ノベル

 杭

 打ち込まれたミラーヘンジは3本。
 被害を減らすために、ロストナンバーたちが選んだ作戦は3箇所の同時制圧。


 田端駅付近

「あの時の戦いの事を思い出すな、気を引きしめて行かないと!」

 猛吹雪の中を駆けるルオンを援護するように、ルンが流れるような動きで矢を射る。並外れた膂力で放たれた矢は次々と変異獣を体ごと刺し飛ばす。
「お前ら、出て来い! 暴れてみせろ!」
 ギィロの召喚した闇の獣が変異獣の群れに突撃を始める。
「うぉぉん!」
 ギアで加速したロボの姿が霞むと、変異獣の群れの一角が血飛沫を上げて倒れる。その間を走ってルオンがミラーヘンジへと槍を振り下ろす。
「固っ!」
「ポラリス、おいらに力を与えてくださいですよぅ!」
 ワーブが渾身の力でポラリスの爪を振えば、その鏡面に大きな傷がつく。ワーブが攻撃に専念するため、ルオンとギィロは変異獣を迎え撃つ。
「ヴォオオ!」
 ワーブの闘志に応えたギアが輝き、その腕が鏡面を深く貫いた。鏡面に亀裂が走ると、澄んだ音を残してミラーヘンジは崩れ去った。


 上野駅付近
「ふくく、このような狩りも良い!」
 巨大な狐、逸儀が妖力を纏い空を駆け、変異獣の群れを薄氷ように踏み砕く。
 変異獣の群れが割れ、ミラーヘンジへの道が開かれる。それを追うように、焔を纏った天狼の呉藍、笠を背負った黒毛牛のソア、獅子獣人のキースが駆ける。
「ハァ!」
 加速した呉藍が鏡面へと突撃すると、炸裂した炎がひび割れを生む。
「えーい!」
 ソアが鏡面へと突進すれば、鈍い音が響いた。そして、動きを止めたソアはゆっくりと横向きに倒れた。
「大丈夫か!」
 出来たひび割れへと槍を叩き込んだキースが叫んだが。
「……」
 返事がない、ただの牛のようだ。
「何をしておる、早う壊さぬか!」
 苛立たしげに逸儀は狐火を弾丸のように飛ばして変異獣の群れを掃討している。
 そこへ、無数の金に輝く神聖文字が鏡面へ降り注いだ。金色の爆発は加速度的にひび割れを広げ、ミラーヘンジを粉々に砕いた。
「遊んでいる暇はないぞ」
 リュエールは神聖文字の浮かんだギアを構え直した。


 東京駅付近
 襲い来る変異獣を迎え撃つのは一振りの大鎌。舞うように銀世界を紅く染め上げる。
「ここはお前らの住処でも何でもないのだしな」
 白燐の尾は大きく膨んでいた。
「グィネヴィア。僕の、否、皆の為に戦ってくれるかい?」

 イェンスの想いに応えた漆黒の髪が銀世界に広がり、周囲の変異獣を瞬時に縛り上げる。
 同様に眞仁のメジャーが変異獣に絡まり動きを止める。その隙に、ダリが容赦なく槍で仕留める。
「固い!」
 ギアの手拭いにちとてんの炎を纏わせて、咲夜はミラーヘンジを攻撃する。その横で一夜も同じようにギアのガムテープを振り回しては叩き付ける。
 しかし、鏡面には傷一つつかない。
 握った拳にガムテームを巻き付けて一夜は全力で殴ったが、その拳は割れて鏡面に血が流れる。
「白燐に代わってもらうか?」
 ダリの提案に一夜は首を振って応えた。痛みを堪え歯を食い縛り、妹を想う。
「妹が頑張ってるのに、兄が挫けてどうする!」
 ギアが眩い輝きを放つ。
「久しぶりですねジャバウォック。そして今度こそさようなら!」
 体重を乗せた一夜の拳が鏡面を貫き、ミラーヘンジを粉砕した。


 決戦


 止んだ吹雪が破壊の成功を知らせる。瞬時にロストナンバーたちが動いた。
 ジャバウォックを覆うミラーシールドに触れたハルカが分解を仕掛ける。先程までは分解し尽せなかったシールドが溶けるように消え去り、歪な竜の全貌が晒される。
「攻撃が届くぞ!」
 フブキの意志が、アキにより思考を繋いだ全員に伝わる。

