「【偽シナリオ】瓦礫だらけのお茶会へ」、大変長らくお待たせいたしました、結果ノベル公開です。/広大で色鮮やかな庭園の中に聳える階段の塔と、住民達が住まう館が建つ拠点。

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クアール・ディクローズ(ctpw8917) 2010-05-27(木) 09:01
 初めまして、若しくはお久しぶりです。
 この度は当拠点にお越し頂き、誠にありがとうございます。

 ここは同一世界から訪れた8人と、壱番世界の出身者1人+aが集い、『拠点』と称して生活している小屋です。
 住民である9人は、拠点内のどこかでのんびりと過ごしています。

※稀にPL(ディクロさん)が、偽シナリオをちまちま出してます。

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[237] 【偽シナリオ】瓦礫だらけのお茶会へ
ノラ・グース(cxmv1112) 2012-10-12(金) 14:01
看板「“博物館”建築予定地   おちゃかいかいじょう」

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「おちゃかいしたいのです」

 “博物館”建築予定地としている場所に戻り次第、茶色いブルゾンを着込んだ青年はそんな声を耳にした。
 目前には瓦礫の台の側でぐったりとしている茶トラ模様の猫、ノラ・グースと、それを宥めるカラカル頭の悪魔、テリガン・ウルグナズがいた。
「二人とも、無事で何より」
「リーダー! 良かった、リーダーも無事みたいだな」
「だいぶ疲れたけどね。 ……ノラは大丈夫? かなり元気がないみたいだけど」
 青年がノラを気遣うように視線を流せば、ノラに反して活発な返事をしてみせたテリガンは「よく聞いてくれた」と頷いた。
「図書館の被害については聞いてる? 建物もそうだけど、特に重要なのは……そうだ、世界計が壊れたって話」
「……修理に一月近くは掛かるって話なら聞いた。 それがノラとどう関係が?」
「世界計がないと異世界旅行に出れないだろ?」
 原因はソレだ、と紫色の蛇舌をちろりとさせながら、テリガンもノラを見遣った。 
「この戦いが終わったら“モフトピアでお茶会するのですー”って言ってたから」
「へぇ……」
「リアクション薄いな」
 しかしお茶は好きだが“茶会”に馴染みのない青年は首を傾げる。 人々との交流を幸福としない彼には、ノラの哀しみにピンと来ないのだ。 そもそもなぜモフトピアなのだろうと思い、青年は改めてそれを口にする。
「……お茶会ならモフトピアじゃなくても、ここですればいいんじゃないの」
「看板と瓦礫しかねェ所で? そりゃ流石にムリだろリーダー」
「ナレッジキューブは」
「殆どバレンフォールっていうじーさんの兵器につぎ込んじゃったらしいぜ」
「……計画性のカケラもない」
「そりゃーココが滅ぶか滅ばないかの瀬戸際だったんだから、仕方ないんじゃん?」

「……おちゃかいしたいのです、じゅんびもしっかりしてたのです、一月も待てないのです、楽しみにしてたのですぅ~」

 青年と悪魔が話し込んでいる最中も、お茶会をこよなく愛する猫又はめそめそと涙ぐんでいた。 かなり楽しみにしていたらしく、傍らに何枚も用意されていた手書きの招待状がどっさり。 今となっては寂しさを演出させるアイテムとなっていた。 青年は首を横に振りつつも、手にした携帯電話を開いていた。

「エク、予定地まで急いで」


 ※ ※ ※


「おっちゃかい、おっちゃかい♪」
「やれやれ……、コレで満足かい、リーダー」
「少なくともノラは満足そうだよ、エク」
 “博物館”建築予定地と書かれた看板と瓦礫しかなかった空き地は今や、絢爛豪華な調度品に溢れたパーティ会場となっていた。 セレブリティ溢れるテーブルやチェアは勿論、ティーポットやカップに至ってもロイアル式の最上級品ばかり取り揃えられている。 それを自慢げにポケットから取り出してみせた黒豹の獣人――エク・シュヴァイスはウインクしてみせた。
「ところで貴方からは報酬をまだ頂いてないんだがな、リーダー? 今回のコレもそうだが、トレインウォーでのフォローに関しても」
「期限はいつまで? 今は持ち合わせがないんだ」
「そう来ると思ってたよ。 じゃ、今回もツケにしとくぜ」
 エクのお蔭で設備が整い笑顔ではしゃぐノラ、金ぴかなティーカップを凝視し固まるテリガンを眺める青年は、相変わらずの仏頂面で応答する。 エクもそれに慣れているのだろう、つまらなそうな表情を一瞬だけ青年に見せつけた後、跳ねるノラを捕まえた。
「で? ぼうや、その招待状には送る宛はあるのか?」
「はいなのです! 実はもうお一人様のお名前は書いてあるのです、他の招待状は、広場辺りで配るのですー」
 ぴっ、とノラが差し出した招待状をエクが受け取り、宛名を見る。 首を傾げたエクの横から、青年が顔を出した。
「……リエ・フー? あぁ、ネリムから話を聞いてる」
「はい、ネリムさんがお助けいただいたとお伺いしてるので、お礼を兼ねてのご招待なのですー♪」
「へぇ。 ……テリガンも何か書いてるみたいだけど」
「ああ、オイラはコイツね」
 ノラに次いでテリガンが書き殴った招待状を青年が受け取る。 そこに記されていた名には、青年も身に覚えがあった。
「…………オズ/TMX-SLM57-P? 前に話してた怖いデクノボー。 ……随分と大冒険するね」
「デクノボー、っていうかロボ? 出会い頭に毎日冒険したくねーし、ここいらでちょいと関係修復をと思ってさ……」
「お茶会の最中に喧嘩したら、二人纏めてどっかに転移させるから、そのつもりでお願い」
「……りょーかいしました」


 その数分後、復興作業が進む駅前広場には、こんな内容の招待状がばら撒かれることになる。

『お茶会へ皆様をご招待いたしますです。 “博物館”へようこそ!』
〜〜発言が6件、省略されました〜〜
[244] 【参加表明】

バナー(cptd2674) 2012-10-13(土) 13:30
あ、お茶会の招待状だー。
確か、この前、物好き屋さんと一緒だったこと、あったねー。
いたら、今度もよろしくだよー。
[245] 参加者確定、OPノベル
ノラ・グース(cxmv1112) 2012-10-13(土) 23:07
「お茶会ですー、お茶会やってるのですー」
 旅団の攻撃により荒廃した駅前広場で招待状を配っているノラは張り切っていた。 前々から願っていた「図書館の人たちとのお茶会」がようやく実現するのだから、自慢のヒゲはもちろん、尻尾が二本ともぴんと張っている。
「お茶会なのですー、復興作業の合間にお茶会どうぞーなのですー」
 ぴっ、と差し出す招待状にはどれにも歯車を象ったエンブレムが描かれている。 それ自体はノラの手書きであるため形はまちまちだが、そのどれもがしっかりとした線をしていた。
 そして、そんな招待状を受け取る人がまた一人。
「……ほう、お茶会か」
 その背に白銀の翼を持つ女将軍、アマリリス・リーゼンブルグ。 今回の“戦争”により、久方ぶりにここターミナルへ戻ってきたばかりだ。
「ふむ、顔見知りはいないだろうが……少し覗いてみるかな」
「ぜひぜひどうぞなのですー。 ……はっ」
 好意的な反応を返したアマリリスへ笑顔を向けた後、ノラはある人の姿を見かけて手を振った。 先のトレインウォーでは共に行動していた人の名を叫ぶ。
「医龍さーん、お茶会しましょうなのですー」
「これはノラ様、お元気そうで何よりでございます。 ……お茶会ですか?」
「はいなのです、お茶会なのです、医龍さんもぜひぜひー」
 ぱっと手渡された招待状を受け取り、医龍・KSC/AW-05Sもまた笑顔を返した。

 ※ ※ ※

「瓦礫の中でのお茶会だなんて優雅さの欠片も無さそうだけれども……」
「ほとんど強行だからな。 よく人が来てくれたなって驚いてるよ」
 招待状を受け取り、興味もあったしせっかくだからとやってきたのは黄金の魔女。 名の通り黄金のドレスを身に纏い、気品に溢れた彼女を翡翠の眼をした少年――ネリム・ラルヴァローグが瓦礫だらけの会場を一瞥しながら出迎えた。
「“博物館”へようこそ。 ――まだ建物すら建ってないけどな」
「……見たところ、スタッフは子供ばかり? まさか、とは思うけど……禁煙なんてことは無いわよね?」
 目前にいるネリムや、会場中を箒掛けで掃除しているテリガン、そして童顔故に未成年と誤解されやすい青年――物好き屋を見た後、ふと疑問を口にする。 喫煙所がないかと顔を横に向けたとき。
「喫煙スペースはこちらになります。 “博物館”はなぜだか鼻が利くものばかりが集まっていてね」
 魔女の正面に、ご不便をおかけして申し訳ないと微笑む黒豹の獣人がいた。 彼が手を翳すほうには一回り小さなテーブルと灰皿が設置されている。
「ご所望であれば、ワインの類もこちらでどうぞ。 会場は廃墟染みていますが、品だけはある」

 黄金の魔女への対応をエクに委ねたネリムは、他の来客よりも一足早く会場へ来ていた少年の方へ向かう。 肩に乗っている狐にも彼には見覚えがあった。
「ノラに呼ばれたのか」
「タダ飯食えるなら断る理由はねえ」
 テーブルの上の菓子や料理に目を向けていたリエ・フーは、くるりとネリムの方を向き直る。 へらりとしたリエの表情は一瞬だけ固まった。
「その傷」
「戦闘に巻き込まれただけだ。 すぐ治る」
 かつての敵――同じ荷台に揺られた仲であるネリムの顔には、額と左目を覆うように包帯が巻かれていた。 傷のことを尋ねられると、ネリムはリエの横を通り過ぎて適当な席に腰掛ける。 丁度、リエの視界から左目の傷が隠れる位置だ。
「(俺のダチ……って呼んでいいのか微妙だが、その手の奴らはどうしてこうもひねくれてんのかね)」

「我輩は構造上、茶は飲めない」
「見ればわかる」
「……あのような招待状を送りつけておいて貴様、喧嘩を売っているのか?」
「ボーリョクハンタイデス、つか、どんなの食べるの? むしろ食えるの??」
 メールによる招待客はここにも居た。 オズ/TMX-SLM57-Pは早速テリガンに声を掛けられていたが、そもそもロボットである彼は“普通の”飲食物は口にしない。 故にテリガンもその辺りの対応をどうするべきか悩んでいた。
「複合高濃縮型エネルギー触媒【SPR-1037】でいい」
「えっ?」
「……といいたいが、この惨状じゃそんな希少品も望めまい。 量産品なのが不満だが、【MA-365】があればそれでいい」
「……えっ??」
 とりあえずエクを呼ぼう、そう思ったテリガンはすぐに喫煙スペースへ、黄金の魔女をエスコートするエクに手を振った。

「物好き屋さーん、この前も一緒だったよね、スイーツおいしかったなぁ」
「ああ、君はたしか……バナーくん。 久しぶり」
 かつては物好き屋とお一人様仲間だったリス、バナーは会場の隅に腰掛けていた物好き屋を見つけた。 彼は瓦礫のなかでも高く突起している石柱の上に腰掛け、黒いスケッチブックを開いている。
「そんなところでなにしてるのー? 一緒にお茶会しようよー」
 バナーが手を振って誘うも、物好き屋は一度軽く微笑み返してから、またスケッチブックへと視線を戻してしまう。 すたたっ、と石柱を昇り物好き屋の側へ向かったバナーは、彼が持つスケッチブックを覗き見れば。
「……これ、お茶会の会場?」
「模写。 絵の練習にもなるから」
「物好き屋さん、絵を描く人なの?」
「……描いてた人、かな。 あ、また人が来たみたい」
 なんだか賑やかになりそうだと呟く視線の先には、一風変わった来客も姿を見せていた。

「ふおおぉぉぉ……!」
「ニコラウス様、お久しぶりでございますね」
「魔法少女いんてり☆いりゅーではないかっ! やや、あちらにはめかにか☆おずまでおるぅ~!」
 ニコラウス・ソルベルグはふわっふわな魔法少女衣装……ではなく、普段着のチェックなワイシャツ姿でも相変わらずだった。

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 参加者一覧
 リエ・フー
 オズ/TMX-SLM57-P
 アマリリス・リーゼンブルグ
 黄金の魔女
 医龍・KSC/AW-05S
 バナー 
[246] お茶会、スタッフ一覧
ノラ・グース(cxmv1112) 2012-10-13(土) 23:25
※スタッフについて
 “博物館”のメンバー……お茶会スタッフはそれぞれ別々の位置にいます。
 プレイングを記入する際に、ちまっとした参考になれればと思います。

・物好き屋(リーダー)
 会場の隅っこにある瓦礫の上から、会場を眺めつつスケッチブックに絵を描いています。
 彼の近くには、タリス(cxvm7259)が来ているようです。

・ノラ・グース
 会場の大きなテーブルの側、中央辺りでお茶を淹れながら談笑を楽しんでいます。
 大きなテーブルには、お菓子や洋風の料理も取り揃えられているようです。
 彼の近くには、ブレイク(cybt3247)が来ています。

・ネリム・ラルヴァローグ
 会場の大きなテーブルの側、端で席に座ってゆったりとしています。
 戦闘に巻き込まれ、顔(額と左目辺り)に傷を負ったようです。
 彼の近くには、オルグ(cuxr9072)が来ているようです。

・テリガン・ウルグナズ
 会場中を走り回っています、ウエイターの役です。
 名を呼べばどこからともなくやってくるでしょう。

・ニコラウス・ソルベルグ
 会場中を歩き回っています、ウエイターの役です。
 名を呼べばゆっくりとやって来ます、“博物館”の新規メンバーになっているようです。

・エク・シュヴァイス
 会場の端にある小さなテーブル、喫煙スペースでワインを嗜んでます。
 喫煙スペースにはワインの類が置いてあるので、お酒が好みなお方はこちらへどうぞ。
[247] 結果ノベル
ノラ・グース(cxmv1112) 2013-03-06(水) 00:58
1.虎と狼

「ほらよ」
「? お土産なのですー?」
 包みを受け取ったお茶会の主催者、ノラはきょと、と小首を傾げていた。 すんすんと鼻を鳴らすと、微かに甘い餡の香りが漂っている。
「ここにゃいずれ“博物館”が建つんだろ? それの前祝みたいなモンだ、遠慮なく食いやがれ」
「あうあう、ありがとうございますなのですー」
 ほくほくなのです、と微笑み髭をふにゃふにゃとさせて喜ぶ猫又から振り返った少年――リエ・フーは、そのままテーブルの隅にある席に腰を下ろす。 その隣に座っていたネリムの方へ視線を流せば、その人物は別の誰かに声を掛けられていた。
「御初にお目にかかります。 ワタクシ、医療スタッフとして働かせて頂いております医龍と申します者に御座います」
 お見知り置きのほどを、と頭を垂れるのは白の翼竜――医龍・KSC/AW-05S。 医療スタッフでもある彼が真っ先にネリムへと声を掛ける理由は一目で分かった。 声を掛けられたネリムと言えば、包帯に覆われていない右目だけを医龍へと向け「どうも」と返した。
「先の戦争でお怪我をなされたので御座いますね」
「ああ、まぁ……大したことない、すぐ治る」
「ですがその患部です、万一という場合、傷が神経にまで達していれば……」
 包帯に覆われた患部……ネリムの左目辺りを見据える医龍の言葉に、ネリムは視線を逸らした。 テーブルの上でちょこんと佇む子狐と子猫――リエのセクタンである楊貴妃と、ネリムの使い魔であるカノだ――も不安げな表情だ。 ネリムはため息をついた。
『ネリム様、おけがはだいじょうぶなのにゃ?』
「大丈夫だよ。 ……カノが心配するから、あまり大事にしないでほしいんだけど」
「けど片目ってのは不自由じゃねぇか? せっかく名医がそこにいるんだ、診て貰えよ」
 無理強いはしねェけど、と戸惑うネリムをリエがやんわりと諭すと、医龍もトラベルギアの救急箱をいそいそと取り出す。 ネリムはテーブル側へ顔を背ければ、その向かいからからからと笑い声が聞こえた。
「心配されるのには慣れてねぇってな、なぁネリム?」
「……オルグ。 いや、そんなワケじゃ」
「安心しろよ、ここにはお前を爪弾きにするヤツなんかいねぇから」
 向かいの席でコーヒーの煙を燻らせながら語る金色の狼、オルグの言葉にネリムはついに俯いた。 崩壊する前のホワイトタワーで尋問を担当しており、かつ同一世界の出身と知れたからか、オルグはネリムの素性に詳しくなっていた。 それ以前に親譲りの「瞳」を持つ彼には、ネリムが思うこともわかっているのだろう。
 やがてネリムは観念したように、顔半分を覆う包帯に手を掛ける。 慣れた手つきで解かれる包帯の下から現れた栗色の髪。 その隙間からぴこんと何かが飛び出した。
「……傷はもう治ってる。 悪かったな、騙すつもりじゃなかったんだけど」
 包帯が解かれたネリムの額には傷はあったが、適切な処置を施された甲斐あってか傷口は塞がっていた。 念のため、と傷口を注目する医龍の横で、リエはくくっ、と笑う。 視線の先には栗色の髪の間から覗いている獣の耳、尖ったその形は狼のそれによく似ていた。
「どっちかって言うと、隠すつもりだったってコトか」 
「……半獣化したほうが、傷の治りが早いからさ。 癖になってんだよ、怪我したら決まって頭に包帯ってのがさ」
 獣耳を隠すための包帯を鞄に仕舞うネリムの隣の席にリエが腰掛ける頃、医龍も診察を終えたようで救急箱を仕舞う。 お大事に、と微笑んだ医龍はスポーツバッグを抱えてその場を後にした。
「さて、俺はコーヒーのおかわりでも貰ってくるかね」
 次いでオルグも席を立ちその場を離れようとする。 ネリムとすれ違う時、彼の肩をぽんと叩いた後、その手を振りながら離れていった。

