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ロストレイルの車窓から ~明晰夢~
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幸せの魔女(cyxm2318) 2014-02-14(金) 22:19 |
幸運にもロストレイル13号…通称「北極星号」の乗組員として選ばれた私こと幸せの魔女は、北極星号が世界の果てを目指し0世界を出発する直前に猛烈な睡魔に襲われた。こんな楽そうな旅を目の前にして冗談じゃないと最初は睡眠欲に抗おうとしたものの、残念ながら魔女という生き物は欲が深い。一緒に搭乗した仲間達には「睡眠を貪る幸せを追い求めている」とか何とかそれらしい理由を付けた嘘を吐いて、私は深い眠りに身を委ねた。
私は白い鴉となって、0世界の上空を飛び回っていた。…いや、白いのなら鴉にならないんじゃないかって思うかも知れないけど、間違いなく鴉だった。だって、鳴き声をあげると「カァカァ」って鳴くんですもの。
私が鴉になって飛び回るだなんて普通は有り得ないので、ここは夢の中の世界なんだとすぐにわかった。成る程、これが噂の明晰夢というやつね。生まれて初めての体験に私の心は踊った。 夢の中は何処までいっても夢の中だ。私は自由を謳歌してやろうとフラフラと当てのない空の散歩を楽しみ、何気なくお店の並ぶ通りへ降下すると1件のブティックへ立ち寄った。 店の中を覗いてみると、数人の女性が歓談に華を咲かせているようだった。この店の店主と思われる女性、褐色肌で金色の髪をしたメイド服姿の女性、桃色の髪を伸ばした胸の大きい女性、同じくけしからん大きさの胸を持つぐうたらメイド、蛸足の美味しそうな女の子、モフモフけもりう人、頭にヘンテコな貝殻みたいなものを被った世界司書…。全員私の良く知る人達の筈なのだが、夢の中だからなのか、名前が全く出てこない。誰だったかなぁ、確かによく知っている筈なんだけど。…遠目に眺めてみると、みんな何だかとても楽しそうだ。嗚呼、私の体が鴉じゃなかったらすぐにでも話に混ざりに行くんだけれどもなー。 そんな事を考えながらブティックの前を慣れない鳥足でウロウロしていた時、凄まじい轟音と共に大地が大きく揺らいだ。道行く人達が足を止めてナラゴニアの方を見上げる。その先には…今にも世界樹に食らいつかんと大きな口を開けている、醜悪で巨大な怪物がいた。 何だろうか…。私はあの怪物に見覚えがある。いや、怪物そのものは今初めて見たんだけど、その面影は私の知る…ええと、確か魔法使いの卵だ何だと嘘を吐いていた、あの…誰だっけ。あぁもう、これが夢の中じゃなかったら間違いなく思い出してる筈なのに!
その醜悪な怪物は大口を開けて世界樹を丸ごと食べ尽くすと、ナラゴニアを下りターミナルを目指して移動した。そして、その怪物を止めようと多くのロストナンバー達がロストレイルに乗り込んで怪物に戦いを挑んでいった。…私はというと、その戦いの一部始終を上空からカァカァと鳴きながら眺めていた。
酷い戦いだった。いや、そもそもあれは戦いとかそういう次元のものじゃない。一言で言えば、あれは一方的な侵略だった。用意された数々の兵器は怪物相手には全く効果がなく、挑んでいったロストナンバー達は次々と食べられ…全知全能と呼ばれた「神」と名乗る者でさえも、その怪物を止める事は出来なかった。その怪物はあまりにも強すぎた。 …結果、世界樹は跡形もなく食べ尽くされ、チャイ=ブレはいとも簡単に追い出され、0世界は半壊。その怪物が新たなるイグシストとしてこの地に根付き、そこで侵略は終わった。 瓦礫に包まれた街中で、多くの者が不幸に打ちひしがれ涙を流していた…が、遠目から一部始終を眺めていた私からしてみれば、あの規模の侵略で「半壊」程度の被害で収まっていた事は奇跡的な幸運だなぁと思った。まぁ、ここにいる人達がどれだけ不幸になろうとも私には関係ない話だけれども。所詮ここは夢の中、目が覚めてしまえば全ては無かった事になるんだから。
