決戦!赤の王
ノベル
「え? なに? 自衛隊!?」
「訓練かしらァ?」
「ってゆうかガイジンさんじゃない? 米軍!?」
突如、新宿の街にあらわれた軍隊に、街は騒然としている。
空には黒雲が渦を巻き、ひどく寒い。
「あいつら危険だよー! 下手に関わったら何されるかわかんないよ!」
警告を発しながら、駆けてゆく祭堂 蘭花の姿を、人々は唖然と見送った。
「……コスプレ?」
「ちょ、ちょっとこれ……!」
スマートフォンをのぞきこんで、誰かがなにかわめいた声を、立て続けに響いた爆音と銃声がかき消した。
猛吹雪なう。
会社の窓から外見たら、なんかヘンな生き物がいるんだが……
お台場でテロってマジ?
テレビで品川に巨人出たって!!
え?テレ東はアニメやってるけど?
壱番世界のネットワークをかけめぐる混乱した情報。
仲津 トオルは少しでも混乱をとどめ、かつ、人々の被害を抑えるべく、都民は安全な場所から出ないよう、それらしい情報を流してゆく。
かつ、東京都は、中央に出現したジャバウォックが巻き起こす猛吹雪により、事実上のマヒに陥っており、それがかえって混乱を抑える結果になっていた。
その隙を突くように、新宿駅周辺では、ロストナンバーが付近に出現した「カンダータ軍」との戦いをはじめている。
「これ以上人の縄張り荒らすんじゃねえよ」
新宿駅構内で兵士をからめとるのは、ミケランジェロのグラフィティアートから具現化した蔦である。
鋭い先端に貫かれた兵士は消滅するのは、かれらが現実の存在ではないからなのか。
「ここはチャンの庭! 好き勝手許さんある」
チャンはバイクで歌舞伎町を疾走中。
彼を追って角を曲がった分隊の兵たちは、そこが行き止まりと知る。
エンジンの爆音は頭上から響いた。
ビルの外壁についた非常階段をかけあがっていくチャンのバイク。そこから放り投げられた火炎瓶が、路地に積まれたゴミのうえで炎上し、兵たちの退路を断った。
西口にあるとある家電量販店では、店員と客たちが、白昼夢のような眼前の光景に呆然と立ち尽くす。
「すまないが、戦力として手を借りたい。ああ、きみたちではないんだ」
シュマイト・ハーケズヤは陳列されている家電たちに意志を伝え、ハイスピードで改造を施して、即席の自律兵器の軍団にしてしまった。
冷蔵庫の一隊が重装歩兵のように出陣していき、あとに続く電子レンジ隊がマイクロ波を敵に浴びせる。扇風機が唸りをあげて空を飛び、敵陣までストーブ隊を運ぶと、真っ赤に熱を帯びたストーブ兵が降下して襲いかかるのだ。
*
激戦区となったのは、都庁のふもと、新宿中央公園だった。
ここには密集して多数の部隊が出現。時ならぬ戦場と化した。
「用意はいいか、カヅキ。行くぜ」
「は、はい……!」
柳上 香月はレーシュ・H・イェソドに肩車されている。肩車というのがどうにも恥ずかしくて赤面するが、今は集中しよう。
ふたりはカンダータ兵たちの前へ飛び出す。
相手が銃を構えるよりはやく、香月はボウガンを撃った。
撃ち出すのはレーシュが練り上げた「気」の塊だ。衝撃と質量が、兵士たちをまとめて吹き飛ばした。
「いやっほぅー♪」
「ヨソギさん、落ちないでねぇ!」
駆けるサインに騎乗して歓声をあげるのは七代・ヨソギ。恐竜に乗る魚、という世にも珍しい光景だ。
お揃い(?)の甲冑はヨソギが鍛えあげたもの。
ヨソギはいつになくテンション高く、機械弓を乱射し、矢の雨を降らせている。
そんなヨソギを落とさないように走るのが、サインはちょっと難しそうだ。
兵士の一人は、足になにかが触れるのを感じた。
公園の樹木から樹木へと、ワイヤーが張られている。……罠だ、と思ったときにはもう襲い。ぴん、と手榴弾のピンが抜け、爆炎が高い火柱となる。
爆風には耐えたが、煙に目をやられた兵を、その背後に立つ影が瞬時に刃で喉を裂き、黙らせた。
「見敵必殺、それでいいんだろ?」
虚空はそう言って、蓮見沢 理比古。
「でも無茶しちゃ駄目だよ!」
言いながら、トラベルギアの小太刀から雷撃を奔らせ、敵を討つ。
「わかってる。だがな、俺はあいつの思いを無駄にはできないんだ」
「これが終わったらロバートさんへのお見舞用にシュークリーム焼いてもらわなきゃいけないし!」
「そこか!?」
対空砲が咆え轟く。
空を飛ぶオズ/TMX-SLM57-Pを撃ち落とそうとしているようだが、ブースターの出力を上げたオズにあてるのは容易なことではなかった。
砲撃をかわし、歩兵が浴びせる銃撃などはものともせず、オズは、戦車のうえにずしんと降り立つ。それだけで、装甲には彼の足の形にへこんだ。
「脆弱なものだ」
小銃から銃撃を続けている兵士を睥睨し、そうこぼすと、オズは戦車の砲塔を殴って破壊。使いものにならなくなった戦車を残して再び飛び立ってゆくのだ。
「見つけました! 公園の南側ですっ」
吉備 サクラが、ミネルヴァの眼で見たものを仲間に伝える。
彼女は幻影で壱番世界人を逃がすのをかばったり、自身もそれにまぎれて戦場を走りながら、上空に飛ばしたセクタンからの情報収集に努めていたのだ。
サクラによれば、敵軍を指揮している士官を発見したという。
「わかったわ。まかせて」
話を聞いたほのかが、ふっと、姿を消す。
もし縁のあるものがいれば――
そこに立つのが、かつて、カンダータ軍を指揮してインヤンガイにおり、トレインウォーで図書館と戦った敵将、ダンクス少佐だとわかっただろう。むろん、それは本物ではない。
「記憶で出来た存在だなんて、幽霊と同じね……」
ほのかがつぶやいたとおりだ。
忽然と出現した女に、兵たちがぎょっとしたのも一瞬のこと。
「苦しませるつもりはないの。もとより貴方は此岸にいないもの」
「な、なに……」
ダンクス少佐はおのれの手が拳銃を抜き、銃口を自身のこめかみに向けるのを止めることができない。
「矜持も義務も無念も苦痛も……総て幻。ゆきましょう……記憶の彼岸へ」
そして、銃声――。
指揮官を失った軍団が瓦解するのは容易い。
煌 白燕が符術により生み出した軍団が、混乱する敵陣に突入してゆく。
それにまじって、鬼神のごとき気迫で刀を振るい、敵を切り捨ててゆく橡や、盾で銃弾を受け流しながらハルバードで敵兵を豪快に叩きのめしているドワーフ――ギルバルド・ガイアグランデ・アーデルハイドの奮戦する姿がある。
味方を護って立ちはだかる氷の壁や、敵をなぎたおしてゆく氷の獅子はヴィンセント・コールが呼び出したものだろう。
ロストナンバーたちの勢いに、カンダータ軍が圧されてゆく様を、都庁の屋上から神(ctsp6598)が見下ろす。かれは大ガード付近で、一個中隊を壊滅させてきたところだが、ここでもうひと働きすることにした。
「やれやれ、とんだデウス・エクス・マキナだな」
つぶやいて、ひらりと飛び降りる。この無意味な争いに強引な終幕を下ろすために。
(執筆/リッキー2号)