決戦!赤の王
ノベル
その日、とげぬき地蔵で有名な高岩寺がある巣鴨地蔵通り商店街は、いつも通り「おばあちゃんの原宿」として賑わっていた。だが突如、巨大な黒い閃光が地上から空へと立ち昇った。茫然とする老人達の前に現れたのは、蛇の形をした血色の暴霊が数十匹、道路をあっという間に埋め尽くす。他にも空中に大きな口が開き、ゾンビ風の警備員と赤ん坊がぞろぞろ現れ、でこぼこした鉄球状の柱と先端がギザギザとした板状の柱が飛んでき、どこかから伸びたガムテープとビニールテープが老婆を絡めとるに至って、老人達の呪縛は解けた。
「うぎゃあああっ!!」「あれは何じゃ!」「助けてくれいっ!」「なんまんだぶ!」「神さん神さん!!」
『…オ爺チャン達ヲ、イジメナイデ…! …オ前ナンカ…何処カ行ッチャエ…!!』
幽太郎・AHI/MD-01Pは身を挺して老人を庇いつつ、暴霊を分析し仲間に情報を送る。ユイネ・アーキュエスは霊体の剣を5体ほど召喚し、光の魔法を付加して血の蛇を探し出し応戦する。ご近所の平和を守る山田 太郎も掃除機で次々蛇を吸う。
「ほら、お爺ちゃん頑張って!」
ティーグ・ウェルバーナは避難誘導に徹した。ユイネと幽太郎の情報を元にどこが安全地域か掴んでいる。赤燐は背負った老婆を揺すり上げ、ひたすら走る。
「わたしにだって、手伝えることはあるよ」
姉を案じつつ、南河 昴もセクタンと一緒に老人達を守りつつ、映画の撮影だとごまかして誘導する。天渡宇日 菊子はギアを巨大なお祓い棒にシフトし、柱どもを飛んで追っかけ吹っ飛ばす。
「あーくりょうたいさーん!!」
ミア・リースは【ギフト・ラッピング】で老人の能力を引き上げ避難をしやすくしている。元気になりすぎて暴霊に立ち向かう老人には、金町 洋があたしが悲しむから無茶却下と説得する。白衣は防御モード、飛びかかってきた大きな口を受け流した先では、老婆を降ろした赤燐が手の中に生み出した炎で応戦する。
「焼かれなさい、そして、爪で切り裂かれなさい、暴霊」
「中々悲惨な状況だな」
浮かぶ笑みを隠し、対暴霊仕様の呪術で建物内に避難所を構築、霊避けを施し誘導しているのは古部 利政だ。混乱する警察署に入り込み、避難誘導と霊避けを教えにかかる。
「生ある皆様方は勿論の事死者の皆様方にもこのワタクシめが張り切って腕を振るわせてイタダキマショウッ! さァさァ思う存分食いなさいッ!」
大量の料理を生者暴霊問わず配る椙 安治は、暴霊が食べ物を口にして満足したと見るや否や高笑いとともに消滅させる。
「一つの世界を滅ぼすなど、『我ら祈り神子オーリャ』全てが許しません」
死角になりそうな所に精神を宿らせた人形を配置し暴霊の動きを捉えつつ、オカリナによる音波攻撃をするオーリャ、戦闘力を向上させる舞や攻撃を防ぐ結界を張る舞、死者や亡霊を成仏させる効果もある「魂を清める舞」を踊って、暴霊た
ちを鎮めようとするレク・ラヴィーン、彼らが次第に浄化能力をあげていくのは、別の場所で高まる力に支えられている。
同時刻、染井霊園でも悲鳴が上がっていた。樹木から降り落ちる薄紅の肉の花弁。絶叫し逃げ惑うお年寄り達がぶつかり合い転倒し骨折し動けなくなる。彼らに向かって、墓石の影から大人の腕ほどもある巨大なナメクジが数十体と、あちこちから触手を突き出した黒光りするスライムが迫る。屍肉と腐臭の暴霊龍ケイオスグラードが触手を伸ばし、ひゅんひゅん飛ぶ銀色の珠も近づいてくる。
「もう安心だよ。兄貴も頑張ってるのに負けてらんないもん」
治癒符で怪我人を治して逃がす臣 雀、呪符から呼び出した火の鳥と雷鳥を番わせ生ませた雷火の鳥、その羽ばたきがナメクジ達を焼き尽くす。
「暴霊・暴霊・暴霊…そんなにもう一回死にたいんなら相手をしてやるぜ」
設楽 一意は式神の兎を次々放つ。降り落ちる肉の花弁に噛みつき、黒光りするスライムに襲い掛かる猛々しい存在だ。フォッカーは銀色の珠の周囲にシェンの姿がないことにほっとしてプロペラで殴って反撃し続ける。襲いかかって来た凄まじい腐臭を放つケイオスグラードには、自ら軽身功を掛けた百田 十三が式神を立て続けに呼び出し、その場所から身動きすることさえ許さずに滅する。
「本業には叶わんが…臨兵闘者皆陣裂在前、退魔行!」「雷鳴之術!!」
重なった声は豹藤 空牙、忍刀・月詠で逃げ延びたナメクジをばっさばさと斬っていく。
(やっぱり、あなたたちも苦しいの?)