しかし、あの怪物がその気になればこの0世界全てを丸ごと食べる事も出来ただろう。何故わざわざ元々いた2つのイグシストを亡き者にして新たなイグシストになるという、そんな回りくどい方法を取ったのか?そもそもあの怪物は何者なのか…そんな疑問を抱きながら上空をフラフラと飛んでいると、樹海の中にひとつの建物を発見した。何かの研究施設のようだが…不思議とその建物だけは怪物の被害を免れ、何事も無かったのようにそこに佇んでいた。まるで何かの力に守られているように…。 (何の施設なのかしら) 興味を持った私は開かれている小さな窓から建物内に侵入し、バサバサと翼を慌ただしく羽ばたかせながら施設の中を見回った。何度かここの研究員らしき人とすれ違ったがのだか、私の事は気にも掛けずに忙しなく何処かへ行ってしまう。…私の姿が見えていないのか? 施設の奥へ奥へと進んでいくと、厳重に施錠されている扉に出くわした。私の勘では恐らくここがこの施設の最深部だろう。一体この扉の奥には何があるのだろう…と地に足を着いた時、通路の奥から2人分の人影が見えた。ひとりは白衣をまとった16歳くらいの若い女性、もうひとりは銀色の髪をした小さな女の子だ。 「 さんの無事を確かめるのですー」 「とても信じられないけど、この施設が無事だったのは彼女の「快適な睡眠を貪る幸せ」にあやかれたからなのかしら」 そんな会話を交わしながら2人は扉の前まで歩みを進め、白衣姿の女性が鍵を取りだし厳重な施錠を解除していく。ガコン、という生々しい金属音と共に、重々しい扉は開かれた。 私は好奇心を押さえきれず、思わず2人よりも先に扉の向こうへと羽ばたいた。…扉を抜けると中はひとつの小さな部屋になっていて、無機質かつ飾り気のない室内には簡易なベッドがひとつ備え付けられているのみである。私はそのままの勢いでバタバタと羽を忙しなく動かし、ベッドの上に着地する。なだらかな布団の膨らみを見るに、誰かがここで眠っているようだ。 (こんな所で誰が寝てるのかしら) 私は慣れない足取りでよちよちとベッドの頭部分まで歩を進め、その人物の顔を覗きこむ。 (……えっ?えぇぇっ?) 私は仰天した。そのベッドで寝ているのは…
私だ。 幸せの魔女だ。
「魔女さん、無事だったのですー」 銀髪の少女が幸せの魔女も元へ駆け寄る。幸せの魔女の寝顔は、それはもう幸せそうな寝顔だった。…当たり前だ、幸せの魔女なんだから。 だが、その体からは魔力を全く感じなかった。この状態は睡眠をとっているというよりは「魔力を使い果たして昏睡している」と言った方が正しいんじゃないだろうか。その体の鼓動はあまりにも弱々しく、今にも止まってしまいそうだ。
何故?何のために魔力を使い果たした? 何で私はこんな所で閉じ込められて眠っている? そして、私は何故自分自身をこうして見下ろしている? これは本当に夢?じゃあ一体誰の夢? 様々な疑問が目まぐるしく脳内に渦巻き、頭の処理能力が限界の悲鳴を挙げる中…そこで私の意識は途絶えた。
「魔女さん、着いたのですー」 ゆさゆさと小さな手で揺さぶられ、私は目を覚ました。眠気まなこをこすりゆっくりと頭を振りつつ周囲を見渡す。そこはいつも見慣れた空間…、ロストレイルの車内だった。 嗚呼、そう言えば私達は世界の果て、ワールドエンドステーションを目指していたんだっけ。どうやら私が眠っている間に目的地についたらしい、車掌が終点に着いた旨のアナウンスを流していた。 「さぁ魔女さん、急ぎましょうなのです」 私は銀髪の少女に手を引かれてロストレイルの外へ