「怪我をしたら、包帯は大袈裟に巻くといい」
「ん」
 手近にあったジャスミンティー入りのカップを片手に持ったまま、リエは隣からぽつりと呟いたネリムへ視線を向ける。 狼の耳をぺたりと寝かせたネリムは薄く笑っていた。
「……“あの人”からの教えだ」
「ああ、あん時言ってた憧れの人か。 ……どんな奴だ?」
 独り言とも取れる呟き、その中にある憧れの人のことを尋ねれば、ネリムはきょとんとした様子でリエの方を向く。
「何、ただの詮索好きの好奇心だ。あの時のてめえの顔が年相応にガキっぽくて、妙に心に残っちまったんだよ」
「……実年齢で換算すれば五十過ぎだ、子供じゃない。 そういうお前こそ……、やっぱいい」
 荷台で話した時のように――今回は探るようにではなく、友人として――、へらりと笑いかければ、ネリムは「コイツ絶対オレより年上だろ」と呟き視線を逸らした。 そうやってムキになるところがガキっぽいんだ、という言の葉を胸にしまいつつリエは話の続きを促す。
「包帯は大袈裟に、ってのは」
「怪我したら誰だって痛いんだってコトを、石やらなんやらをぶつけてくるヤツらに分からせる意味もあったらしい。 あの時代は、オレみたいな“混血”は珍しかったからな。 人間じゃなくて、獣人でもない……そんなオレを初めて受け入れてくれたのがあの人だ。 始めは殺されるんじゃないか、騙されるんじゃないか、そう思ったけど……、気が付いたらあの人の群れの仲間になれてた。 あの人……アイギルス様に出会えていなかったら、今のオレは無かっただろうな」
 かたり、とネリムが持つ空のカップがソーサーの上に置かれた、逸らされていた視線がリエへと返される。
「今度はそっちだ。 リエ……だったな、お前にはそういう……憧れてる人っていうのはいるのか?」
「オレの憧れの人か……、そうだな、生き別れた親父になんのかね。 顔も覚えてねえけど、あのお袋が心底惚れた男だ。 どんな奴か会ってみてえ」
「……? 父親の記憶はないのか?」
「風の噂じゃあ東の島国から来た軍人か諜報員か、てなことを聞くんだがな……それ以外はさっぱりだ」
 娼婦の子として生まれ、その母からの薫陶を受けて育ったからその記憶は今も根強く残っている。 けれどその母が愛したと言う男――リエにとっては父となる男の事はまるで覚えていないのだと語る。 顔を知らなければ名も知れず、その夫婦が互いのどれに惹かれて愛し合ったのかさえも、知らずに今までを生きてきたのだと。 ネリムは目を伏せて「そうか」と返し、空になっていたリエのカップに紅茶を注ぎ入れた。
「案外ロストナンバーとして覚醒してたりしてな」
「有り得ない話でもないな、お前やオレみたいにしぶとく生き延びてるかもしれない」
「だと……いいがな。 人生で初めて出会う手本なせいか、身内への情ってなァ本当厄介だぜ」
「まったくだ」

「つきもちー、つきもちうまうまなのですー」
「それは“月餅”と書いて“げっぺい”と読むんだよ、ノラ君」
「って、コラァ! 一人で全部食うなーっ!」
 中央の方では、リエが手土産として持ち込んだ月餅――ユエピンとも読む、中国菓子を突付いている面々がいる。 かつては図書館と旅団、それぞれ別の組織に属していた者同士は今、こうして一つのお茶会に同席している。 向かいの席では楊貴妃とカノが同じ皿に乗せられたビスケットを摘んでいる。
「戦争は終わった、こうなりゃ旅団も図書館もねえ」
「問題はまだ山積みだけどな。 けど……なんとかなるだろ」
 問題はまだ多いが、リエの言葉の通り旅団と図書館のロストナンバーが面と向かって対立し合うことはないだろう。 このお茶会が何よりの証拠だと笑むネリムの横顔を見て、リエも笑い出す。 しかしその笑みもすぐに引っ込んだ。
「俺のダチ……グレイズってんだが、旅団に渡って行方知れずだ。 あいつとお前、よく似てる」
「えっ?」
「とんがって人を寄せつけねえとこや、危なっかしくてほっとけねえとこがそっくりだ。 ま、こっちに来てから少しは丸くなったみてえだがな」
「……何だよ、それ」
「だから、俺は……」
 ネリムは首を傾げて、リエをじぃっと見ている。 その目の前でリエは紅茶を口に含み、

「なんでもねえ、忘れてくれ」

 言いかけた、その言葉ごと飲み込んだ。


 2.悪魔達の密談

「さて、テリガン・ウルグナズよ」
「どーしたんだい、オズ/TMX-SLM57-Pさんや」
 いきなりフルネームで呼び合う二人にはいくつかの因縁があった。 ちなみにテリガンは苦笑いのままカンペを持参している。
「あ、月餅食う?」
「いらん。 まずはあのニコラウス事件から見ていこうか」
 ニコラウス事件。 今こそは図書館に保護されお菓子や紅茶を運んでいる老人ニコラウス・ソルベルグが関与している事柄だ。 テリガンが件の老人に接触し、“契約”を結んだ後にナラゴニアへ連れ去ろうとした。 そこへ図書館勢力であるオズ達と遭遇、その結果テリガンが持ちかけた“契約”は阻止され、負傷したニコラウスの身柄は図書館が確保する形となった。 報告書に記されているのは以上の事柄である。 だがそれ以上に、その事件の当事者であるテリガンには気がかりなことがあった。
「あー。 なんかあん時のアンタのテンションさ、スカウトダブりの争奪戦ってカンジじゃなかったけど……何かあったの??」
 オズに同行していた蜘蛛女が憤怒していた理由――壱番世界の素人が「魔法少女」、すなわち魔女を騙るその行為にキレた理由は分かる。 しかしオズが自分を目の敵にしていた理由までは分からないと、テリガンは頬杖を突きながら首を捻った。 オズは唸るように音声を発した。
「我輩があの事件で貴様を狙ったのは、貴様が迂闊にも我輩の領分を犯して調子に乗ったからだ」
「リョーブン、ねぇ。 そういやアンタにゃモデルがいたな?」
 ここでテリガンのニヤケ面がピタリと固まる。 ネコ科特有の眼をすぅっと細め、“ドウギョウ”の次の言葉を待っている。
「故に、関係修復をするなら領分をはっきりと決めておこうではないか。 貴様の領分は力と願い、だったな。 我輩の……序列57の地獄の大総裁としての領分は変身と幻惑だ。 変身と幻惑に関する願いを叶えなければ我輩はそれで構わん」
「なるほど、まぁあの時のじーさんの変わりっぷりは確かに“変身”って言ってもいい状況かもしれねーしなぁ。 けどいきなり殺る気満々なのはマジ勘弁」
 土産の月餅を頬張りつつ、テリガンは傍らに置いたスーツケースを手に取る。 中からノートパソコンを取り出して起動させ、キーボートをかたかたと叩き始めた。 初対面の時より若干の余裕が見受けられ、オズの唸り声はまだ止まない。 やがて壱番世界の中でも最新鋭のスペックを誇る小型画面には、オズのモデルになった悪魔の詳細が記されていた。
「ソロモン72柱の魔神が一柱、3、若しくは30の軍隊を率いる悪魔。 教養学にも富んでて、神学や秘密事に正しく答える力がある。 そしてそれこそアンタが言う変身と幻惑の力は当然ある……か……。 あぁ、アンタのその格好、豹だったんだ。 青い装甲は鎧ってコトでオーケー?」
「貴様、悪魔のくせにそのようなことも知らなかったのか」
「そりゃーオイラの世界にゃそんなのいないし。 つか、メカメカしてるアンタの世界にこんな悪魔学や知識があって、それが壱番世界のソレとダブってることにビックリだね」
 「ん、これ旨いな」と月餅を次々と平らげ、用が済んだノートパソコンを折りたたんだ頃、テリガンはふと首を傾げる。 それからゆっくりとオズの方へ向き直れば、何を言えばいいのかわからないと言った、引きつった笑みと疑いの眼差しをオズに向けた。 オズの思考AIが刺激される。
「何か、言いたいことがあるようだな」
 自然と、腰に下げているブレードの柄へと手が伸びる。 それをみてビクリと肩を竦めるテリガンは「抜くなよ、絶対抜くなよ!?」と必死に前置きをした後。

「……てかアンタ、変身と幻惑なんて力……、ホントに」
「それ以上はいかんのじゃぁー!!」

 迂闊な禁句は、真後ろから聞こえる大声によって阻まれた。 先ほどからテリガンとオズの密談を盗み聞きしていた老人ニコラウス・ソルベルグが二人の間に割って入り、テリガンの肩をがっしりと掴み、携帯電話のバイブレーションを連想させるほどがたがたと揺らし始めた。
「魔法少女の三大鉄則は努力! 友情! そして勝利! 魔法少女めかにか☆おずは大きな努力を乗り越えたその先に新たなマジックパワーである変身と幻惑を得るのじゃよ! たとえ今はなくとも、いずれ、必ずやー!!」
「ええい、変身と幻惑の機能はそんな三大鉄則など無くともいずれ実装予定だ! これ以上とやかく言うなら貴様らまとめて斬る!」
「ちょ、まっ、ぼーりょくはんたーい! ってかじーさん力入れすぎってか揺らしすぎー!」

「おや、随分と賑わっているようでございますね」
 比較的話を聞かない闖入者が乱入し、今にもオズがブレードを抜きそうな雰囲気の中、勇敢にも(?)声を掛ける者がいた。 先ほどまでネリムの診察をしていた医龍がスポーツバッグを片手にニコリとしている。
「おおぅ、待っておったぞいんてり☆いりゅー!」
 その声に答えたニコラウスはくるっと方向転換をし、老人とは思えぬ高速ダッシュで医龍の真ん前へと躍り出る。 激しく揺さぶられている中、急に手を離されたテリガンは椅子ごと後ろに倒れる。 床に後頭部を打ち付け痛い痛いとのた打ち回るテリガンを医龍が助け起こした頃にはオズも興奮が冷め、ブレードから手を離していた。 テリガンの治療がざっくり済んだ後、医龍は大事そうに持っていたスポーツバッグの封印を解き始める。
「ニコラウス様にお見せする為に用意して参りました。ワタクシの衣装は勿論ですが、ニコラウス様とオズ様の分もございますよ」
「待てキサラギの。 今、『オズ様の分』と言ったか」
「ええ、もちろん」
 リリイ様に特注依頼させて頂きました、と語りながら取り出した衣装――フリルたっぷりのひらひらスカート、ラメが散りばめられキラキラしている魔法少女衣装――は、全部で三着。 その内二つはニコラウスと医龍用の衣装らしいが、ニコラウス事件当時に着ていたそれよりも格段にパワーアップしていた。 そしてもう一着……一際大きい青の魔法少女衣装はオズの為に作られたもののようだった。 リリイもよく引き受けてくれたものである。
「以前、オススメした衣装を改良して頂いたのです。 さあ、オズ様」
「ぶっははははは! いいじゃん着てみれば、ぜってー似合うって、なぁ!」
「貴様……余計なことを」
 にっこり笑顔の医龍と、今にもブレードで両断してしまいたい衣装を前にオズの思考はヒート寸前だった。 端から見ているテリガンが腹を抱えながら着ろ着ろと嘲笑うが、そんな彼の肩に再び手が置かれる。 ニコラウスかと思い視線をそちらに向けると、テリガンもまた固まった。 三着しかないと思われた衣装のイレギュラー、四着目が――橙色の魔法少女衣装、アクセントに赤や黄色のラインが描かれている――、そこにある。
「めかにか☆おずをこの場に招いた理由は知っておるぞテリガンよ。 確か……関係修復じゃったな、そうじゃろう?」
「……ソウデスケド。 じーさんなにそれ、どっから持ってきたのってかそれどうするつもり」
 引きつった笑顔を浮かべることしかできないテリガンの問いに対し、愚問じゃなと笑む老人の瞳がギラリと危ない光を放つ。 そして高らかに叫ぶ。
「ならば即ちぃ! この魔法少女のふりっふり衣装を二人仲良く着てしまえばそれこそ関係修復の上を行く友好の証じゃろがーい!!」
「そう来ると思ったァー!! 何でオイラまで着なきゃいけないんだよ!? いいじゃんそこのめかにか? めかにかだけで満足しちゃえよ!」
「いやじゃいやじゃあ、テリにゃんも着てくれなきゃ6人揃わん、魔法少女戦隊にならぬのじゃぁ~~!」
「え、魔法少女ってそういう設定あるの? ってかナニ、既に4人もいたの!? いやいや戦隊って大体5人編成じゃ……ってま、ちょっと!?」
 身の危険を感じ腕を振り払おうにも、コンダクター補正によって力を得た魔法少女(翁)の情熱を曲げることは叶わない。 がっしりと、まるで蜘蛛に捕われた哀れな獲物のようにがっしりとキャプチャーされた悪魔は会場から少しずつフェードアウトしていく。 去る『ドウギョウ』の行く先には、誰が組み立てたのだろう一人用のテントが置いてあった。 それで全てを察したテリガンは、瓦礫の上にいるはずの物好き屋を見やるが――、彼は既にそこにはいなかった。
 悪魔らしからぬ悲鳴がテントに吸い込まれ、オズはふぅ、と機械であるはずなのにため息をつく。 が、彼もまだ逃れられない運命だった。 目の前で大柄の魔法少女衣装を翳す医龍が、全く悪意のない笑みで宣告する。

「友好の証をどうぞ、オズ様」


3.黄金と漆黒

「……アイツら、一体何やってんだ」
 悪魔や人工竜、戦闘ロボットに魔法大好き老人の密会の行く末を、喫煙コーナーで――煙草は勿論、紅茶では満足できない紳士淑女のために、資材提供者が独断で設けたゾーンである――見届けていた黒豹の獣人にして博物館の資材提供者、エク・シュヴァイスは顔を顰めた。 
「小蜘蛛とじゃれてた愚かな男ね、私の方に向かってくる前に宙に浮いてたわ」
 エクの丸い耳がぴくりと動く。 彼の背後から密談の一部始終を眺めていた女性――黄金の魔女が煙を燻らせながら答えた。 直接相手をしたことはないが、顔見知りの魔女にエリアルコンボを受けているところをたまたま目撃したのだと言う。 0世界で言う「魔女」の殆どは「アンダーランド」という世界の出身者でもあるそうだが、0世界にとって新参者であるエクはその件に関して未調査だった。
「男なのに女性の姿形になりたがる感性……、私には理解しがたいものです」
「同感ね。 壱番世界の御伽話には男の魔女もいるそうだけど」
「所詮は御伽話です。 それを事実と示す物証があるわけでもない。 ……と、これは失礼、お飲み物は何になさいますか?」
 振り返ったエクは、目の前の招待客が何も手に持っていないことに気がつき視線とテーブルへと向ける。 エク自身が調達したと言うワインや、それを受けるためのグラス、そしてノラが一生懸命作ったと言うビスケットなどの菓子類や飾りの花などが円形のテーブルを彩るなか、一つだけ馴染みのないものが置かれていた。
 それは黄金で出来た篭手だった。 手首までを覆う板金は勿論、複雑な動作を要求される指の関節部、その全てが黄金――いや、純金で構築されていた。 エクは黄金の魔女の正式な名を脳裏に描きながら、ワイングラスを一つ手繰り寄せる。
「生憎、"黄金の舌"とも呼ばれる私の舌は安物のワインは受け付けなくてね。ブルゴーニュ産のアイスワインはあるかしら?」
「ブルゴーニュ産……。 ああ、少々お待ちを」
「それと……生憎と、私は透明なグラスでワインを飲む趣味は無いの」
 エクが目当てのボトルに手を伸ばすと同時に、黄金の魔女はテーブルに用意されていた透明なグラスに指先を当てる。 触れられたグラスは一瞬のうちに透明度を無くし、傍らに置かれた篭手と同様の輝きを放つ黄金のグラスと化した。 目の錯覚かと、ワインを手にしたエクの動作が一瞬止まる。 しかしそれは決して目の錯覚ではなかった。
「……『Witch of Midas』」
「不用意に魔女の、本来の名を口にしないことね。 このグラスのようになりたくなければ」
 目を見開いたまま、乗客名簿に記されていた本来の名を口走ったエクに向けて、黄金の魔女――『Witch of Midas』は透明“だった”グラスを、モノクル越しの金――エクの瞳の前に翳した。
『黄金の魔法』は、黄金の魔女が触れたもの全てを黄金に変えてしまう魔法。 鉄やガラスは勿論、生き物でさえも一瞬で物言わぬ金属へと変える力。 魔女達の世界でもその力を恐れ、彼女に近付くものはおらず、また彼女自身も他者との関わり合いを避けたという。 
「ワインを注いで頂けるかしら? 生憎、両手が塞がっていてボトルを持つ事が出来ないのよ」
「……ええ、ただいま」
 ブルゴーニュ産のワインボトルが開けられるまで、数秒の時が経過していた。 まず黄金の魔女が左手に持つ黄金のグラスにワインが注がれ、次いでエクも透明なグラスにワインを流し込む。 賑やかな竜と悪魔と人間達の密談組は二手に分かれてから会場は静かになってしまった為、ワインが注がれる水音は勿論、喫煙コーナーにいるお互いの息遣いが聞こえるほどに静かだった。 エクがグラスを持ち、黄金の魔女へ目線を送る。 黄金の魔女もそれに答え、グラスを翳す。

「魔女と黒豹だなんて、随分と理想的な巡り合わせだこと」
「そうですか。 貴女の理想に叶うことが出来て光栄です」
 かちん、と二色のグラスが重なった後、魔女と黒豹はグラスに口をつけた。

「――?」
 舌の先端に液体が触れ、魔女の動きはピタリと止まる。 ゆっくりとグラスを下げると、目の前では黒豹が、自分と同じように動きを止めている。 やがて自分が凝視されていることに気が付いたエクは、魔女から視線を逸らした後、ぽつりと震えた声で呟いた。


「……やられた」


 ――数分後。
 “本物の”ブルゴーニュ産アイスワインで気を取り直したエクが浮かない表情で語るのは、この“博物館”を仕切る“リーダー”こと、物好き屋と名乗る男の話。
「“博物館”のリーダー、物好き屋は大の酒嫌いでして。 私がこういったスペースを設けることを、もしかしたら、いや確実にノラよりも快く思っていなかったのでしょう。 だからって、来客に振舞うワインボトルの中身を市販のグレープジュースとすり替えるなんて……、やりすぎだろ……」
 その来客の前で口調を乱し、頭を抱えているエクを黄金の魔女はさぞ面白そうに眺めている。 0世界に来てからは「アンダーランド」に居た頃と異なり、他者との交流に興味を持ち始めた魔女にとって、他人の感情の移り変わる様は大変興味深いもので。 だからこそ、このお茶会に足を運んだのだが……目前の黒豹獣人は中々のお気に入りに登録されていた。
「流石に貴方ご自慢の“ポケット”の中身は無事だったようね。 お蔭で貴方を黄金に変えずに済んだわ」
「も、申し訳ございません。 それはご勘弁を」
 軽く睨みを入れて囁けば、気取った態度ばかり取っていたエクはびくりと肩を震わせた。 よくよく見れば、普通ならばピンと立っているはずの髭が下に曲がり、背の向こうで揺らめいているであろう尻尾は股の下で燻っている。 この黒豹もまた、かつての世界に自分を恐れた他の魔女たちと同様に、黄金の魔女を恐れているようだった。
「……」
 黄金の鎧が一歩、エクへ歩み寄れば、エクの肩はぴくりと微かに震える。 今のエクにあるのは、『一歩間違えれば、自分が黄金にされてしまうかもしれない』という恐怖心。 少なくとも、魔女はそう感じていた。
「実はこうやって殿方と面と向かって御話をするのは慣れないものでね」
 それでも魔女は、理想に叶う黒豹を試すように口を開く。 自分は来客で、黒豹はその持て成しをする立場にいる以前に、彼は『自分を甘く見られないように振舞うこと』で必死なのだ。
「みんな、この私を恐れて逃げ出してしまって色んな意味でお話にならないのよ。 でも仕方が無いことね、私が触れたものは皆、『黄金の魔法』によって変わってしまうんだもの。 貴方のスーツは勿論、艶やかな毛並みも、金色の瞳も全て、物言わぬ金属の塊に、ね」
「……」
 グラスを持たぬ手がさり気無くテーブルに置かれれば、白と銀を基調にデザインされた台から四つの足の先まで黄金に変わった。 ごくりと、息を呑む音が聞こえるほど、手を伸ばせば届いてしまうほどに二人の距離は近い。 尚も強がる黒豹に魔女は微笑みかける。
「貴方はこの私が怖くないの? それとも……」


 ――恐怖にじっと耐えているのかしら?


