・ライニオ。
　そうだった。これは観光ではなかった。……たぶん。


　その頃。
　メキシコ、キンタナ・ロー州。カリブ海をのぞむ自然遺産、シアン・カアン生物圏保護区に、シェイムレス・ビィたちの姿があった。
「きれいな浜だねー、ビィちゃん。沖にはサンゴ礁もあるんだってさ。あ、それから、この密林には古代の遺跡もあって、そこでは昔、いけにえの儀式が……」
「ちょっと観光にきたんじゃないのよ！」
「あ、ごめん」
「ってか、ガイドブックが１冊ないの。トルコに落としてきちゃったのかしら……」
「『候補地』のメモはあるの？」
「それはもうクランチに送ったわ。……それよりここにじっとしてたら連中が来るかもしれない。ナレンシフの到着までまだかかりそうよ。どこか別の場所に行ったほうがいいわね」
　地球規模の追いかけっこは、まだ続く――。

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