…あれ?私はこの少女の事を良く知っている筈なのに、肝心の名前が出てこない。ええと、誰だっけ、この子。何か脳内に薄いモヤみたいなものが掛かっていて記憶がハッキリしない。 「そうね、0000さん。」 私は試しに少女の名前を呼んでみるが、口からでるのはこれまたハッキリしない謎の言語だ。 …そう言えば、他の乗組員に選ばれた仲間達は何処にいるのだろう。この車内には私と…この銀髪の少女の2人しかいない。まさか、途中で数人が犠牲になって、結局は私達2人しか残らなかった…とか?いや、そんなバカな事が…。 頭を抱えて悩んでいる私に、その少女は 「魔女さん、まだ寝ぼけているのです?」 私の顔に容赦ない平手打ちを喰らわせた。それも2発。 「…えぇ、目が覚めたわ。ありがとう、0000さん。」 痛みは無かった。嗚呼、どうやら私はまだ夢の中にいるらしい。
世界の果て…ワールドエンドステーションに、私達2人は降り立った。 でも…何だろうか、この感じ。きっと私はここを訪れたのは初めてではない。今まで何度も…という程ではないかも知れないが、少なくとも数回はここを訪れている。その証拠に、私はこの世界の事を知っている。ワールドオーダーとも会話を交わした事がある。何か肝心な事を忘れている気がするが…やはり夢の中なのか、記憶は依然とハッキリしないままだ。正直言ってもどかしい。 そんな私を尻目に、銀髪の少女はどんどん奥へ進んでいき、作業をしているらしいワールドオーダーの人達(人と言っていいのかどうかわからないが)と親しげに会話をしている。少女は私に近くに来るようにと手招きをすると、ワールドオーダーに向かってひとつの質問を投げ掛けた。 「世界を検索して貰いたいのです。※※※で※※※の※※※な世界はいくつあるのです?」 ごく単純な質問だった。ワールドオーダーの頭上に文字とも記号ともつかぬ謎のモノが明暗を繰り返し、その答えを返す。 「その条件に合致する世界は2個あります」
…。 「魔女さん、着いたのですー」 ゆさゆさと小さな手で揺さぶられ、私は目を覚ました。眠気まなこをこすりゆっくりと頭を振りつつ周囲を見渡す。そこはいつも見慣れた空間…、ロストレイルの車内だった。 嗚呼、そう言えば私達は世界の果て、ワールドエンドステーションを目指していたんだっけ。どうやら私が眠っている間に目的地についたらしい、車掌が終点に着いた旨のアナウンスを流していた。 「さぁ魔女さん、急ぎましょうなのです」 私は銀髪の少女に手を引かれて、ロストレイルの外へ案内される。外には既に今回の旅に出発するにあたって選ばれた仲間達が全員揃っていた。 「おいおい、やっとお目覚めかよ。お前さんが寝ているの間に色々と大変だったんだぜ?」 「…全く。危機感がないんだか大物なんだか」 「ふふふ、ミス・ハピネスはねぼすけさんね。こんな楽しい旅の中でずっと居眠りだなんて、もったいないわ」 次々と仲間達の挨拶が私に向かって注がれる。全員、ターミナルでも見慣れた顔の面々だ。頭の中の記憶を遮るような変なモヤみたいなものはもう無い。仲間達の名前もハッキリと思い出せる。 嗚呼、ここは夢の中じゃなくて、現実ね。やっと目が覚めたのね、私。
私達はワールドエンドステーションに降り立った。私は未だ見ぬ未開の地に興奮し、心踊らされ……はしなかった。ワールドエンドステーションという場所も、ワールドオーダーという存在も、夢の中で見たものと全く同じだったのだ。仲間の皆が新たな世界との出会いに感動している中、私だけは素直に喜べなかった…。 それでも、幾つかは非常に興味深い話は聞ける事ができた。世界計の複製が世界を創造する…即ちここに来れば世界を創造する事ができる事、検索機能によって目当ての世界を探し出せる事、イグシストの紀元、そしてイグシストをここに連れて来ることが出来ればイグシストを消滅させる事ができる事、どれも世界図書館が欲してやまない貴重な情報ばかりだった。 …それでも私のこの苛立ちは収まる事はなかった。先程見たあの夢が頭の片隅のどこかで引っ掛かっていた。あの夢の中での出来事は何だったのか、私は無駄だと思いながらもその疑問をワールドオーダーにぶつけた。 