 微かに震える肩の向こうでは、ある種の“変身”を遂げてしまった悪魔のウェイターが顔を赤らめつつ女将軍に酌を注いでいたり、くせのある髪をした少年がワインを一本くすねていったりしていたが、そんなお茶会の光景を眺め、静かに楽しみながら、魔女はエクの言葉を待っていた。 再びエクは口を開いたのは、魔女が囁いてから数分の時が経った頃だった。

「お手に触れぬよう、気をつけさせて頂きます」



4.瓦礫塗れのお茶会

「ぼくはバナーだよー。 今回のお茶会、一緒に楽しもうねー」
 お茶会が始まる前、大きなリスのバナーは瓦礫を退けていくノラや、博物館の面々――お茶会のスタッフにそう声を掛けて回っていた。
「バナーさんようこそなのです、ぜひぜひ楽しんでいってくださいなのですー」
「うん。 招待してくれてありがとー! あ、そうだ」
 ほくほくとした笑顔で迎えてくれたノラへ、バナーはこのために用意したと言う包みを差し出した。 木の実の香ばしい香りから、果物の甘い香りまで漂ってくる。
「お茶会をやるって聞いたから、お菓子いっぱい持ってきちゃった。 秋だし、木の実もいっぱいあったんだよー」
 実りの季節だからねー、と微笑むバナーへ、ノラは「ありがとなのですー」とぺこぺこ頭を下げた。 つきもちも頂いたのでぜひー、と誘われたテーブルには、クッキーやらビスケットなどの素朴なお菓子が用意されていた。
「ノラもこのためにいっぱい、いーっぱい用意したのですー。 リーダーにも、少し手伝ってもらったのです」
 にこにことしたままカップに紅茶を注ぎ、それをバナーへ差し出したノラはきょろりと周囲を見回した。 それに釣られてバナーもノラの視線を追いかける。 やがて困ったように首を傾げてノラはまた笑う。
「リーダー、人がいーっぱいなところはニガテなのです」
「ええと。 リーダーって」
「あうあう、失礼しました。 皆さんが“物好き屋”さんと呼ばれているお方を、ノラ達は“リーダー”と呼んでるのです」
「そうなんだー。 物好き屋さんは、博物館のリーダーなんだねー」
「なのですー」
 ノラから紅茶を受け取り、向かった先は一際大きな瓦礫がある所。 そのてっぺんでは話の種にされているリーダーこと物好き屋がいた。 バナーが最初に声を掛けた時と同じく、スケッチブックにペンを走らせていた。
「物好き屋さーん、色々となんか食べないの? みんな集まってるんだし、賑わいながら食べようよー!」
 ぱたぱたと手を振るバナーに気付き、物好き屋は軽く微笑む。 やがて彼はスケッチブックを閉じると、瞬く間にそこから姿を消した。 バナーの後をついて来たノラは少し寂しげだ。
「リーダー、人込みはニガテなのです。 最近は少し慣れてきたと仰ってたのですがー」
「そうなんだ。 ともかくとして、ケーキはあるかなー?」
「もちろんなのです! リーダーがおいしいショートケーキをお土産に持ってきてくれたのですー♪」
「それ、もしかしてパティスリー・ポールのかなー? この前、物好き屋さん達と一緒に行ったんだよー」

 バナーと共に中央テーブルに戻ったノラがケーキを切り分けはじめる光景を、遠くで微笑む一人の女性がいた。
 アマリリス・リーゼンブルグ。 マキシマムトレインウォーを経て、ターミナルに戻ってきた有翼人の女将軍はゆるりと時を過ごしていた。 廃墟同然の建築予定地での茶会というものに興味を惹かれたが、それよりも絢爛豪華な調度品で溢れた会場に目を見張っていた。
「なんか飲む?」
 声のする方へ顔を向ければ、そこには先ほどまでスーツ姿だった悪魔がいた。 アグレッシブな老人によりテントに連れ込まれた後となった今では、橙色の魔法少女風ドレスに身を包み、顔は明後日の方向を向けていた。 毛皮で覆われているはずなのに、なぜか顔を赤らませているように見える。
「とても似合うよ」
「オイラは“なんか飲む?”って聞いたんだけど」
 本気の嫌顔を見せ付けるテリガンをどうにか宥め、アマリリスが持つカップにハーブティーが注がれたのは、それから数分後のことだった。 向かいではノラとバナーが、リエが持参した月餅をほくほく笑顔で摘んでいて、眺めているだけでも微笑ましい。 ウェイター業務を一通り済ませ、席についてアップルジュースを飲んでいたテリガンにお勧めのお菓子を訪ねれば、ぶっきらぼうにクラッカーを指差された。 側にはフルーツや生クリームなども置かれていて、「どーぞご自由にトッピングすれば」と声も飛んできた。

「……」
 瓦礫の中に人々の賑わう様を眺めながら、アマリリスは目を細め、そっと首元を手で押さえる。 その仕草に気付いたテリガンが目線だけを寄越し、アマリリスと同じように目を細めた。
 押えられた首元にはクランチの部品が埋め込まれていた。 その部品は人に特殊な力を与えると同時に、それ相応の代償と忠誠を求めるものだった。
 そしてその部品は、旅団を裏切り園丁の首を跳ねた後に爆発した。 牧師がロザリオと共に持っていたスイッチによって。
 将軍はそこで死を迎えたはずだったが、その箇所に刺さった世界計の破片によって息を吹き返した。 そして、その破片はニーズヘッグに飲み込まれていく牧師によって……。

 拳が強く、固く握られる。
 本当は、救いたかった。 誰も、彼もを助けたかった。
 一人でも多くの人の命を救いたくて、将軍は旅団へと渡り、部品の戒めを受け入れたというのに。
 助けられなかった人の名と顔を思うと、自分は何のために旅団へ渡ったのだろうかと自嘲に顔を歪めてしまう。

「どうかしましたか」
 顔を上げると、浮かない表情をしていると言いたげな顔をした物好き屋がアマリリスを眺めていた。 先ほどまで茶色いブルゾンを着ていた彼は、今は黒のスーツを着ている。
「いいや、少し考え事を」
「……テリガンが何か気分を害したのかと思ったのだけど、杞憂だったかな」
「オイラまだ何もしてねぇ!?」
 抗議の声を上げるテリガンを他所に、物好き屋は何事もなかったかのように立ち去っていく。 彼の歩く先ではノラとバナーが手を振っていた。 そこへリエと、彼に手を引かれてネリムが、そして今のテリガンと同じような魔法少女衣装えを着せられたオズが、医龍とニコラウスに導かれて集っていく。 隅にある喫煙スペースでは、黄金の魔女がそれを眺めて静かに微笑み、傍らに立つエクも呆れつつも、悪い気はしていない様子で見守っていた。
 かつて図書館と旅団、互いを敵として争い続けた彼らは今、一つになりつつある。


5.

「この度はこんな会場に足を運んで頂き、ありがとうございます」
 少し地が盛り上がっている箇所をお立ち台代わりに、物好き屋が小さく会釈する。 隣に並んだノラとバナーもソレに習い、「ありがとう(なのですー)」と大きく頭を下げた。 なんでバナーまで、と突っ込みを入れるものはいない。
「招待状を配ってるとき、少し不安だったのです。 ノラ達はその、元々は旅団の人なので。 でもこうして集まってくれてほくほくなのです、ありがとなのですー!」
 ノラが両手一杯に嬉しさを表す横で、エクが優雅に頭を下げてみせる。 だが視線の先で黄金の魔女が微笑んでいるのを見ると、その動きはぎこちなくなった。
 テリガンもステージに上がっているが、あの魔法少女衣装からいつものスーツに着替えてしまった為にニコラウスから悲鳴が、医龍からは「お気に召していただけませんでしたか」と嘆く声が、そしてオズからはブレードが飛んできていた。

「それじゃ、ここいらで乾杯と行くか?」
 ティーカップじゃ締まらねぇけど、とリエが客席から声を上げる。 隣に立つネリムは、沢山のカップが乗せられたトレーを抱えて何故か浮かない表情をしていた。
「……オイ、コレさ、マジで入れたのかよ」
「折角の茶会だ、こん位大目に見ろよ。 ワイン一滴で酔っ払っちまうガキじゃあるまいし」
 丁度エクが黄金の魔女に怯えて固まっている時、リエはこっそりとワインとぶどうジュースをすり替えて客席に持ってきていたのだ。 エクは物好き屋にすり替えられたと勘違いしているし、それだけならネリムも黙っていた。 問題は皆に配ろうとしているカップには、そのワインが一滴ずつ垂らしてあるということ。
 チラりと翡翠の瞳が物好き屋の表情を伺う。 その視線に気付いたリーダーは、傍らに置いてあった紙に何かを書いて、ネリムの手元に転移させた。

『もうすり替えてあるから大丈夫』

「ぶっ」
「どうした、ネリム?」
「いや、別に。 さ、乾杯だ乾杯!」

「ほら、アンタも」
 急にカップ配りを率先して始めたネリムを余所目に、テリガンがカップを運んだ先はアマリリスの手元だ。
「さっきの紅茶なら下げちゃったぜ。 考え事もいいけどさ、もうすっかり冷めちゃってたから」
「もうカップは行き渡ったかー?」
 向こうでネリムが確認の声を上げる。 テリガンがカップを掲げると、アマリリスもそれに合わせて渡されたカップを天に掲げる。

 それは決意の表れでもあった。 あの牧師から託された想いは今も尚アマリリスの中に生きている。
 その想いを胸に、この愛しき仲間達のために、自分の出来る事をしていくと。 そしてあの時託された言葉の意味に、必ず辿り着くと。

 ――乾杯!

 複数の誰かがそれぞれに声を上げる、その中にはアマリリスの声もあった。
 その瞬間に、瓦礫しかなかったお茶会の会場に色とりどりの花弁が舞い降りてくる。 0世界の空を見ていた人々からは驚きや感嘆の声が漏れる中、花の名を持つ将軍はカップに口をつけた。 そして、舞い散る白い花びらの一つを手に目を丸くしている悪魔に微笑む。

「美味しい、有難う」
[248] あとがき(偽クリエイターコメント)
ノラ・グース(cxmv1112) 2013-03-06(水) 01:00
(平伏)

 大変申し訳ございませんでした。
 偽シナリオのOPは去年の10月に出したのに、ノベルの公開は3月になってしまいました。 もう復旧作業終わってます。
 お時間を頂き過ぎ、大変今更感が溢れ出していますが、ここに結果を提出させて頂きます。

 皆様にはご迷惑をおかけいたしました。
 以下、個別コメントです。

>リエ・フーさん
 ノラの招待に応じて頂き、ありがとうございました。 月餅は美味しく頂きました。
 ネリムも少しは心を開いているようです、少しだけ彼の境遇が明かされています。
 乾杯の音頭はありがとうございます、が、ワインを仕込むプレはリーダーストップが掛かりました。

>オズ/TMX-SLM57-Pさん
 テリガンの招待に応じて頂き、ありがとうございました。 悪魔と不可解な乱入者と熱く語って頂けたでしょうか。
 魔法少女衣装は大体医龍さんの仕業です、ニコラウスはそれに乗っかる形でテリガンを巻き込んどきました。
 友好の印ゲットです。 これでターミナル内での喧嘩は半年くらい起こらなかったと思いたいです。

>アマリリス・リーゼンブルグさん
 ご来場ありがとうございます。 アマリリスさんの決意が固まったでしょうか。
 テリガンが何か言いたそうにしていましたが、ここはそっとしておくべきかと思い口を噤みました。

>黄金の魔女さん
 ご来場ありがとうございます。 当時は影の薄いエクにお声を掛けて頂いて感謝しております。
 女性恐怖症のことは完全に後出しになってしまいました、ここで改めてお詫び申し上げます。
 書いてる途中、食事の描写に少し悩みました。 ワインは黄金にならないと言うことは……(むむむ)

>医龍・KSC/AW-05Sさん
 ご来場ありがとうございます。 魔法少女ネタがすごい影響を及ぼしていて驚いています。
 それだけにネリムの傷の診断や、礼の魔法少女衣装の準備など、予測の範囲内でした。
 友好の印は無事に受け取って頂けたようです。 リリイさんならやってくれると思うんです。

>バナーさん
 ご来場ありがとうございます。 お菓子の差し入れは美味しく頂きました。
 プレで唯一物好き屋に絡んで頂けましたが、すらっと逃げてしまい申し訳なく。
 なんとなくノラとなかよくして頂けそうです。 今度はどこかのパティシナでお会いしましょう。

 

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[228] 【偽シナリオ】英雄の条件
オルグ・ラルヴァローグ(cuxr9072) 2012-03-24(土) 21:58
 あのとき見たその背中は、大きくて、逞しくて――今じゃとても、とても遠くてさ。

 ※ ※ ※

「だから言ったろ。 “アンタ、死ぬぜ”ってさ」
 昨日出会ったばかりの少年は、苦虫を噛み潰したような顔でそう吐き捨てた。
「あ……ああ、た、助かったよ、ありがとう……君は、私の命の恩人だ」
 すっかり土埃塗れになった衣服を叩きながら、私は立ち上がる。 目の前に居る少年はどこか機嫌が悪そうに視線を逸らしてしまった。 昨晩私に伝えた“予言”を、私が信じなかったことを、彼はやはり快く思っていないのだろうか。
 そう、彼と出会ったのは昨日だ。 私が宿屋のベッドで眠る直前に、彼は私が死ぬという“予言”を伝えにやってきた。 出会ったときは「こんな真夜中になんのつもりだ」と憤慨したものだが、彼は私が通る予定の山道を事細かに言い出したことには驚かされたものだ。 結局、その時はそのまま追い返してしまったが……日が変わり、山道に足を踏み入れた時、山賊の襲撃に遭ってしまった。 少し離れた地方で悪名高い賊の一味で、彼等の手に掛かった行商仲間は数知れない。 出会ってしまえば最後、殺されて身ぐるみを剥がされる――そうなるはずだった。 だがそうはならなかった。 銀色の鎖がついたクロスボウを肩に乗せて駆けつけてきた少年が。 昨日、私が死ぬという“予言”を伝えにきた少年が、泣く子も黙る山賊達をたった一人で撃退してしまったからだ。
「ここらはまだ危険だ。 さっきの連中以上のヤツらが潜んでるからな。 けどアンタ、行くつもりなんだろ?」
「……ああ、隣町に届けなければならない品がある」
 少年は防塵ゴーグルを外し、翡翠の緑を思わせる瞳を細めて顔を顰める。 緑色の神父服を着た彼はどこか大人びた雰囲気を持ってはいるが、本当に幼い子供だ。 精々、十代前半くらいの年齢だと思う。 そんな見かけに騙された大人達は、あっさりと返り討ちに遭ってしまったが。
「……昨夜は疑ってしまって、済まなかったな」
「いいよ、オレも話をブッ飛ばしすぎた感があるし、そんなの信じろって言うのも無茶だろうしさ。 ……それよりアンタに話がある」
「話?」
 少年は一瞬だけ、ほんの一瞬だけ小さく俯いた後、私が首から下げているペンダントを指差しながら、こう提案した。
「オレを用心棒として雇ってくれ。 代価は……それだけでいい」