村崎 神無は故郷で退魔師の仕事をしていた頃を思い出すように、刀を両手で握りしめスライムを攻撃する。『赤の王』に無理矢理具現化された、その苦しみから解放したいと願いつつ。
アマムシは吐いた糸で止血したり作っていた担架や三角巾で老人を救う。退魔銃二丁で制圧射撃を仕掛けるエク・シュヴァイスはテリガン・ウルグナズとタッグを組み、暴霊を迎撃しつつ、持参の医療キットで治療する。エクをサポートしているテリガンは時に上空に飛び、他に被害者がいないか確認している。
「失せろ、偽りの影め。ここは生と未来を願う者の領域だ」
暴霊達を水の盾で防ぎ、水の大蛇でなぎ払う。住民の避難誘導と負傷者の救助、そして治療をし続ける有馬 春臣はノートで常に連絡を取り、要請があれば瞬間移動する、その側で、
「お地蔵さん、お年寄り達を守って下さいッス! 自分、頑張るから!」
声も枯れよ喉も裂けよと応援歌を歌い、一時的に住民の心と体の能力を上昇させているのは氏家 ミチルだ。避難経路を確保し守り、しかも暴霊を集めて外へは出さない、なぜなら。
「ありがたやありがたや」
老婆が手を擦り合わせて拝んでいる先、霊園の一画で、永光 瑞貴の舞いが始まっていた。浄化性を高めた火や風の法術での暴霊退治、だが何より彼が望んだのは巣鴨地域の一斉浄化。他参加者たちの浄化の力を、舞うことで束ねて一定の方向性をもたせ、同時に光の法術を練り上げて強力な浄化の光を生み出していく。
(一人なら無理だろうけど、皆の力を借りられればきっとできるよな!)
まっすぐに空を見上げる澄んだ瞳、その想いに次々と各所から、音が、舞いが、光が重ね合わされる。テューレンス・フェルヴァルトは鎮魂歌を演奏し、暴霊達を鎮めたり動きを止めたりしようとする。樹菓は「死の予感」で危険にさらされている市民を探し、襲ってくる暴霊の動きを「導きの杖」で別方向へ向かわせ、さらに、瑞貴の舞いを「導きの杖」でより遠くまで広めている。巣鴨全域に癒しの歌が届き、瑞貴の舞いの光が満ちていく。
「貴方達が無理に目覚めさせられたと言うのなら、私はせめて穏やかな眠りを祈りましょう」
オペラ=E・レアードは本体である10mのパイプオルガンを展開し、賛美歌を奏でつつ、暴霊浄化の効果を増幅していく。そしてジャンガ・カリンバは、瑞貴の舞いに合わせつつ、打楽輪を打ち鳴らして原始の鼓動を連想させる踊りと朗々とした歌声で鎮魂歌を謡う。
「生の喜びを以て死の哀しみを癒すってもんだろ。さあさあ、手拍子でいいから参加してくれや!」
いつしかその声に、癒され守られた老人達の手拍子が加わる。
巣鴨の地脈へ浸透し流し込まれるのは、浄化の、そして命の歌声。
世界の破壊に抗う祈り。
巣鴨への攻撃は、止まった。
(執筆/葛城 温子)