「ちょっといいかしら?」 『はい』 「あなたは誰?」 『ワールドオーダーです』 「私は誰?」 『それはあなたにしかわかりません』 違う。私が聞きたいのはこんな事じゃない。軽く深呼吸して気持ちを落ち着かせると、今度こそ引き出したい疑問を投げ付けた。 「世界を検索して頂戴。※※※で※※※の※※※な世界はいくつあるの?」 『その条件に合致する世界は1個だけです』 まぁ、それはそうだ。こんな質問はここで聞くまでもない。長い事ロストナンバーをやっていれば誰でもわかる簡単な事だ。 「…私は、ここに来る前に『ここに来た時』の夢を見たわ。この夢には一体何の意味があるの?」 ワールドオーダーは答えなかった。…が、しばしの沈黙の後、今までの事務的な態度とは違った人間味溢れる言葉がワールドオーダーから返ってきた。 『その夢の中での出来事を理解する情報は、既にあなたの中に蓄積されている筈です。…旅を続けなさい。あなたがあなたであり続けたいのであれば』 |
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ロストレイルの車窓から ~明晰無~ その2
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幸せの魔女(cyxm2318) 2014-02-14(金) 22:20 |
結局、その言葉の意味はわからなかった。帰りのロストレイルの中で窓の外を眺めながら思考を巡らせてみるも、わからない事だらけで私の心はディラックの空のようにどんよりと黒ずんでいる。仲間達は元の世界への帰属ができる可能性が見付かった事で大はしゃぎだが、相変わらず私は遠い目で憂鬱に浸ってばかりだった。元の世界への帰属を望もうにも、私はもう自分の元いた世界に未練は無い。だったら他の世界へ再帰属でも望んでみようかしら?インヤンガイならば多少の縁はある、少し頑張れば再帰属は難しくないだろう。壱番世界へも、私が0世界で経営しているゲームセンターの同業者であるマフィアさんを色仕掛けでもしてたらしこめば普通に可能だ。他にもヴォロスだって、ブルーインブルーだって… …そこで私は考えるのをやめた。そんなのは私の求めている幸せじゃない。単に、自分は幸福者だと納得させているだけだ。その程度のちっぽけな幸せで満足してたら、あの世で再び会う約束をしている愛しのあの人に会わせる顔がない。ねぇ、そうでしょう?無名…いえ、情報屋さん?
もう疲れた。考えるのも何だか億劫になってきた。まるで200年以上は眠りについてたんじゃないかって位に体が重い。ターミナルに帰ったら軽く腹ごなしをしてお風呂に入って、それこらもう一眠りね。考えを纏めるのはそれからにしましょう。
ディラックの空を飛んでいる白い鳩のようなものを眺めながら、私は心地よいまどろみに身を委ねていた。 |
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あとがきみたいなもの
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幸せの魔女(cyxm2318) 2014-02-14(金) 22:30 |
SSの中にどこがで見た事あるようなPCさんが多数登場しておりますが、PLさんには全く許可を頂いておりません。「勝手にうちの子を使わないで欲しい」等の苦情がありましたら遠慮なくメールでお知らせ下さい。内容を編集させて頂きますし、場合によっては投稿SSの削除も考えております。
リーリスさんへ
あの時に果たせなかった約束を、今果たしましょう。250年後のターミナルでお待ちしております。
エピローグシナリオ「遥か彼方の」担当WR様へ
これから一緒に今から一緒に(伏線回収を放棄した運営を)殴りに行こうか!(ヤーヤーヤー) …本当に殴りに行く訳じゃ、ないですよ? |