 ※ ※ ※

「察しがいい人は気付くだろう、そのペンダントに使われている宝石は竜刻だよ」
 灰色の司書猫、ディスはさも面白くもないような表情でそう語る。 ぺらぺらと捲られたページはひとりでに二枚破けて、その場に集ったロストナンバー達の目の前に躍り出た。 そのページにはニ人の人物が描かれている。
「一人は今回、旅団員に声を掛けられている旅商人にして竜刻の所持者。 そしてそっちの少年は旅団員だ。 頼りなさそうな見た目には騙されないほうがいい、それなりの戦闘能力を持っているからね」
「……どうやら、そのようだな」
 集った面々の中に混じっていた金色の狼剣士、オルグ・ラルヴァローグは切り取られたページを眺めてうんうんと頷いてみせる。 詳細が書かれているその紙切れには、たった一人で十人はいたはずの山賊団を壊滅させたと書かれていた。 特殊な力を持ったロストナンバーであれば造作もない内容にも見えるが、少なくとも戦士である彼は少年に「戦いにおける気質」を見出しているらしかった。
「今回はこの少年をどうにかして、件の商人から竜刻を回収してほしい。 って言うのが今回の依頼なんだけど……ちょっと嫌な点がある」
「嫌な点?」
「ああ。 正義感のある人にとっては、今回の旅団員に好感を持ってしまうかもしれない点と……必然的に君達を悪人にしなきゃいけなくなるって点があってだね」
「……どういうことだ?」
 オルグは持っていたページを隣にいた人物に回しながら首を傾げる。 そこへディスは過去の旅団絡みの報告書を取り出しながら口を開く。
「件の旅団員は、過去3つの竜刻争奪戦でやった『殺してでも奪え』っていう方針を取っていない。 ターゲットであるはずの商人に対し友好的に近付いて、彼を殺そうとした山賊を追い払い、その後には用心棒として雇えと申し出ている。 その代価に竜刻を要求することを忘れずにね。 ……つまり、正当な報酬として竜刻を譲り受けようとしているんだ」
「へぇ、そりゃ歓心だな」
「で。 このあと僕が言いたいこと、分かるかい」
 思わず好意的な笑みを浮かべた狼剣士をじと目で見つめる猫司書は、一つトーンを落とした声で尋ねてくる。 いきなり話を振られたオルグは暫し考え込んだが、心当たりがあったのか「あぁ~」と声を漏らし頭をかいた。
「そういうことだよ。 商人は当然、この友好的な“用心棒”を骨董店で気まぐれに買ったペンダント一個で雇う。 そんな彼らを君達“山賊らしき存在”が襲撃すれば……今回のお話の悪役は、商人からしてみれば君達ってワケさ。 そんな悪党に対して、すんなりと竜刻を渡してくれると思うかい?」
「……ねぇよな、そりゃ」
「遭遇して間もない頃は、商人は間違いなく少年を味方するだろう。 それでも構わないと言うなら止めはしないよ……悪党になりたくないって言うなら、商人の誤解を解かなきゃならない。……これに関しては少し工夫が必要になるね」
 額に皺を寄せている狼の顔を眺めながら、どこか他人事のような口取りで猫は呟く。 「じゃあ任せたから」とばかりに尻尾を振って見送ろうとする中、「あっ」と何かを思い出したように声を上げる。
「この少年さ、実は山道で商人と出会う前に、昨晩の宿屋で一回会ってるみたいだ。 少年はどうも……商人が山道で死ぬって言う“予言”を伝えたとかなんとかでさ」
「予言……ねぇ。 確かに誰の助けもなく山賊に襲われたんじゃ、死ぬかもしれねぇな」
「若しくは、これから向かうキミ達に襲われて……かな」
 ディスはにこり、とイタズラっぽい笑みを浮かべながら言うと、無益な殺生を好まないオルグが不満げに睨む。 その視線に「冗談だよ」と笑ってから、今度こそ尻尾を振って見送る姿勢に入った。

 ※ ※ ※

『ターゲットとは上手く接触できたか?』
「ああ。 なんとかな」
 山道の上り坂の最中、馬車の荷台に揺られながら少年はひっそりと呟く。 耳に当てた携帯電話からは、『にししっ』と変わった笑い声が聞こえてくる。
『アンタの“願い”は確かに叶えたぜ。 これでアンタも憧れのヒーローに一歩近付いたってワケだな?』
「……こんな茶番で、あの人の背中に近付けるわけねぇだろ」
『正義感が強いのはケッコウだけどさ。 あんまりこんな回りくどいことばっかやってると風当たり悪くなるぜー? リーダーみたく、もうちょい上手く立ち回らなきゃなぁ?』
「……忠告どうも。 手助けには感謝する」
『また“願い”がありゃ聞いてやるよ。 賊の陽動でも何でも、オイラに任せ』
 ぴっ、と通話が途切れ、翡翠の瞳は天を仰ぎ、眩い太陽のひかりを受けて細める。 金色に見えるそれを眺めながら、彼は脳裏に一人の英雄を思い浮かべながら、そっと祈るように――嘆くように呟いた。

「……申し訳ありません」
 ――オレは、貴方みたいな誇り高い戦士にはなれませんでした。

 かつて憧れた存在、今は遥か遠くの世界にいるだろうかの者へは決して届かぬ思いを、ごとごとと揺れる荷台から零した。


〜〜発言が3件、省略されました〜〜
[232] 参加表明

ナイン・シックスショット・ハスラー(csfw3962) 2012-03-25(日) 09:37
込み入った事情持ちみてぇだな…。
ま、力づくで奪ってもいいけど合法的に頂けるなら頂きたいとこだろ。
[233] 参加表明
ハルク・クロウレス(cxwy9932) 2012-03-25(日) 23:19
ふっ…恨まれ役、か。
汚れ事は嫌われ者がやるべきであろう…
吾輩には適任である。元より友などおらぬ身なのでな。
[234] 参加者確定、OPノベル
オルグ・ラルヴァローグ(cuxr9072) 2012-03-26(月) 00:09
「要は悪役のふりして竜刻かっさらえばいいんだろ?」
 おもしれえじゃんか、とチケットを竜刻に見立て攫っていったのはリエ・フー。 弱肉強食の貧民窟を生き抜いたストリートキッズは「正にオレ向きの仕事だ」と余裕の笑みを浮かべる。
 その傍らで、リエがディスの語った少年に関して何を思うかは、幸せの魔女の知るところではない。
「欲しいものは力ずくで奪えばいいだけ、とても簡単な話だわ」
 そう、幸せもそうやって勝ち取ればいいのだと微笑んだ後、金色の瞳をキラーンと輝かせて猫へ問う。
「ところでひとつ質問があるんだけど。 竜刻以外にも何かひとつ奪ってもいいのかしら?」
「……現地での行動はキミ達の判断に任せる。 必要だと思えば僕は目を瞑るけど、生物を持ち帰るのはダメだよ」
 生態系に影響を及ぼすことを固く禁じる「旅人の約束」を改めて述べる猫の視線は、彼とは別の猫へと向けられていた。 ナイン・シックスショット・ハスラーは旅団員のページをじぃっと眺めた後、司書猫の視線に気付き顔を上げる。
「込み入った事情持ちみてぇだな……。 ま、力づくで奪ってもいいけど合法的に頂けるなら頂きたいとこだろ」
 どこか西部劇に登場するカウボーイのような姿のケットシーが司書猫の同意を受けた頃、狼剣士のオルグからページを受け取ったカワウソ型の獣人、ハルク・クロウレスは自嘲気味に呟く。
「汚れ事は嫌われ者がやるべきであろう……我輩には適任である。 元より友などおらぬ身なのでな」
「まぁそう言うなって。 旅団のガキと商人サンにゃ悪いことする流れかもしれねぇけど……上手くやってくれることを祈っとくぜ」
 ぽむ、と大きな手が肩に被さる。 気の良い金狼の笑顔を横目で一瞬見た後、ハルクはチケットを毟り取って駅のホームへと歩を進めた。


-----------------------参加者-------------------------

・リエ・フー
・幸せの魔女
・ナイン・シックスショット・ハスラー
・ハルク・クロウレス
[235] 本編ノベル
オルグ・ラルヴァローグ(cuxr9072) 2012-05-13(日) 22:26
 朝方から昼にかけて、一台の馬車が荷台を揺らしながら進んでいく。 この速度ならば夕方の少し前には峠を越え、夜が更ける前に街へ着くだろう。 馬の手綱を引きながら、旅商人は少し強ばった面持ちでそう思っていた。
「……この辺りにも、まだ山賊がいるのか」
「ああ、まだいる。 それも相当厄介な連中だ」
 確認と言うよりは恐れを含めた独り言は、荷台に陣取る少年の耳に届いたようだ。 ゴーグルをかけ直す彼の声も、商人の声と同じかそれ以上に沈んでいる。 それがこの先にいると言う山賊の恐ろしさを象徴しているかのようで、冷や汗が流れて止まらない。
「キミの……先程の腕を信じないワケじゃないが、私達は突破できると思うか?」
 金属同士がぶつかり、噛み合う音が耳元で響く。 少年が持つクロスボウに矢が備わった音だと気付いた時、商人の顔には少しだけ、少しだけだが安堵の色が宿る。 なにせこちらには、十人もの大人をたった一人で蹴散らした“用心棒”がいるのだと思えば、それだけで心強く思えたのだ。

 そこへガサリ、と山道を外れた草薮が不自然に揺れた。 野兎かなにかといった野生動物が動いたのかと思ったのは一瞬だけで、商人は息を潜ませ、少年は矢を番えたクロスボウをそちらへと向ける。 以前と揺れ続け、こちらへと近付いてくる気配を見せる影に対し、少年は荷台を飛び降りた。 クロスボウを構えたまま茂みへ一歩ずつ、距離を詰めていき――地を蹴った。
「――動くな、“山賊”」
 矢先を揺れる茂みの奥へと突き出せば、葉と葉が擦れ合う音も止み辺りが張り詰めた空気に包まれる。 荷台に残っていた商人が恐る恐ると、少年が“山賊”と呼んだ人物はいかなるものかと確かめるために近寄ってきた。 “山賊”の顔を見るなり商人は、どこかホッとした様子でため息を吐く。
「なんだ、子供じゃないか」
 商人の言うとおり、矢を向けられた“山賊”は子供だった。 矢を向けている“用心棒”と歳は大して変わらないほどの子が、ズタボロになった布切れだけを纏って、なぜたった一人でこんなところにいるのかと疑問に思ったのはすぐ後のこと。 癖のある黒髪すらピタリと止めた彼は矢先に目を向けたまま、ゆっくりと両手を上げた。
「ま、待ってくれ、オレは山賊なんかじゃねぇ。 オレが身を寄せてたキャラバンも、賊に襲われて散り散りに……」
「なんだって! 君のような子まで……、それで君のキャラバンは」
「オレだけが生き残った。 他の連中はもう……。 それより、ソレ下ろしてくれねぇか? そんな物騒なモン向けられたままじゃ、気が気でねぇよ」
 タダでさえ命辛々逃げてきたってのに、そう顔を背けた少年の言い分は尤もだと感じたのだろう、商人は矢を向ける栗毛の用心棒の肩に軽く手を置く。
「ネリム、武器を下ろしてくれ」
「……。 悪かったな、こっちも警戒してたからさ」
 緑色の神父服を着た少年は渋い顔のまま銀の石弓を下ろすと、そのまま背を向け荷台へと乗り込んでいく。 彼が積荷の影に隠れた頃、癖毛の少年は商人に向け祈るように手を組んだ。
「なああんた、目的地が一緒なら同行させてくれねぇか。 オレ達を追ってきた賊もうろついてるかもしれねぇし、何よりオレ一人じゃ……だろ? 頼む!」
「困ったときはお互い様だよ。 先客にさっきの……ネリムがいるからちょっと狭いかもしれないが」
「ありがてぇ、恩に切るぜ」
 こうしてキャラバンは新たな乗客を迎えて、再び危険渦巻く山道を往くことになる。 ぼろを纏った少年と、緑色の少年の視線が途中でぶつかったことなど、気の良い商人の知るところではない。

 ※ ※ ※

「上手く接触できたようだな」
 ぼろを纏った少年がキャラバンに受け入れられる所を見て、別の箇所に潜んでいたカワウソの獣人――ハルク・クロウレスはふっとため息をついた。 さっそく荷台に乗り込んだ彼の仲間は、栗毛の用心棒に親しげに声を掛けているところまで見届けてから振り返る。 茂みを跨いだ先には純白のドレスを身に纏った可憐な女性――幸せの魔女が立っていた。 スカートの裾に土が被り、少々不満げな表情だ。
「キャラバンのことはリエ達に任せ、我輩たちは先に峠へ向かうとしよう」
「はぁ……、目の前の幸せを目前にして、こんな遠回りをさせられるなんて。 これでもし私が幸せを掴むことが出来なかったら……どうしてくれようかしら」
 Witch of Happiness. 名を聞けば幸せを運ぶ使者と思う人は少なからずいるだろう。 しかしその性質は他者の幸せすらも自分の幸せに変えようとする恐ろしい性質を持っている。 今回彼女の求める“幸せ”などハルクの知るところではないが、その気配は仲間と言えど安心できたものではないと感じていた。
「荒事を起こすのは峠でだ。 その時にお主の言う“幸せ”を掴めばいいだろう」
「言われなくてもそのつもりよ。 ……とりあえずその峠まで、エスコートしてくださる?」
 花のように笑う魔女がすっと差し出した手を、嫌われ者を自称する魔導物理学者はそっと受け取る。

 ※ ※ ※

 事を起こす前に相手のハラが知りたい。 ロストレイル内にて、リエ・フーは予め用意したぼろ切れを同行する皆に見せながら、まずそう言った。 ただ真っ向から襲撃を仕掛けるつもりでいた幸せの魔女は異議を唱えたが、元より少年を説得するつもりでいたハルクに抑えられて、一先ずそれに従った。
「なんのつもりだよ、お前」
 そうして荷台に乗り込んだリエへ、すぐ隣から警戒を滲ませた声が聞こえる。 近くで膝を抱えて座っている緑の少年に声をかけられたのだと気付いたのはすぐのことだ。
「竜刻が目当てか、ならもう遅いぜ。 アレはもうこっちのモンだ、約束だって取り付けてある」
 緑色の少年――ネリムと呼ばれていた用心棒はリエに目を向けることなくそれだけを吐き捨てる。 先程まで持っていた銀色の石弓は手に持っておらず、その形を視認することもリエには出来ていない。 リエがネリムの顔を見てみれば、警戒を前面に押し出す傍ら、微かな戸惑いの念が見て取れた。 ここまでリエの読みは当たっている、ネリムはゴーグルで自分の顔を隠すことさえ忘れていた。
「真理数がねえからお互いロストナンバーだってのは丸わかりだが……旅団にとっちゃ仇敵でも、商人から見りゃキャラバンとはぐれたただのガキ。 連れの手前無碍にゃできねーだろ」
 善意の用心棒を演じる計画ならば、自分を保護せざるを得ないだろうと洞察していたリエ。 まんまと懐に入られたネリムは視線を逸らしてからため息を付いた。 二人を取り巻く空気は既に重く、時々火花が散る程度にピリついていた中、リエはにやりと笑いながら両手を広げてみせる。
「ほうら、武器なんかどっこにもないぜ? なんなら身体検査でもしてみるか?」
「ロストナンバー相手に身体検査とか、無駄だろ。 お前の頭が狼のそれに変わったって、オレは驚かねえよ」
「だからそうピリピリすんなって、少しはてめぇの相棒を見習ったらどうだ?」
 相棒。 そんな言葉が浮かんだ後、二人の少年の視線は荷物の山の向こう側を指した。 その先からは、賑やかな笑い声が聞こえてくる。


「猫妖精は悪戯好き、って知ってるかにゃ?」
「こらこら、よさないか」
 馬の手綱を握る商人の膝元に居座る黒猫が、人の首から下がったペンダントにじゃれ付いている。 初めは「言葉を喋る猫!」と驚いていた商人だったが、今ではすっかりこの猫と打ち解けていた。
『同族がお世話になっているので挨拶に参上したケットシー族の、ナイン・シックスショット・ハスラーと申しますにゃ』
 そう口にして商人との接触を図ったナイン・シックスショット・ハスラーは、友好的な援助者を演じると同時に、『ここに同族がいる』という情報を明かした。 その言葉に首をかしげた商人はふとネリムを見れば、ネリムはやはり苦い表情で『同族』を呼び出して見せたのだ。 ナインと名乗る猫は砂漠の民を思わせる衣装を着ていたが、ネリムが呼んだ猫は赤い貴族服をオシャレに着こなしている。 瞳はナインの金色のそれとは異なり、澄んだ青をしていた。
 思わぬ二匹の愛らしい来客を迎え、商人の気分は上々だ。 二匹の猫妖精はしばらくにゃあにゃあとじゃれ合った後、商人の頭に乗ったり膝に乗ったりとやりたい放題だ。
「にゃー、あそんでくれなきゃイタズラなのにゃ!」
 赤い貴族服の猫妖精もまた、立派な衣装とは裏腹にやんちゃなイタズラを講じていた。 商人の頭の上に陣取り、前足で彼の額をぽんぽんと叩いている。 ネリムからは密かに、ナインの監視を指示されていたはずなのだが。
「ボクはカノって言うのにゃ、こんなトコで同族に会えるなんて感激なのにゃ! 歓迎するにゃ♪」
 ネリムの目がなくなった途端、カノと名乗った同族はにこやかにナインを迎え入れていた。 弾んだ声がネリムに聞かれているとも知らずに。
「(チョロすぎるだろ、コイツ……)」
 楽なことはいいことなんだが、とナインは口許を歪めた。 初めは打ち解けたフリをしているのかと思いはしたが、カノはそんな気配すら見せない。 リエはネリムから何らかの情報を探る気でいるらしいが、この分ならネリムよりもカノから聞き出す方が簡単かもしれない。
 思い立ったナインは商人の膝元を降りると、カノを誘って荷台の屋根へとよじ登った。 カノはナインの背を嬉々とした足取りで追ってくる。
「あのネリムって呼ばれてたニンゲンが、カノのご主人なのにゃ?」
「いかにもボクはネリム様の従者なのにゃ! ナインのご主人はリエ様なのにゃ?」
「あー……主人は別にいるにゃ……」
 座り際にさり気無くした質問にも、カノはにこにこと楽しそうに答えていく。 すらっと返された質問にナインは言葉を濁しながらも、屋根の下にいる二人の少年の顔色を窺いながら口を開く。 ネリムは頭を抱えていた。
「ネリム……、今回の“仕事”はあんまり乗り気じゃないみたいにゃね」
「にゃあ。 ネリム様はキャラバンでの旅経験は確かに豊富なお方ですにゃけど、図書館さんとの戦いの経験はこれっぽちもないにゃ。 けど旅団のお仕事にゃから仕方ないのにゃー」
「……随分とすんなり喋るな、主人に怒られないか?」
「にゃ、にゃんか雰囲気変わったにゃ? 怒ってたら矢が飛んでくるにゃー。 でもネリム様はお優しいお方なのにゃ、怒ることなんて滅多にないから安心なのにゃ♪」
 怒る以前に呆れているか、既に諦めているのだろうと考えが過れば、下にいるネリムはいつの間にかクロスボウを手に取っていた。 標準はまだこちらに定まっていないが、これ以上カノから情報を聞き出そうとすればカノの言葉どおり「矢が飛んでくる」だろう。 人を射れば大事だがナインは猫。 流れ着いた猫一匹を射抜いたからといって、商人が唯一の用心棒を山道に放り出すなど考えにくい。
 ナインは勢い良く布地の屋根の上から飛び上がり、手綱を握る商人の頭に飛び乗った。 無論カノもソレに習ったため、商人の頭に猫タワーが建築される。