「君のステージはとっくに終わってんのよ!」
 邪竜を目指す桂花の車の上に立ったロナルドがギアのたらこを構える。奏でるのは青く輝く勇壮な音色。大気に溶けて広がる旋律が全ての者たちの士気を高める。

「疾く駆けるぞ、緋胡来ッ!」

「望む所!」
 シンイェと緋が漆黒の矢となって空より吶喊する。妨げる鏡の盾は並走する雷虎が全て撃ち砕く。
 頭部を太く鋭い棘に変形したシンイェがジャバウォックに突き刺さる。その傷口に刺し込んだ偃月刀を握り締めて緋は飛び下り、ジャバウォックの背を駆け抜ける。斬り開かれる傷を封天が呼ぶ雷虎が焼き広げる。
 苦悶する竜の喉笛にゾルスが喰らい付く。その興奮に煽られるように念大剣があちこちを突き刺す。
 そこに、空よりもう一つの矢が降る。広がった傷口を狙って竜の体内へと突き刺さったのは、雷を纏う玖郎である。
「轟雷」
 青白い閃光が爆発して竜の肉体を大きく抉る。ジャバウォックの姿が地へと傾いた時。
「グオオオ!」
 邪竜が光を纏うとへばりついていた者たちが弾き飛ばされ、その体が見る間に再生される。その様子に全員が目を瞠った時、竜を無数の氷弾が襲った。
「治らなくなるまで叩きゃいいんだ!」
 フブキの不屈の叫びが、全員の心に再び闘志を灯す。


「やはり、偽物じゃのォ」

 高みの見物をしていた灰燕が悠然と立ち上がると、頭上へと掲げた熾皇の刃より白銀の焔が昇る。
「思考は伝わるんじゃろう。手伝え」

 尊大な思考が戦場を巡る。


「よかろう。神の御加護を」
 アクラブが炎の加護を祈る。


「面白そうじゃのう」
 逸儀の妖力が火を高める。


「焔なら任せな!」
 呉藍の龍焔が宿る。


 集まる力が焔を巨大化させる。
 それをジャバウォックが見逃すはずもなく、鏡片を豪雨のように灰燕に浴びせるが。
「氷の城塞!」(グラスシャトー)
 フブキの展開した魔術が身代りに砕け散る。
「頑張るのぉ」
「ちったぁ感謝しろ! もう打ち止めだぞ!」
 再び攻撃しようとする邪竜が突然に「静止」した。
『俺が抑える、続けろ!』
 長く持たないぞ、アキのテレパシーが全員に伝わる。


「リクエストありがとね!」
 ロナルドの荒ぶる旋律が火を高める。


「木気は火を高める」
 上空より降った玖郎の羽根が火を盛らせる。


「俺の力も受取れ!」
 緋の封天が呼ぶ風馬と雷虎が焔へと飛び込む。


「俺も力を貸す!」
 ハルカの発火能力が炎を強める。


「応援、応援する?」
「うん、しよウ」
「祈りましょう。想いはきっと届きましょう」
 花篝の操る鉄扇に乗り、避難誘導をしていたキリルとワードは花篝と一緒に祈る。
『皆、負けないで』


「行かんのか?」
「僕は今の僕にできることするよ」
 竜になったニコの背に乗った鷸が聞いた。
「勇気は敵を討つだけではない」
「だよね」
 逃げ遅れた人を探すため、再びニコは飛び立った。
『信じてるよ』


 マスカダイン、ロスとレイル、セクタンからも集まる想いに灰燕は口元を少し緩めた。
「躍れ、白待歌。塵の一つも残すなよ」
 上空に生れた小さな太陽が降臨する。
『ハルカ、たの、んだ』
 アキの意識が途切れた瞬間、ジャバウォックが動き始めた。
 直後、走り出したのは千志だった。影の細かい刃を創り、足場にしてジャバウォックの上へと出るために駆け登る。強い光があれば、影は濃く深く現れる。
「守るって決めたんだよ!」
 太陽を背負い飛び出した千志の影が、巨大な剣となり邪竜を串刺しにする。苦悶する竜は体が引裂かれるのも厭わず無理やりに逃げようと足掻く。
 ふわりと桜の花びらがジャバウォックに舞い落ちる。触れた箇所が白く凍て付く程に、竜の動きが鈍くなる。
「雪が溶ければ春となる。雪はもう溶けた」
 寂しげに呟く終の手には桜花があった。


 そして、白銀の太陽は邪竜を断末魔ごと呑み込み。歪な存在のみを灰燼に帰した。

(執筆/青田)

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螺旋特急ロストレイル

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