「へぇ、旅団の指示だから仕方ねぇってか」
 二匹の猫がまたイタズラを始めた頃、リエはからからと笑っていた。 それに対しネリムは睨みを効かせるが、幾つもの修羅場を掻い潜ってきたストリートキッズを黙らせるまでには至らない。 何度目かも分からなくなったため息の後、ネリムは視線を逸らした。
「……なんだよ、オレをからかいに来ただけかよ。 図書館の連中は随分と暇なんだな」
「そう言うなって、同じ荷台に乗ってる仲じゃねぇか、なぁ?」
「お前が勝手に乗ってきたんだ」
 友好的、と言うには度の過ぎた馴れ馴れしさで言葉を重ねるリエに、尖った返答ばかり残すネリムとの会話は無論、聴力の優れたナインの耳にも届いている。 ナインはじゃれるカノの眼を逃れつつトラベラーズ・ノートを開き、にゃあ、と鳴いて見せれば、リエは。
「旅団の連中と言やぁ、オレが前会った旅団の野郎は竜刻持ってるガキを殺して奪おうとしやがったが……てめぇは違ぇみてぇだな」
 当初の目的だったネリムの心内を探るべく、隣に座るネリムの瞳をじぃっと見やる。 好戦的でどこか挑発的に、にやりと笑みを讃えながら。
「てめぇこそ何が目的だよ、竜刻が欲しいだけならてめぇだって、アイツと同じようにやりゃあいいだろ」
「……そんなヤツとオレを一緒にするな」
 立ち上がり、逃げるように商人の元へと向かうネリムの小さな背を見ながらリエは肩を竦めた。 その手中には銀色のロケットが握られている。 ネリムにクロスボウを向けられた際、彼のポケットからスリ取ったそれは、小さな本の形をしていた。


 それからネリムはリエと言葉を交わそうとはしなかった。 商人の横に座る彼と入れ違いになる形で、ナインがリエの元へとやってくる。 その後を追ってカノが付いて来た、見張りの仕事は継続中らしい。
「にゃ? それ、ネリム様のなのにゃー。 拾ってくれたのにゃ?」
 リエが持っていた銀のロケットをカノが指差し、リエはそれをカノへと投げ渡す。 いきなり投げられて驚いたカノは危なげだが身軽な動作でそれを受け止めた。
「にゃー、もうちょっと大切にして欲しいのにゃ、ネリム様のだいじなものなのにゃ」
「なら次から落とすなって伝えときな。 ところで」
 今度はリエが銀のロケットを指差す。 本の形をしたそれに開かれた形跡を感じたカノはむすっと顔を顰めた。 好意的な猫が見せた初めての不満げな表情を受けながら、ナインが口を開く。
「そのロケットの中にあった絵……誰の絵か聞いてもいいかにゃ?」
「……そのお方は“英雄”様なのにゃ、ネリム様がそう言ってたにゃ」
 ぱかり、と小さな音を立てて“本”が開く。 猫の瞳程度の大きさのそれに収められた絵は、誰かの後ろ姿を描いたようだった。 その誰かの素顔は窺えないが、その頭は狼の形をしていた為に狼型の獣人であることは分かる。 今度は“本”を閉じたカノが二人に尋ねる。
「運動会、覚えてるにゃ? そこにネリム様とボクもいたんにゃけど……、ひょっとして図書館側に金色の毛の狼の獣人さん、いませんでしたかにゃ?」
「金毛の狼……」
 二人がふと思考を巡らせようとした、丁度その時のことだった。


「な、なんだ君たちは!?」
 馬車は突然止まり、商人の上ずった声が聞こえてきた。 声のするほうを見れば、両手を挙げた商人とクロスボウを構えたネリムが見える。 彼の向ける矢の先にいるのは、二人の“山賊”。
「にゃっ、山賊なのにゃ!」
 慌てて主の下へ駆け出そうとするカノ。 そんな猫の行く手を同族であるナインが遮る。 にゃ、と抗議の声を上げた頃、カノはここでやっと彼らを“図書館、敵”と判断し――。

「そうにゃ、あなた様方も」
 ――その問いは、ナインの銃が放つ弾丸に阻まれた。

 ※ ※ ※

 御機嫌よう。 出会い頭にそう口にした彼女は花のような笑顔をしていた。 山道を歩くには適さない白いドレスを微かに風に靡かせながら、幸せの魔女は一歩一歩、ゆっくりと――しかし着実に荷馬車へと迫る。 その手には山賊を名乗るには不釣合いなほど豪華な装飾が成された剣が握られていた。
「あまり幸せそうではない商人さん。 私達は通りすがりの山賊なの」
 謳うように語り迫る魔女の傍らにいるカワウソ型の獣人、ハルク・クロウレスはにこりと笑む魔女とは裏腹に、鋭い瞳で睨みを効かせている。 背丈こそはネリムよりも低く100cmにも満たないが、それすらも忘れさせる威圧感が彼にはあった。
「こちらの要求を素直に応じるならば、それ以上の危害は加えないと約束しよう。 だが」
 言いながら、彼もまた懐から手帳を取り出して開く。 手始めに、と破いて放ったページは瞬く間に空間を裂く刃となる。 放たれた刃は荷台の屋根を切り裂き、触れた反動を以って弾き飛ばした。 ハルクは自身が描く方程式を魔術に変換する術に長けており、先程の刃は空間の歪みから刃を放つ方程式【空間断裂】によるものだ。 商人には何もない中空から“何か”が出たようにしか見えず、その事が更に彼を怯えさせる。
「抵抗するならば相応の対処をさせてもらう。 場合によっては命の保証も出来ぬものと思うがよい」
「……なんだよ、結局力づくかよ」
 唖然とする商人を下がらせ、銀のクロスボウをハルク達へと向けながらネリムは何度目かのため息をつく。 ゴーグルで翡翠の瞳を覆い隠してから声を張り上げた。
「馬を止めるな、突っ切れ!」
「なっ!? 待て、連中を跳ね飛ばすつもりか? いくらなんでもソレは……」
「それだけで退いてくれりゃ上等! 早く!」
 ネリムに急かされ、再び手綱を握ろうとする商人へ幸せの魔女、ハルクが駆け出す。 しかしその前にネリムが立ちはだかり、駆ける二人の足元目掛けて矢を射る。 地に突き刺さった矢は3本、横一列に並んで立つその向こうで、クロスボウに再び矢が備わる音が聞こえた。
「次は眉間に当てる。 そっちこそ、命が惜しいなら下がれ、山賊ども」
「あら、出来るかしら? あなたに」
「……なに?」
「でもその前に」
 クロスボウを構え直すネリムに笑みを返した後、幸せの魔女はすかさず手綱を振るおうとする商人へ剣を向ける。 日の光を受けてぎらりと光る刀身に、彼の身はびくりと震えた。
「お願いだから、そこから一歩も動かないでね。もしそこから馬を出すとか、おかしなマネをすれば……ぶち殺すわよ?」
「ひっ」
 商人の手からするりと手綱が滑り落ちるのを見て、またにっこりと魔女は笑い、すっと身を翻した。 ネリムのクロスボウから勢い良く飛び出した矢は不自然な軌道で――まるで狙い澄ました魔女を自ら避けるように、薮へと潜り込む。
「矢が逸れた? 何で」
「私の名前は幸せの魔女。 今の私はとても幸せなの、貴方の攻撃が私に"不幸"を及ぼす限り、貴方の攻撃は私に触れる事さえ出来ない」
「……じゃあ試してやる!」
 先に地を蹴ったのはネリム、抱えるようにして持ったクロスボウを魔女の目前に迫ったところで振り上げ、ピッケルのように尖った箇所で殴りかかる。 射手かと思っていた相手の特攻に瞳を丸くしながらも、魔女は一歩後ろに飛びのいて回避。 しかしネリムの狙いはそこにあった、魔女が飛びのく地へ手を翳す。
「茨よ、捕らえろ!」
 魔女が地に足をつけた時、ネリムの樹木を操る力によって生まれた茨が彼女の周りを取り囲む。 迫る茨の一本は剣を振るうことで切り落とされるが、3本、4本と迫る茨に足を取られた。 魔女の白い肌に無数の小さな棘が覆い被さるが、突き刺さるまでには至らない。 歩く自由を奪われた魔女の眉間に、ネリムのクロスボウが向けられる。
「加減はしてある。 荷台の仲間とそっちの獣を下がらせろ、そうすれば茨はお前を傷つけない」
 暗に諦めろと威圧するネリムだが、それに対しても魔女は花のような笑みで応えた。 それこそ茨を纏う気高き白薔薇のような笑顔であり、それはネリムを更に苛立たせる。 ぎりり、と歯を食いしばる音がした。
「……随分、余裕だな。 ホントに撃つぞ、オレは本気だ」
「そういう貴方は随分と不幸そうねぇ。 そんなに鈍感だから、いつまで経っても幸せを掴めないのね、可哀想に」
 やがて全身を茨で覆われても幸せの魔女は、それはとても幸せそうに笑ってみせる。 そうした状況下で魔女はそっと白い手を伸ばし、ネリムの頬に触れて見せた。 茨に拘束されているにも関わらずに。
「……!?」
 魔女の腕にぶら下がった茨の一部がネリムの視界に入った。 それは彼の瞳のような緑色をしていたハズが、今では黒く変色しぼろぼろとなっている。
「棘が私に刺さらないのは貴方が加減しているから……って、いつから錯覚していたのかしら? ほんと、おばかさんね」
 パァン、と乾いた音が弾け飛ぶ。 幸せの魔女が嘲笑と共に振るった平手打ちがネリムの頬を叩いた。 逸れる視界の先にネリムが見たのは、手帳の頁を破いたハルクの姿で、よくよく見れば彼の周囲には何やら怪しげな霧が立ち込めているように見える。 その霧は茨にも纏わり付いていた。
 方程式【硫酸霧】、名の通り霧状に気化した硫酸を発生させる式である。 ふっ、とハルクが声を漏らす。
「若いな、周りの状況がまるで見えていない。 勢いだけでは相手の策略に嵌るだけだぞ、少年よ」
「……そうか、答えはお前か!」
「今更回答をしても遅い、我輩の“方程式”は完成した」
 叩かれた頬を抑えつつネリムが下がる先。 その地点こそハルクが仕掛けた“方程式”に記された場所だった。 破かれた頁はハルクの手中で消失し、それと当時に“方程式”が物理的現象となって姿を現した。
「【高重力場】」
 キィン、と耳鳴りを感じた後、全身に何かが覆い被さる感覚がネリムを襲う。 突如感じた違和感に抗う間も無く、ネリムはその場に膝を付いていた。 ただひたすらに体が重く、気を許せば地に這い蹲ってしまう、それほどの重さに今のネリムは支配されている。 幸せの魔女もハルクが描いた“方程式”の内側にいたはずだが、“幸運にも”範囲から逸れているようだ。
「力無き正義って無力よねぇ」
 変わらず響く魔女の嘲笑に、小さな用心棒はゴーグルに覆われた瞳を苦々しく細めた。

 ※ ※ ※

 幸せの魔女が荷台に乗り込んだ一人と一匹の仲間と合流を果たした頃、彼女が脅しつけていた商人は泣いて懇願するどころかすやすやと寝息を立てていた。 あら随分と幸せそうね、と魔女が剣を突き立てようとした所、ナインが待ったをかける。 それと同時に己の持つ魔道具、6連リボルバー型の拳銃を見せた。
 眠りの羊。 ナインが商人に放った魔弾の名である。 強力な催眠効果を持つ弾丸で、怪しい行動を取るかもしれない商人の自由を奪ったのだと彼は言った。
「そういえば彼、あなたのような猫の妖精を連れているって聞いたけど、見かけなかったわ。 その子も幸せそうにお昼寝かしら?」
「カノ……、同族は“送還”させた。 しばらく“こっち”には戻ってこれないだろうが、死んだわけじゃない」
 弾丸が二つ消費されたリボルバーの銃身は、まだ温かい。 図書館側にいると知りながら――銃を向けるまで――、絶え間ない笑顔を向けてきた同族を思いつつも、ナインは眠りこけた商人の首からペンダントをもぎ取った。

 荷台を飛び降りたリエはすぐさま、地に座り込んだネリムの元を訪れた。 いくらか彼との距離が縮まったところで「それ以上近寄るな」と声が掛かる。 ハルクの施した方程式【高重力場】はまだ発動していた。 幸せの魔女が去った後もハルクとネリムの交戦は続いていたようだったが、初めから勝敗は決していたかのようなものだった。 ネリムが隠し持つ迷子の剣は重力場に落とされ、硫酸霧によって腐食が進み使い物にならなくなる。 彼の周りには、そうした剣の残骸が幾つも転がっていた。
「……少年よ」
 唯一腐食の被害を受けずにいるクロスボウを手に幾度か首を傾げた後――、ハルクはネリムの目前に座り込み、語りかける。 学者としては腐食しない銀についても気になるが、やるべきことがまだ残っていた。
「お主の信念とは何だ? 人を欺き、悪に加担する事か?」
「……違う」
 戦う力の殆どを失っても、ネリムの眼は目前の敵、ハルクを睨んでいた。 重い手を翳し、ゴーグルを引き摺り落とした後も、光を失わぬ目を見てハルクは陰で安堵しつつ、そっと帽子を取る。
「吾輩は断言する。 お主の仕える者達に、お主の求める信念は存在しないと」
「だろうな……、それも分かってる」
 ならば、と手を差し伸ばそうとするハルクにネリムは隠し持つ最後の剣を向けた。 それすらも霧に当てられて形が崩れていくが構わないと、翡翠に似た瞳が訴えかけてくる。
「で、なんだよ。 お前たちにはオレが求める信念があるって言うのか」
「その答えは我輩が返すものではなく、お主が決めることだ。 そしてお主自身、旅団にはお主が求めるものはないと分かっているのだろう?」
「……物は言い様かよ、それでオレがお前たちの元に下ると思ってるのか」
 崩れ落ち、形も無くなった剣の柄を握りこんでネリムは視線を下ろす。 重力場による体力の限界が近い様は、来たばかりのリエにも一目で分かるほどだ。 リエといえば、危機的状況に陥りつつハルクの説得に耳を貸しながらも、折れる様子を見せぬ、かつての旅仲間をただ見ていた。
「確かにそうさ、旅団には……オレや、あの人が求めてるようなものなんてない。 目的のためなら、周りの人が苦しんでても構わないような連中……この先も仕え続けるなんて、冗談じゃない。 けど……」
 ぽつり、ぽつりと語りだすネリムは胸に剣を持たぬ左手を当てて、それをぎゅっと握り締める。 そっと、辺りに漂い始めた光の粒は仄かに輝き、ハルクは眉をひそめた。
「けど……、旅団には仲間がいる。 オレは旅団のために戦ってるんじゃない……仲間のためだ。 お前たちにどう見えようと勝手だけど、オレは仲間を裏切ることなんか、絶対に……」
「お主……何を考えている」
 ハルクが【高重力場】の方程式を書き足すべく手帳を出すが、その前にネリムの手には一筋の光が現れていた。 その光は次第に矢の形を形成していき――。

「図書館に下ることが裏切りになるなら……、せめてオレは……“博物館”のメンバーとして……!」

 ――その矢先が向く方は、ネリム自身。
 光の矢の名は、ライトニングシューター。 神々の放つ稲妻をも撃ち落すとされる秘術の矢は、主の胸を――。



 ※ ※ ※



「――…………」
 翡翠の瞳がまず目にしたのは、真っ暗な空が見える車窓。


「……あれ、オレ、何で生きて……」
「黙って寝てろ、嘘吐きの卑劣漢」
 次に目にしたのは、赤茶色の子狐を肩に乗せた黒髪の少年。 名は確かリエ・フー、と商人に名乗っていただろうか、とおぼろげな意識のまま考える。
 彼が手にペンダントを握っているようだったが、自分が狙っていた竜刻ではないことは辛うじて――紐が違うから――分かった。
 彼の所持品である勾玉、そう呼ぶらしい石飾りは――この視点からは見えず、後で知ったが――木っ端微塵に砕かれていたそうだ。
「ったく……この冬瓜(トングァ)、てめえでてめえを蔑み続けて、挙句の果てには自決か? ンなひねこびた生き方で憧れのあのヒトとタメ張れんのかよ」
「……煩いな」
 自決、そうだ自分はあの場で魔力の矢を、自らの腹に突き刺したハズだ。
 なのになぜ生きているのか……、その答えはこの段階では検討も付かなかったが、今のオレにはそれを知る由もない。
 少なくとも目の前で不敵に笑うリエは、その理由を語るつもりなんて微塵も無いだろう。 聞かないことにした。

 ※ ※ ※

 ネリムが眠りについた後、リエは粉々に砕けてしまったトラベルギアをパスホルダーへと収める。 己の命を絶とうとしたネリムを光の矢から護るため、ギアで結界を張った。 結果、己のギアは破損してしまったが、同じ荷台に乗った仲間の命に比べれば、安いものだと一人微笑む。

「俺はてめぇに賭ける。逆境で正義を貫く、英雄の誇りにな」
 そして取り上げたのは、ネリムの傍らに落ちていた携帯電話。 画面には着信履歴を知らせる表示がいくつか並んでいた。
 発信者の名は、“ノラ”と記されている。

 ※ ※ ※

「無事に戻ってくれたね、お疲れ様」
 挨拶は手短に、猫司書は今回の冒険へ赴いたロストナンバーへ労いの言葉を送った。 そしてちらりと幸せの魔女の方を見て、やや苦い顔を浮かべる。 彼女の髪にとめられた白い花のコサージュは、出発時には見なかったはずなのだが。
「約束通り、積荷のひとつとしてこれを貰ってきたの」
「有言実行とはよく言ったものだね……」
 似合うかしら、と髪に咲く花と共に笑う魔女に苦笑いを向ける猫の傍らには、彼らが発つ所を見届けた狼剣士が手を振って出迎えていた。
「お前らが今回捕らえてくれた旅団員……ネリム・ラルヴァローグはホワイトタワーに送られることになったぜ。 後で俺が尋問しにいくことになったから、コッチは任せてくれ」
 にかっ、と笑う彼もまた挨拶程度の言葉を交わして背を向ける。 しかし司書が去った後も感じる視線に対し、彼は暫しの沈黙の後……、振り返らずに答えた。
「名字が同じなのは偶然、だと思いたかった。 正直、依頼を聞きに行った時も俺が行くべきか悩んだ。 ……結局、お前たちに任せちまったが」
 はぁ、と大きなため息と共に尖った耳がぱたりと倒れる。
「ネリムって言う名のガキのコトは、親父から聞いたコトがあった。 親父のキャラバンに同行してて……死んだって話だ。 旅の道中、襲撃にあった時にな。 結局その時、ネリムの遺体は見つからなかったらしいんだが……」
 こういうオチか、と乾いた笑い声を上げて頭を掻きながら、金色の毛を持つ狼の獣人はその場を立ち去った。

 終
[236] あとがき(偽クリエイターコメント)
オルグ・ラルヴァローグ(cuxr9072) 2012-05-14(月) 23:09
 この度も大変お待たせしてしまい、参加者の皆様にはご迷惑をおかけしました。
 ここに偽シナリオのノベルを投稿させていただきます、ご参加ありがとうございました。

 結果としましては、竜刻回収そのものは成功と言う形となっています。
 旅団員であるNPC、少年ことネリムは気になるワードを残して白の塔に収監されました。
 一部のお方はアイテムを回収している流れとなっています。

 正義の形は人によって違うものと言うことを、皆様のプレイングを見て改めて噛み締めた次第です。
 この度も偽シナリオにご参加頂き、ありがとうございます。
 以下、個別コメントです。

>リエさん
 ネリムの内面に最も強く干渉されたプレイングをいただきました。
 “アノ人”に関する情報も探っていただいたので、その答えとしてオルグが少し語っています。
 また、ネリムが落とした「携帯電話」はリエさんに回収して頂きました。
 その内、発信者から電話かメールが届くかもしれません。
(※とある偽シナリオの優先枠を設けさせて頂きます、辞退も可能です)

>幸せの魔女さん
 魔女さん達にはいつもいつもお世話になっております。
 戦闘に振り切ったプレイングを頂きまして、少年を肉体的精神的共にボコって頂きました。
 「力無き正義って無力よねぇ」となじった後は、不幸の少年に興味が無くなったノリで描いてみました。
 お土産として、商人が愛する妻の為に買い付けたコサージュをお送りします。 幸せは奪い取るもの。

>ナインさん
 今回は潜入に振り切ったプレを頂き、共に潜入したリエさんのサポーターとして一つ。
 また相手ケットシーに対し、明確な対処を描いて頂きましたので、ダークホースは暴れる前に沈んでいます。
 名の通り六つの弾丸を用意して頂きましたが、出来る銃士さんは無駄玉は撃たないだろうとして、あえて残しています。
 個人的にはナインさんとケットシーの猫タワーを見てみたいです。

>ハルクさん
 本日の詰みゲーです。 幸せの魔女さんとのタッグで無理ゲーとなりました。
 初シナリオ(偽ですが)を任されてしまい、責任重大と知ったのは昨日でした。
 方程式の映写は言葉選びなどはかなり悩んだのですが、あの映写で問題が無いことを祈ります。
 ところで方程式は書いた後、効果の発動と同時に消える映写にしていますが……あれでOKでしょうか。

 

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[202] 【偽シナリオ】黒歴史は幾度も輝く
ブレイク・エルスノール(cybt3247) 2012-01-10(火) 22:34
「魔法少女ふわふわニコル、華麗に参☆上 なのじゃあぁぁぁぁ!!」「もう魔法少女でいいや」

 ※ ※ ※

 真夜中の静まり返った民家街に、野太い咆哮がかすかに響く。けれど住民が眠りに着いた時間帯ということもあり、これを咎める住民は偶然にも一人すらいなかった。

 この咆哮を上げている人物、老人ニコラウス·ソルベルグは涙していた。 今年還暦を迎えるニコラウスは、自身の書斎にある棚を一つ横に動かすことで出来る隠し扉の前で、ぽろぽろと飴玉のように真ん丸い涙を、しわくちゃの肌の上に滑らせている。
 隠し扉は開かれていた。 周囲の壁と色合いが差ほど変わらず、普通の壁とほぼなんら変わらぬそれは回転式で、まるで忍者屋敷の仕掛けにも似ていたが、問題はその部屋の中だ。 そこには厳粛なる態度を今まで崩さなかった老人が心の内に秘めていた情熱が、おもちゃばこをひっくり返したかのように溢れ出している。
 ふりっふりのひらひらが備わった緑色のローブ、黄色い星のマークが愛らしい緑のとんがり帽子、サンタクロースと見紛うほどの立派な白い付け髭に、怪しげな文字列が並ぶ本がたくさん、そこら狭しと転がっていた。 いや、ニコラウスからしてみれば「荒らされていた」と言うべきだろう、普段はこんなに本が飛び出ていることなど有り得ないし、密かな宝物だった「魔法使いマーリンの杖(レプリカ)」に至っては、先端についた星の飾りの先っちょが僅かに欠けている。
「ああ、ワシの、ワシのサンクチュアリ(聖域)が、なぜこんなことに……うぅっ」
 あまりの惨状に思わず自問するニコラウスだが、既に心当たりはあった。 去年の暮れの大掃除、この書斎を掃除してくれた兄は帰り間際に、どこか意味深な笑みを浮かべていたのだ。 「おまえにそーんなシュミがあったとはのう!」と、ニターリとした嫌らしい笑顔だったと記憶している。 まさか、兄はこの部屋を見たというのか。 いやもうそれ以外考えられない!
「うぅ……、ひどい、ひどいよエリックお兄ちゃぁん……」
 まるで子供のような口取りで泣くニコラウス。 彼は兄にこの部屋を、自身のシュミを知られたこと以上に、そのシュミをぞんざいに扱われてしまった事実に果てしない悲壮感を抱えていた。 しかもバカにしたような笑顔つきで。

「そりゃーたしかに酷いなぁ」
「!! やめてぇ! これ以上ワシのハートとサンクチュアリ(聖域)を傷付けないでぇ!!」
 突如聞こえた声にニコラウスはすかさず身構え、浜辺に打ち上げられたかのように寝転がっていたマスコットキャラ「まじかる☆テディさん」のぬいぐるみをぎゅぎゅっと庇うように抱き締めた。 既に深手を負った心の傷を、また第三者に抉られるなどもうゴメンだった。
「いやいや違うって。 酷いのはじーさん、アンタじゃないよ。 時に相談なんだけど」
「ハンパな慰めなんていらんわぁ! 何処の誰かは知らんが今すぐ出て行けぃ、さもなくばワシに秘められた壮大なる魔力が暴走しt」
「なぁじーさん、魔法使いになりたくなぁい?」
「なりたい! ワシは魔法使いになりたぁぁい!!」
 けれど相手がすらりと提示した条件に、ニコラウスの決断は異様なほど早かった。
 ニィィ……と、心底楽しそうな笑顔を浮かべる朱色の獣は、着ている背広の皺を伸ばしながら、老人に手を差し伸べる。

「その願い、叶えてやるよ。 だから、オイラと契約しt」「ワシを魔法少女にしておくれぇ!!」「いやソコは魔法使いでいいと思う」

 ※ ※ ※

「純粋無垢な少年の心。 それを持ち続けてる大人は輝いて見える。 ……本当に?」
 じとり、と不愉快を全面に押し出しました、という表情を猫の顔に浮かべる世界司書のディスは、悔しさを滲ませながらも導きの書を開いた。
「世界樹旅団が動いてる。 場所は壱番世界、ノルウェー。 <真理>に覚醒したコンダクター、ニコラウス·ソルベルグを旅団員が勧誘し、それに成功してしまった。 今から行っても、ニコラウスを止めることは……もう難しい」
「遅れを取った、と言うことですか?」
「グサっと言ってくれるね、キミ」
 横槍で見事に猫の心中を貫いた緑色の魔導師に、灰色の猫は緑色の瞳で不届きモノをにらみ付けた。 その真横でゲラゲラと下品な笑い声を上げる悪魔の石像も巻き添えにして。 いやいや、と首を横に振るう猫はひとまず彼らを切り捨てて話を再開させる。
「ニコラウスを止めることはもう難しい、けれどニコラウスがこれから起こしてしまうであろう殺人ならば、今からでも食い止めることが出来る」
 ここで先ほどまで騒がしかった笑い声が止まる。 殺人と聞いた魔導師が、主の権限を行使して石像の声を止めたからだ。
「ニコラウスとその勧誘者はナレンシフへと乗り込む前に、とある民家を襲撃し、その住民である老人……エリックを殺害すると導きの書は示した。 君達には、それを阻止してもらいたい」
「ちょっといいですか? 旅団の目当てはそのニコラウスさんの勧誘……ですよね。 なんでそのエリックさんを殺害する必要が」
「煩い黙れ横槍入れるな。 ……エリックはニコラウスの兄、殺害の動機は、弟の趣味を兄があざ笑ったから」
『チナミニソノ趣味ッテノハ何ダ?』
「……それも後で話すから横槍止めろ」
 一瞬だけ本気でブチ切れそうになった猫は、「今回は必要だろうから」と、世界樹旅団から派遣された勧誘者についてのメモを取り出し、その場にいるロストナンバー全員に向けて飛ばした。 人々の目前で浮かぶ一枚の紙には、黒い背広を着こなし、蝙蝠のそれに似た翼を生やし、黒のアイボリーハットを被った朱色の獣人が描かれている。
「勧誘者の名はテリガン。 見た目は翼を生やしたカラカル……ネコ科の獣人だけど、当人は悪魔を自称。 能力は今のところ……『願いを叶える力を持っている』としか。 結果、テリガンはニコラウスの『願い』を叶え、彼を魔法使いに変えてしまった」
「悪魔!?」『魔法使イィ?』
「横槍入れるな餓鬼共。 ……テリガンは願いを叶える悪魔。 ニコラウスの願いは『魔法使いになること』。 そしてテリガンの力で魔法使いになったニコラウスは、その力の証明として、兄であるエリックに行使しようとしている。 けど力加減も分からないヤツが扱う魔力だ、ちょっとした弾みで相手を殺しちゃうなんて話……」
 よくある話だろう、と猫の瞳はその場にいた誰かへと問いかけている。 その問いへ脳裏に何かを感じたのか、魔導師……ブレイク·エルスノールは微かに俯いた。
「ニコラウス達がエリック邸へ向かうためのルートは既に判明している。 君達にはそのルート上にある森林地帯で彼らを待ち伏せてほしい。 エリック殺害を阻止するためには、ニコラウスとテリガンの両名を無力化、もしくは撤退させる必要があるから、戦闘準備はしっかりと整えておいて。 ……それと」
 作戦の要点を言い終えた後、猫の口が暫し止まる。 数秒か、数分かの静寂の後、「これは思い過ごしかもしれないけれど」と自信なさげに呟かれた。
「……ニコラウス達を退けても、油断はしないでほしい、かな。 曖昧だけど、嫌な予感がする。 暫く警戒を続けてほしいんだ。 念のため、エリック邸の場所もノートに送っておくから」

 ※ ※ ※

「ふぉおおおぉぉぉっ! スゴい、スゴいぞぉ!! これが、ワシの、魔法少女の力ぁああぁ!!!」
「つか魔法使いでいいだろじーさん、にしてもスゲェ嬉しそうだな。 オイラも嬉しいぜ……おっと」
 “契約”の後、夜中だと言うのに歓喜の余り叫びまくる老人の横で、黒い背広を着た獣――テリガンはちょっと失礼、と一言許しを口にして懐に手を伸ばす。 取り出した携帯電話の数字キーをぴ、ぽ、ぱ、と押した。 呼び出し音が数回響いた後、画面に映る文字が「通話中」に変わる。
「よぅリーダー、こっちは上手くいったぜ。 そっちもスタンバーイ宜しくにゃー♪」
「りーだー? 誰なのじゃ、その“りーだー”とは。 も、もしや……悪魔の上司と言えば、魔王か! いやそれとも魔神!?」
 ぴ、とただ一言の通話を終えた頃に準備万全、といった様子の魔法少女(自称)が興奮止まぬ状態のままテリガンに問いかける。 それに対しテリガンはにこりと、ただ楽しそうに答えた。
「魔王でも魔神でもねーけど……けどま、オイラたちのリーダーだよ。 “物好き屋”とも呼ばれてるけど……ま、アンタも会ったら気に入ってくれると思うぜ」

〜〜発言が3件、省略されました〜〜
[207] 【参加表明】

蜘蛛の魔女(cpvd2879) 2012-01-11(水) 18:42
悪い魔法少女には世間の厳しさっつーのを教えてあげないとね。魔女であるこの私が直々に体に叩き込んでやるわ。ついでに蝙蝠お化け(旅団)も串焼きにして美味しく頂こうかしら。キキキキキ!
[209] 【参加表明】
畏まりました。ワタクシに御任せ下さいませ。
医龍・KSC/AW-05S(ctdh1944) 2012-01-11(水) 23:17
申し訳ございません。かつて知り合ったワタクシの友人に御姿が被りましたもので、放ってはおけませんでした。
魔法に関しては専門外ですので、どれ程対処出来ますか不安には御座いますが…。
[210] 参加者確定、OPノベル
ブレイク・エルスノール(cybt3247) 2012-01-12(木) 00:09
「ほう、悪魔(ドウギョウシャ)か」
 あまり調子に乗って貰われては困る、とチケットを手にしたのはオズ/TMX-SLM57-P。
 豹の頭部を持つ獣人型のロボットはとある悪魔を模した姿を取っており、「悪魔」を自称するツーリストに目をつけたようだ。
 彼を見送る悪魔を象った石像は、『新手ノガーゴイルカ?』と愉快そうに話しかけるが、フンと鼻であしらう。
「ひとの趣味を嗤うのはいかんのう。 そんなけしからん奴にはおしおきじゃ!」
「相手、間違えてるよ」
「……と、おしおきするのは旅団の方じゃったな、失敬失敬」
 司書猫が飛ばしたチケットを受け取ったネモ伯爵は、矛先を向ける相手を指摘されてにやりとほくそ笑む。 そこへキキキキッ! と独特な笑い声が響いた。
「悪い魔法少女には世間の厳しさっつーのを教えてあげないとね。 魔女であるこの私が直々に体に叩き込んでやるわ!」
「魔女ー、初めて見たー」
「ついでに蝙蝠お化けも串焼きにして美味しく頂こうかしら。キキキキキ!」
「え。 悪魔って食べれるの」
 ぱちぱちと緩い拍手を送るブレイクの横には魔女がいる。 背中から生やした蜘蛛の足揺らす彼女は緑の魔導師に「ところでなんの魔女さん?」とゆるい調子で聞かれ、「私こそが蜘蛛の魔女様よ! しかと覚えておくのね!」と胸を張っていた。
 そこへ。
「申し訳ございません」
 白衣を着たドクタードラゴン、医龍・KSC/AW-05Sが深々とした一礼の後にチケットを手にする。
「かつて知り合ったワタクシの友人に御姿が被りましたもので、放ってはおけませんでした」
「姿は似ていても、他人の空似と言うことを忘れずに。 ……気をつけて」
「勿論にございます」

-----------------------参加者-------------------------

・オズ/TMX-SLM57-P
・ネモ伯爵
・蜘蛛の魔女
・医龍・KSC/AW-05S
[226] 本編ノベル
ブレイク・エルスノール(cybt3247) 2012-02-25(土) 22:04
 壱番世界の夜は静かだ。
 閑静な田舎町となれば活動している人間も限られてくる上、森の中の獣ものん気なものならばすやすやと寝息を立てているこの時間帯。
 森の中を突き進むのは朱色の獣と、緑色のふわふわとしたローブを着込んだ老人という奇妙な二人組。 老人――ニコラウス・ソルベルグに至っては鼻歌を交え、るんたるんたとスキップまでしていた。
「じーさん、あんまはしゃいですっ転ぶとかナシだぜ?」
「心配無用! なぜならァ、ワシは魔法少女ふわふわニコ」
「あーもう魔法少女でいいから静かにしてくれっての。 あの連中が来るかもしれねーだろ?」
 念願の魔法使いになれて上機嫌なニコラウスと裏腹に、自慢の耳をぴんと張りつつ金色の瞳を光らせる獣――テリガンは周囲を警戒しながら先を行く。 先ほどまで被っていたアイボリーハットは左手で握り締めていた。
「あの連中? そういえば“契約”の時も言っておったのぅ……らいばるがおるとかなんとか」
「そうそうライバル。 連中と出くわすよーになってから、契約相手見つけるのも一苦労でさ。 実を言うと出来るなら、もうちゃっちゃとナレンシフ? とか言うのに乗り込みてーんだけど」
「その前に兄さんの元へじゃ! 魔法少女と化したワシのパゥワーをぉぉ!」
「デスヨネー。 ……っと、ウワサしてりゃなんとやら?」
 騒ぐな、と騒ぐ老人の口を帽子で塞ぐと、空いた右手でニコラウスのローブの襟をがっしりと掴んでから耳元で囁いた。
「じーさん、走れる?」
「ニコルと呼んでもいいのじゃよ? 勿論走れるとも、魔法少女☆ふわふわニコルを侮るでない!」
「あ、やっぱ走んなくていいや」
「え――」
 と、ふわふわニコルが声を漏らす前、黒い背広の内に隠した獣の筋肉を躍動させてテリガンは夜の闇を駆け出す。 後に残るのは夜の静けさ――ではなく。
「ヒィィィィ?!」
 凄まじい勢いで引き摺られていくニコラウスの哀れな悲鳴。
 そして。
「哀れな魔法少女は――」
 ニコラウスが引き摺られながらも指差す先には――居た。 背の向こうに蠢く何かを忙しなく動かし、疾走するテリガンとニコラウスを追い立てる存在が、すぐそこに。

「――魔女に食べられてしまいましたとさ、めでたしめでたし……。 な~んてね!」
 キキキキキキ――!!
 森の木々の間を飛び交いながら哂うのは蜘蛛の魔女。 その声を合図に、深夜の静まり返った森を舞台にして、決戦のバトルフィールドが幕を開けた。

 ※ ※ ※

 壱番世界の夜が静かだったのは、つい先ほどまでの話となる。
「冗談キツイって! よりにもよってバリバリ戦闘要員かよぉ――!?」
 魔法少女(翁)をずるずる、ずかずかと引き摺る音などかき消す悲鳴を上げながら悪魔は駈ける。 彼らが森に入ってから最初に遭遇した蜘蛛の魔女はと言えば、逃げに徹しようとする悪魔と魔法少女(翁)に嘲笑いながらその距離を縮めていく。 背に生やした八本の蜘蛛脚を自在に操り、木々で入り組んだ森を縦横無尽に駆けている。
「たった二本の足で、この私から逃げられると思ってる? お化け蝙蝠のノーミソって割と小さいのかしら?」
「出会い頭に失礼なヤツだな! オイラ悪魔なんだけど!?」
 やがて逃げ切ることは出来ないと悟ったテリガンは立ち止まると、さっきまで掴んでいたニコラウスをそこらの木に寄りかからせる。 ニコラウスと言えば力任せに引っ張られた影響で目を回し、ついでに腰を痛めてグロッキー状態となっていた。 戦う前から自力で移動が不可能に近いという最悪のコンディションである。
「中途半端な魔法少女が本物の魔女に戦いを挑むとどうなるか…、その身を持って思い知るといいわ!」
「ヒィッ!?」
 そしてその好機を見逃すほど蜘蛛の魔女は甘くなどなかった。 差ながら猛禽が鼠を捕らえに掛かるかのような身のこなしでニコラウスへと飛び掛り、その身に蜘蛛の爪を突き立てようと迫る。 しかしそれは横から飛び出した鋼に阻まれた。
「って、じーさん狙うのかよ……アンタらじーさんの横取りしにきたんじゃねェの?」
 苦笑いを浮かべながら、テリガンは咄嗟に手にした猟銃で蜘蛛の爪を受け止めていた。 その状態から身を捻り、蹴りを魔女の腹へと放つが魔女も跳躍することでそれを回避する。 引き際に蜘蛛の糸を周囲に張り巡らせ、その一部をテリガンに向けて放った。
「横取りなんて生易しいもんじゃ済まさないわよ! 私の目の前で『魔法少女』だなんてフザけたことのたまった以上、問答無用でギッタンギッタンにしてやるわ!」
「……ソレさ、オイラ完全に巻き添えコースじゃん?」
「寧ろ串焼きコースね、蝙蝠の串焼きとか美味しそうじゃない?」
「だからオイラは悪魔だっての!」
 粘着性のある蜘蛛糸を被せられてもがきながらも、テリガンは猟銃を振り回して反論する。 そこへ。
「目標、補足」「――ッ!」
 テリガンが見たのは魔女が地に足をつけたのとほぼ同時、入れ違うカタチで鋭利な刃を振り上げて迫る巨大な影。 一切の躊躇いなく落とされたブレードが眉間に当てられる前に身を横へ倒す。 だが避けられたかに見えたこの一撃に、2mほどある巨影――オズ/TMX-SLM57-Pは確かな手ごたえを感じていた。
「今ので片翼だけか……、悪魔(ドウギョウシャ)を騙るだけのことはある、と言うことか」
「……ドウギョウ? オイラにゃアンタ、ただの鉄クズにしか見えねーけど」
 ぼたり、と地に落ちた蝙蝠の翼を踏み潰しつつ、オズは倒れこんだテリガンに再度ブレードを向ける。 重装甲の脚部の下で翼はどろりと溶けて紫色の染みを作り、それもやがて煙となって消えていく。 それを見届けることなく、テリガンはすぐに立ち上がった。 背には切り落とされたはずの翼を羽ばたかせ、オズと蜘蛛の魔女から距離を置くように後退し、未だ座り込んでいたニコラウスの傍らに降り立った。
「翼はまた生え変わるのか」
「……痛ェもんは痛ェんだケドな。 のっけからゴキゲンなご挨拶アリガトよ、お二人サン」
 蛇のように長い紫色の舌をちろちろと覗かせながら、けだるそうに一礼してみせる。 腰を曲げたまま、顔だけを上へ向けると、金色の瞳をギラリと輝かせた。
「いーや、三人か」
 刹那、轟く銃声。
 顔を上げると当時に狙い澄まし、放たれた弾丸の――その先に届く前に、弾道を予測したオズがそれをブレードで切り払う。 不意に右翼を狙い撃たれそうになったのは、白衣を着た翼竜――医龍・KSC/AW-05Sだった。 弾丸を弾かれてヒュウ――と口笛を吹いたテリガンを、医龍は臆することなく前へと歩む。
「初めまして。 ワタクシは医龍と申すもので御座います」
「御丁寧にどーも。 けどオイラ、アンタらに付き合ってるヒマねーんだよなぁ」
 丁重な名乗りをばっさりと切り捨てて、煙を噴く銃口を再び医龍へと向ける。 その対応に苦しい表情を浮かべた医龍を面白がって「にししっ」と笑った後、金色の瞳を細めて白衣の龍に囁く。
「そこのねーちゃんが背中に背負ってる足一本と、そっちの鉄クズの右腕くれたら話聞いてやってもいいぜ?」
「それは――」
 医龍が口を開く前にオズと蜘蛛の魔女は躍り出ていた。 鋭利な刃と爪が左右からほぼ同時に振り翳されて、軽口を叩いた悪魔へ制裁の一撃を繰り出す。 対しテリガンは一歩飛びのいて回避を試みたが、蜘蛛の魔女の爪が右肩を抉る。 微かに顔を歪めたテリガンへ、オズがブーストで急接近して追撃、胸部を抱えていた猟銃ごと切り裂いた。
「チッ!」
 テリガンは真っ二つにされた猟銃を乱暴に投げ付け、舌打ちをしながらアイボリーハットを左手に取った。 帽子の中に右手を突っ込むと、その中から新たな猟銃を二本掴み、それぞれの手で一丁ずつ取る。 二つの銃口の片側はオズを捕らえたが、もう片方の先に蜘蛛の魔女は既にいなかった。
「うひょえぇっ!?」
「じーさん!!」
 甲高い悲鳴の先を振り返れば、ニコラウスが先ほどまで寄りかかっていた木の幹に蜘蛛の魔女の爪が突き刺さっていた。 爪を間一髪で避けたらしいニコラウスはといえば、地面に倒れこんだ状態で『魔法使いマーリンの杖(レプリカ、キズ有り)』をぶんぶんと振り回している。 長年の情熱をその身に秘めていたと言え、ニコラウスは若い頃から殴り合いすらしたことのない壱番世界人。 戦いにおいては全くの素人であり、元居た世界で血で血を拭うほどの殺戮の中を生き延びた蜘蛛の魔女に対し抗う術を持っていなかった。 だが不幸にも蜘蛛の魔女が定めた獲物は、初めから『魔法少女』一択だ。
「あんたは可憐で美しい蝶々、私は獰猛な蜘蛛。嗚呼、これは困った、戦う前から私の勝ちが確定したわ」
「魔女様、くれぐれもやりすぎては……」
「わかってる、殺しはしないよ。 おじーさん食べてもおいしくなさそうだし。 ただちょいと世間の厳しさってのを身体に叩き込んでやるだけよ……キキキキキ!」
 医龍がトラベルギアである救急医療鞄の携えつつ警笛を鳴らすが、ニコラウスの姿や言動が相当癪に障った魔女はちょっとやそっとでは止まらない。 爪を突き立てるどころか今にも頭に喰らいつかんばかりのオーラを放ち、魔法少女(素人)をぶるぶると震え上がらせていた。
「おいコラァ! じーさんに手ェ出したら――」
「余所見をしている場合か?」
「ッ!?」
 ニコラウスの救援に走ろうとするテリガンの前にすかさずオズが割り込んで行く手を阻む。 オズにとっての標的は『悪魔(ドウギョウシャ)』であり、その狙いはテリガンとニコラウスの分断だ。
「でぇい、ジャマなんだよ、ドウギョウ気取りのデクノボーめ!」
 テリガンは両の手に持つ猟銃をオズへと向け、二つ同時に引き金を引く。 銃口から放たれた散弾の全てがオズを蜂の巣にせんと迫るが、オズはその弾丸全ての弾道予測は勿論、テリガンの指の動きから発射のタイミングすら読んで演算を開始。 必要最低限の動作で散弾の効果範囲から逃れつつもテリガンとの距離と詰め、さらに追い立てていく。 ブレードを一振りすれば、切っ先がテリガンの左肩を切り裂いた。
「銃の腕はさほど良くないようだな?」
「チッ……。 おいじーさん、いつまでもへばってる場合じゃねぇだろ! せっかく魔法少女とやらになったんだ、そこの“本物”に試してみなよ、きっと楽しんでもらえるぜ?」
「おおっ、そうじゃ、そうじゃの! うひょええぇ!」
 背広を赤紫に染めつつ叫ぶテリガンに、魔法少女(翁)になっていたことを思い出したニコラウスは瞳を輝かせた。 その間にも蜘蛛の魔女から容赦のない攻撃に晒されており、それを間一髪で避け続けている所を見るに、テリガンの与えた力は老人の身体能力すらも向上させているらしい。 ニコラウスを説得するつもりで来ていた医龍と言えば、毒性の薬瓶を手にしながらもニコラウスが大怪我を負ってしまわないかとハラハラしていたが。
「ふひぃ……、わ、ワシの50年間暖め続けた情熱を甘く見るでなぁい! 我が祖先よ、今こそワシに力をぉぉぉ!!」
 当の魔法少女(情熱)は元気そうで何よりだった。 だが一息をつく暇はない、なぜならニコラウスの瞳が紫色に怪しく輝いているのを見てしまったから。 それを尤も近い位置で目にしている蜘蛛の魔女も、それに強力な魔力――借り物と言えど――を感じてそれに備える。
「受けよ! 我が秘められし魔道……」
 右手でVサインを作り、それを瞳の前……視界を遮らないように翳し、彼は唱えた。
「まじかる☆パッションレェェェザァァァーーッ!!」
 ウインク一発。 キラッと一瞬の閃光の後にそれは発動した。 ニコラウスの瞳から紫色の熱光線が真っ直ぐに放たれる。 50年間の秘められた情熱を凝縮させた力を魔女は茂みに隠れることで直撃は免れたが、その茂みも熱線の影響で焼かれて飛び火が舞う。 テリガンの相手をしていて、たまたま直線上にいたオズの装甲を僅かに掠ったらしく、少し焦げ目が残っていた。 老人の戯言と言うには洒落にならない攻撃性能に、オズはテリガンの持つ「他者の願望成就」の能力に警戒を強める。 が。
「…………えっ」「…………ちょ」
 凄まじい破壊力に目を見開き、口をあんぐりと開けているのは、光線を放ったニコラウス本人と、その力を与えたであろうテリガンだった。 このリアクションに医龍は瞳を細める。 声を掛ける機会を窺いながら、二人との距離を詰めていく。
「ちょちょちょ、ちょっと待てじーさん! まさかソレをアンタのにーちゃんに使おうとした? え、ちょ……マジで!?」
「あれ、おかしいのぅ、ワシの予定では魔法パゥワーでメロメロにする予定なのじゃが……アレ?」
「『アレ?』じゃねぇし! おいおい止してくれよ、あんなん当たったらにーちゃん黒焦げコースだろどう考えても。 リーダーは『何かが死んだ』って報告が一番キライなんだからさ、それだけはマジ勘弁!」
「ワシだってそうしたいわァ! じゃが初めて使う魔術じゃし、どう調節すればいいのやら……」
「あの……お二方。 少々宜しいでしょうか?」
 片や動揺、片や困惑した様子で話し込む二人に医龍が割って入る。 この老人、もしや。
「もしや貴方様方がこれから行おうとしている制裁行為で、エリック様が亡くなってしまうと言うことは……」
「なんと、兄さんが! だ、誰がそんな酷いことを!?」
「誰がって、アンタでしょうが」
「そんな、ワシはただ、魔法少女になったワシをいち早く兄さんに見せたかっただけなのにっ」
 こんなヤツが『魔』法少『女』を名乗るなんて――怒りを通り越して呆れるのは蜘蛛の魔女。 獲物から餌食に成り下がった魔法少女へトドメとばかりに爪を振るい、両足を貫いた。
「のおーっ!?」
「じーさん!!」
 たまらず地面に倒れこむニコラウスの前に躍り出たテリガンが蜘蛛の魔女を睨み、散弾をばら巻いて下がらせる。 距離が開いた隙に現れたのは、巨大でファンシーな風貌のくまのぬいぐるみ「まじかる☆テディさん」。 ニコラウスの悲鳴を聞きつけて現れたマスコットは、蜘蛛の魔女を押さえ込もうとのしのしやってくる。
「願え、兄ちゃんの家に行きたいって! そうすりゃここから逃げれる……早く!」
「させるか!」
 テディさんを盾に撤退を計るテリガン達に追い討ちを仕掛けるのはオズ。 ブーストでの高速移動を駆使しつつ、手頃な樹木を数本切り倒し、それらをテリガンに向けて押し倒していく。
「ワ、ワシを……」
 迫る倒木を前に、老人は瞳に涙を溜めながら叫んだ。
「ワシを、エリック兄さんの家まで送っておくれ――!!」
 叫びは途中で途切れ、阻むように大木が次々と倒れこむ。 だが最初の一本が倒れきる前には、テリガンとニコラウスはまるで初めから何もなかったかのように、忽然と姿を消していた。 オズは振るったブレードを鞘に収め、エリック邸のある方角を見据える。
「引き離しは失敗したか……」
「んじゃ、あたしらも後を追いかけるわよ。 ……その前に」
 オズのブレードで両腕を切り落とされたくまのぬいぐるみを見て、蜘蛛の魔女は八本の蜘蛛足全てを振るい、布地の身体に突き刺して。
「食べ応えなさそうだけど、いただきま~す」
 まずは一齧り、とくまの耳を食い千切った。

 ※ ※ ※

 ぴ、と携帯電話のボタンを押す。
 画面に浮かび上がる「呼び出し中」の文字をしばらく眺めて、目を細める。
 相手は呼び出しに応じない。 何かトラブルがあったのだろうか。

「……テリガン」

 ……嫌な予感がする。
 こちらの目的はもう終えたし、様子を見に行っても……いいかな。
 そう考えた青年は茶色いブルゾンコートに袖を通し、とある老人が眠る家を立ち去ろうとした。

 丁度、その時。

「待ちわびたぞ、魔法少女ふわふわニコルよ!」

 家に立ち入る前には見かけなかった誰かが、屋根の上に立っていた。

 ※ ※ ※

「むむ? おぬしがニコラウスか? 老人じゃと聞いておったのじゃが」
 現地に到着した後、エリック邸でニコラウスを待ち伏せていたネモ伯爵がまず目にした人影は、世界司書が語った人物像とはかけ離れていた。 見た目は老人というよりも、20歳前後の青年。 黒髪に黒い瞳と、壱番世界で言えばアジア人に見える男が屋根の上にいる自分を見上げている。
「……人違いじゃない? おじいさんって歳には見えないと思う、多分」
「それもそうじゃな、いやぁ、失敬失敬」
 薄笑いで返した青年に、ネモは自身の頭をぽんと叩いて微笑み返す。 そしてふと、司書が語ったあることを思い出した。
「(そういえばディスは、『嫌な予感がする』と言っておったのう)」
 青年の頭上に真理数は見えない、となればネモと同じロストナンバーだと分かる。 導きの書に写らなかったこの人物が『嫌な予感』の元凶だとすれば、油断は出来ない。 ネモが思案を巡らせていると、青年は何かに気が付いて振り返った。
「あー、リーダーお待たせ……って、うええっ、ここにも敵いんじゃん!?」
「ひぃ、ひぃぃぃ」
 暗がりの中から背広を着た獣人と、ふわふわとしたローブの老人が息を切らしつつ転がり込んできた。 二人とも激しい攻撃を受けた後らしくそれぞれ傷を負っており、特に老人の顔はどこか青ざめている。 ネモが屋根から飛び降りて彼らに近付こうとしたところで、獣人が取り出した猟銃がネモに向けられた。 銃を向けている獣人もまた、ネモを睨み――やがてぽかんとした表情でつい尋ねた。
「……は。 アンタ、なにその格好」
「ふおおぉぉっ!! あの御姿はまさしく魔法少女!!」
 どこか白い目で見てくる不届き者とは全く異なり、大怪我を負っているにも関わらず瞳をらんらんと輝かせている老人――こっちがニコラウスかの?――を見たネモは、マントをばさりと広げて名乗りを上げる。 そんなネモの現在の姿といえば、某アニメ作品に登場しそうなフリル満載のゆるふわ魔法少女のドレスローブ。 元々が天使のように愛らしい少年の魔法少女姿は、魔法使いに焦がれた老人のハートをがっしりキャッチしていた。 これには敵であるはずの獣人――テリガンも呆気に取られて銃を下ろす。
「ああ、ニコラウス様! 大変嬉しいお気持ちは分かりますが、あまり興奮なさらないで下さい。 傷がまだ塞がっていないのですから」
「落ち着いてなどいられるものかぁ! 目の前に、目の前に本物の魔法少女がおるというのにー!!」
「なぁじーさん。 あの蜘蛛足生やした女も魔女らしいぜ?」
「あんな怖い魔女は怖いのじゃぁぁぁっ」
 涙目でごろもだと芝生の上で喚く老人をよそ目に、ネモ伯爵は彼をテリガンと一緒になって宥めている白い翼竜の存在に気が付いた。
「おお、医龍ではないか」
「こちらにいらっしゃったのですね、ネモ様。 お姿が見当たりませんでしたので、どちらにいらっしゃるのかと……」
「おぬしは確か、オズや蜘蛛の魔女と一緒に森へ向かったはず。 二人はどうしたのじゃ?」
「アイツらはメンドーだから置いてきた。 その龍、医者だっつーから拉致って来ただけ」
 オイラとじーさんのケガ治さすためにな、と明らかに不機嫌な様子でテリガンが会話に割り込む。 歓喜のあまり暴れ出しそうなニコラウスや、それを押さえ込んでいる悪魔には、身体の所々を丁寧に治療された形跡があった。
「……治療の礼に、とかは期待すんじゃねーぞ。 アンタの仲間がやったんだから」
 その治療を施したであろう医龍には顔も向けずにテリガンは呻いた。 視線はぷいっと明後日の方角へ向けて、飾り毛のついた耳もぱたりと寝かせている。 ひねくれた悪魔が「お前の話など聞くものか」と、漆黒の翼を背負った背は静かに物語っていて、説得を試みようとする医龍を更に遠ざける。
「いいんじゃないの、話くらい。 聞いてあげれば」
「リーダー?!」
 そこへ助け舟を出したのは、悪魔の仲間であろうはずの青年だった。 テリガンも「リーダー」と慕う彼の言葉は存外だったらしく目を見開く。
「おじいさんを含め治療してくれたのは事実みたいだし、君を痛めつけたのもその……オズってヒトと蜘蛛っていう魔女さんなんでしょ。 それに……彼からは敵意っぽいの感じないし、さ」
「むぅ……。 リーダーが、そう言うなら……」
「じゃ、後はお好きにどうぞ。 その怖い二人が来るまで、見物させてもらうから」
「あの、ありがとうございます。 ええと……」
 テリガンの聞く耳を立たせてから、リーダーと呼ばれた青年はにこりと医龍へと微笑む。 話す機会を得られた医龍はぺこりと頭を下げた後、言葉を濁した。 その意を汲んだ青年は先に答えを述べる。
「物好き屋。 そう呼べばいいよ」
「物好き屋様……でございますか?」
「一応、敵対してる者同士でしょう。 僕はお茶は友達としか飲まないし、真の名も親友にしか明かさない主義なの」
 テリガンの次は、リーダー――物好き屋がそれっきり、もう話すことはないとばかりに首を横に振った。

「で、なんだよ?」
 テリガンはエリック邸の庭先に座り込み、じとりとした目で二人を睨む。 物好き屋に話を聞けと促されてはいるが、やはり乗り気ではない様子だった。 対しニコラウスは今もなおネモへキラキラとした瞳を向けている。
「何を隠そうこのワシも魔法少女に憧れておっての。 物は相談。同志よ、おぬしの自慢のコレクション貸してはくれぬか?」
 近頃は魔法少女戦隊が流行りらしいし、一人より二人の方が楽しいじゃろ? とネモはニコラウスから魔法少女の道具コレクションを借り受け、更なる魔法少女を演じていた。 ニコラウスが嬉々と取り出したアイテムの中には、愛らしい外見からは想像も出来ぬくらいの力で抱き締めてくる「まじかる☆テディさん」もあった。 既に所々から綿を噴き出し、無惨な姿になっていたが。 で、その残念な姿にニコラウスは今にも昇天しそうな顔で倒れこんだため――。
「(これ以上テディさんを傷付ければ、説得どころではなくなるかのう……)」
 道具を粗方出させた所で蝙蝠をけし掛け不意を突こうとしていたが、急遽取りやめた。 そうするまでもなく、対峙している悪魔と魔法少女(翁)は既に傷だらけということもあるが、ネモの背後にはテリガンの仲間である物好き屋が控えている。 迂闊に攻撃の意を見せれば、不意を突かれるのはこちら側になるかもしれない。 ちらっと背後を見れば、「ん?」と小首を傾げる物好き屋がそこにいた。
「大切な御趣味を愚弄されて悲しむ御気持ちは良く分かりますが……、しかしながら、力で制裁を加えようとする行為には賛同出来かねます。 特別な趣味というものは相手様の理解を得るのに時間が掛かるものなので御座います」
 ニコラウス愛用の杖を丁寧に取り扱いつつ、医龍は改めて説得を開始する。 その言葉はテリガンよりも、事を起こしたニコラウスに向けられたものだ。
「此処はひとまず気持ちを落ち着け、ゆっくり話し合う事は出来ませんでしょうか……?」
「……先に手ェ出したのそっちだろ」
 ギロリとテリガンが目を細めれば、物好き屋のわざとらしい咳払いが聞こえた。 それには抗えぬとばかりに視線を下げるテリガンはどうやら、物好き屋には逆らえない様子だった。 その傍らでネモはと言えば。
「のう、ニコラウス。 おぬしが魔法少女になってやりたかったのは、兄への復讐などという些事か? 正義と愛の力で世界を救うのが魔法少女ではないか? 私怨の殺人に走って秘蔵のステッキに血と泥を塗る気か?」
「そんなっ。 ワシはただ、ただエリック兄さんにワシの情熱を理解して欲しかっただけなのじゃあぁぁ」
 改めてエリックへの殺意の有無を問えば、ニコラウスは大粒の涙を零しながらそれを否定する。 しかし医龍が目にしたレーザーは兵器レベルの破壊力を持っていたことは事実であり、それを一般人に使えばどうなるか、結果は言うまでもない。 その威力に関して二人が揉めていた点を含めて考えれば、これから起こるとされた殺人は――。
「ようは“ちょっとした弾み”だったんだよね。 僕はそれを防ぐつもりで来たんだけど……何だか可笑しなことになっちゃった」
 ちょっとした弾み。 意図せぬ殺人だと言い切った物好き屋はごく自然な歩みでテリガンに近付き、彼の手を取る。 テリガンは目をぱちくりとさせて物好き屋の顔を覗き込んだ。
「帰るよ、テリガン」
「あれ、コイツらの話聞くんじゃなかったの?」
「悪いけど予定変更。 そろそろ怖い二人がやってきそうだから、撤収する」
「……はぁ、ったく、マジでしつこいな」
 座り込んでいたテリガンを引き起こした物好き屋は、彼の手を引いてその場から離れようとする。 うる目のニコラウスは庭に放っておいたままだ。
「ちょっと待つのじゃ、撤収じゃと? ニコラウスを置いてか?」
「そのおじいさんはそちらに委ねるよ。 おじいさんの本当の願いを叶えたの、テリガンじゃなくてキミだしね。 心当たりはあるでしょう」
 ネモが捨てられた子犬のような顔になっているニコラウスの傍らで問えば、物好き屋は振り返り様にいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「え、リーダー、それってどういう……」
「契約はキミのお蔭で不成立。 故におじいさんの魔法はそろそろ切れると思うから、心配しないで。 それじゃ、また」
 ぱちん、と指を鳴らす音と当時に、二人の姿は掻き消えた。

 ※ ※ ※

 オズと蜘蛛の魔女が己の持てるだけの速度で駆けつけた頃、エリック邸の庭先ではある種の異世界が展開されていた。
「いざ、魔法少女ぷりちー★ねも、見参! さぁ者ども、共に参ろうぞ!」
「とうっ! 魔法少女ふわふわニコル、華麗に参上なのじゃあ!」
「さらにぃ、魔法少女きらきら☆えりくも登場じゃぞいいぃ!!」
 予めエリック邸で待機していたネモ――魔法少女ぷりちー★ねもを筆頭に、先ほどまで一人だけだった魔法少女(翁)が二人に増殖し、ふわふわきらきらと華麗にポージングをキメている。 一部は愛らしく、他はなんとも残念な出来栄えにしばし硬直する二人に、成り行きを見守っていた医龍がかくかくじかじかと説明を施した。
 医龍は云う、魔法少女に扮したネモが『おぬしが改心するのなら、このぷりちー★ねも、コンビを組んでの活動も吝かではない』とニコラウスを勧誘しちゃったこと。
 医龍は語る、話はどどんと拡大し『二人だけじゃ寂しいから、エリックも引き込んでトリオになればいいのじゃ!』と、寝ているはずのエリックの元へ向かったところ、彼は『魔法少女きらきら☆えりく』として既にスタンバイしていたこと。(ネモによって洗脳、魅了済みだった)。
 そして医龍はこう締め括る、彼もまた白いフリルをこれでもかと言うくらい盛り込んだ魔法少女衣装を着込み、白いステッキをくるんと回した。。
「魔法少女いんてり☆いりゅー、ここに推参……に御座います」
「……キサラギの。 貴様、」
「さぁオズ様もこちらをどうぞ。 アナタ様用の衣装もぷりちー★ねも様が準備して下さいましたよ」
 ぜひオズ様へ、と青のゆるふわ魔法少女ドレスをにっこりと勧めてきた。 大柄な体躯のオズでも十分着られるサイズであるところがどこか恐ろしい。
「おおっ、そちらの本家魔女殿の分もあるぞい!」
「これでちょっちダークネスな魔法少女の完成なのじゃ!」
 そして蜘蛛の魔女へ――魔女しか存在せぬ世界からの来訪者へ、ガンメタルブラックのふわっふわな衣装(ご丁寧にも八本の蜘蛛足を通す穴アリ)を推してきたのは、フザケた格好の老人二人。 蜘蛛の魔女は答えない。
「おや、黒はお気に召さなかったかのう?」
「では思い切っていめーじちぇんじじゃな! こっちの“くりむぞんれっど”なドレスも似合うかもしれんのぅ!」
「おお! そちらのでっかいマスィーンも魔法少女に興味が!? 機械魔法少女とは斬新な発想じゃのぅ!」
「カメラじゃ、カメラさんをスタンバイなのじゃあ!」
 絶賛大興奮中のソルベルグ兄弟は不幸にも気付かなかった――びきびきと、目の前の本家魔女様が青筋を立ててブチ切れ寸前だということに。 さらに勝手に機械魔法少女にされてしまったマスィーンもまた、静かにブレードの柄を握り締めていたことに。
「……オズちゃん、ちょっと手ぇ貸してくれる?」
「……無論だ」
「おろ、ドレスの着付けに手助けが必要かの? それならワシに任せんぐはぁっ」
「ニコルゥー!?」

 その後――魔女と悪魔による魔法少女狩りのサバトが始まり、ニコラウス・ソルベルグが盛大に宙を舞うことになるのだが、それはきっとまた、別のお話。

 終
[227] あとがき(偽クリエイターコメント)
ブレイク・エルスノール(cybt3247) 2012-02-26(日) 02:57
 大変お待たせ致しました、偽シナリオを公開させて頂きます。
 執筆開始から一ヶ月オーバー……長い間お待たせしてしまったこと、お詫び申し上げます。

 今回のノベル執筆は、皆様の行動が個性的で楽しかったのですが、その分悩みました。
 PC様らしい行動を貫きつつ、かつ全員の行動をどう纏めるか……この辺りは執筆者も修行が必要のようです。
 拙い文面ですが、お楽しみいただければ幸いに思います。

>オズさん
 バリバリ戦闘要員その1、鉄クズとかデクノボーとか散々な言われようですが、クールにスルーしていただきました。
 魔法少女めかにか☆おずは、ちょっとイメージブレイク過ぎるかなと思い自重しました。
 テリガンの能力への警戒し、挑発を交えての戦いは知的でもあり、ワイルドでもあり。

>ネモさん
 唯一のコミカルプレイングをありがとうございます、魔法少女(翁)が二人に増えました。写真もばっちり。
 そして唯一のエリック邸スタートを選択されたことで、別働隊の「物好き屋」との邂逅が実現しています。
(誰もエリック邸にいなかった場合、物好き屋は即座に撤退し、本編に出てくることすらなかったでしょう)
 エリックは覚醒者ではないため連れ帰ることは出来ませんが、いつでもノルウェーの民家でスタンバってます。

>蜘蛛の魔女さん
 バリバリ戦闘要員その2、本家魔女様、未熟な魔法少女どもが誇り高き「魔女」を汚してしまった罪、どうかお許し下さい。
 ニコラウスは世界図書館に保護されたため、気に触ることがあればいつでも宙へ飛ばしてあげてください。
 ガンメタルブラックなふわふわ衣装は、そんなお詫びの印としてお納め下さいませ。 カメラも同封します。

>医龍さん
 今回、バリバリ捏造してしまった感が凄まじいです。 いんてり☆いりゅーのお姿にカメラスタンバイ。
 献身的な説得プレイングの効果は覿面、テリガンはやや不信気味ですが物好き屋を敵対させずに済みました。
 テリガンへの治療はきっと自主的です、お医者さまですもの。

>ALL
 今回はノーヒントであるにも関わらず、「嫌な予感(物好き屋の目的)」についての考察も頂きました。
 ノベル本編には字数の関係で記載されていませんが、彼の目的は、次に物好き屋が登場するノベルで答えを明かします。
 そして見事「物好き屋の目的」を見抜いていたお方には、そのノベルに優先枠を設けさせていただく予定です。
(辞退することも可能です)

 

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[188] 【シャチの出張調理】INディクローズ家
よっしゃ!ほな、気張っていこか~
シャチ(cvvp9290) 2012-01-01(日) 16:00
毎度おおきにっ!
オルグはんっ。約束通り、料理作りに来たでー!
早速、調理に入りたいんやけど。台所は何処にあるかいな?
あっ、あとな。どんな食材を使うか選んでくれると嬉しいなー。
お客はん家の冷蔵庫のモン、好き勝手使うんは流石に気が引けるさかいに。
それに、あんさんの食べ物の好みも知りたいしな?
面倒事で悪いけど、宜しゅう頼むわ。

~~~
クリスマスプレゼントで【シャチの一日専属シェフ券】をゲットしたオルグさんの為に、
シャチが料理を作りにやって来ました。
ですが、彼は貧乏で食材を全く持っていません…。
このままでは料理を作れないので、彼に食材を寄付してあげて下さい。
一定数の食材が揃ったら、それを元に創作料理を作ります。
作る料理のテーマは【おせち料理】です。
どんな料理が出来るかは、寄付された食材次第!
皆様の御協力を宜しく御願い致します。

注意:
1:明らかに食べ物でない物は受け付けません
2:ゲテモノ系は依頼主(オルグさん)が認めない限り受け付けません
3:味付けの好みは依頼主(オルグさん)に合わせます
4:お金は払えません。一人3種以上の寄付は申し訳ない気持ちになるので遠慮します

寄付して頂けた方には、もれなく【特性おせち】のおすそ分けを致します
(依頼主が認めなくても、こっそり渡します(笑))
※寄付者が多い場合は、先着10名様の食材を採用させて頂きます。

〔現在の寄付数7/10〕
オルグさん:一番手の卵
ワーブさん:壱番世界産、アラスカ州のキングサーモン3尾
フィンさん:美味しそうな豆腐
蜘蛛の魔女さん:食べきれなかった黒豆 《返却》錆びた釘
Marcelloさん:なかなか見かけないクワイ
アーネストさん:鶏肉1kg
レナさん:キャベツ&キノコ&ブロッコリー
《食材の受付期限は〔2012年1月13日〕までです【終了しました】》
~~~

それでは、台所にてフライパン構えつつ御待ちいたしております(礼)
〜〜発言が25件、省略されました〜〜
[221] (箸用意しつつ)

アーネスト・クロックラック(cyaw7336) 2012-01-19(木) 23:28
>(シャチ)
馴染み、って程でもないわね。
ジャパン…ああ、日本で一時期仕事をしていたことがあってね。
その時に食べたのよ。

>(オルグ)
兎が草食とかいつの時代の考えなのよ?
僕だって公務の後に焼き鳥屋とか普通に寄るし。
ちなみに日本では兎を鳥だと言い張ってた愚かな聖職者がいたみたいだけどね。

>(マルチェロ)
お雑煮。これまた懐かしいわね。
OMOTIがなかなかの食感よね。

後、三つ葉といえば茶碗蒸しもよね。コウヤドウフが入ったのとかいいわよ。コウヤドウフが汁を吸っていい味出してるわ。
[222] ボーっとしてもうた;

フィン・クリューズ(canb5957) 2012-01-19(木) 23:33
おぉっと、ボーっとしとる間に調理始まっとるんやな!
ワクワクするわ~。
あ、見た感じ出汁巻きタマゴと黒豆の甘露煮が完成しとるんやなっ!
どっちもめっちゃうまそうやん~!

ん?あ、お手伝いやな!
せやなー、ボクは黒豆の盛り付けでもしとくわ~。
取りあえず、食器に綺麗に盛りつければえぇんやな?

>オルグさん
へぇ~、そうやったんか~!一緒に住んどるって事は結構仲良ぇんか?
ん?ハーミットはんは今ここ(拠点)に居るん?

>シャチさん
うんうん、これからもボクは気張ってくでー!
お、面白かったか~。はは、確かにきっと、傍から見りゃ完全に可笑しな人やったもんな、ボクー;
せやな。あ、でも野菜もさっき寄付してもらったみたいやな。
これでバランスは問題ないんやないかな!
[223] (テーブル拭きつつ)
さあ、これから何をしようか。
マルチェロ・キルシュ(cvxy2123) 2012-01-20(金) 23:48
>(蜘蛛の魔女)
俺は通りすがりのコンダクターだけど?
しかし豪快だなあ…。
(この子みたいに敵に回したくない感じの魔女、知り合いにいたような…)

>(アーネスト)
タブーを逃れるための言い訳・こじつけって説もあるんだよ。<兎を鳥とみなす
昔、獣肉食がタブーとされていた時代にね。

>(フィン)
あんたもハーミットの知り合い?
去年は彼女に、ずいぶんお世話になったからな。
一緒におせち食べられればいいんだけど。

>All
改めまして…俺はロキ。
壱番世界在住だけど、たまにこうやってターミナルのいろんな所に顔を出してるんだ。
よろしくな。
[224] こ、根性見せたるっ…!
あんさん、なーにやってんねや。。
シャチ(cvvp9290) 2012-01-23(月) 00:15
あ、あかん…
ちゃっちゃ作る言うておきながら全然ワイ動けてへんやん…
せ、せめて…せめて料理だけは仕上げてしまうでっ…!

>オルグはん
んー。ちぅか、お客はんに御足労かけさせる訳にはいかへんさかいにな。
ワイはチェンバー持ってへんさかい、その辺はよー分からへんわ。
チェンバー作り替えたら丸々新品。メンテナンスフリー、
…とかやったら夢のようなんやけどな?(笑)
まぁ、そうやろな~。ワイかて聞いた事あらへんもん。
旅先で出会うとしたら、多分そいつはワイの弟子やろなっ。まぁ、今はそんなん居てへんけども(

>蜘蛛の嬢ちゃん
悪ぃな~。ワイは正直なもんやさかい、当たり前の事しか言えへんのやー(笑
おっ、なんや嬢ちゃん、元気が漲ってきとるな。若いってのはえぇな~。
うんうん、リンチ、リンチ♫ とりあえず、コレ使ぅてな?(軽く聞き流しつつ包丁を差し出そうとする…が…)
Σなん…やて…!?(蜘蛛脚百列拳みて固まる)
そ、その辺で勘弁しときぃ!鳥肉のHPはゼロやでっ!(わたわた)

>刑事の姉ちゃん
にほん?あ~、壱番世界の事やな。
ちぅ事は、旅行行った時に食うたんやなっ。なるほどなー(納得顔)
ちなみに姉ちゃん、おせちは好きかいな?
って、好きやさかい此処に来とるんやよな(笑)
本場にどれだけ近づけれるかは分からんけど、食べて昔の思い出とか思い出せるとえぇなー。

>フィンはん
おぅっ、その意気やっ!気張っていきやー。
大丈夫や、問題あらへん。むしろ、周囲に溶け込んどったさかいに(←ある意味、問題発言)
せやなー。上手い具合に寄付してくれる人が来て助かったわ。
バランスは問題ないはずやで。

>金髪の兄ちゃん
ロキはん、やな。覚えとくで(にっ
ワイの名前はシャチでえぇで。どやっ、覚えやすいやろ?(笑)
チェンバーには、あまり顔出しする事はないんやけど、何処かでまた会う事もあるかもしれへんな。
宜しくなっ。

~~~

(タレに漬けた鮭の切り身をフライパンで焼き、両面に軽く焼き目を付けた後、蓋をして蒸し焼きにする)
こーすると、外はカリッと中はふっくらと仕上がるんやでー。
(蓋を取って残ったタレを鮭にかけた後、フライパンを揺すってからめる。)

よしっ!【鮭の照り焼き】完成したでー。
盛りつけ、頼むなっ!(焼きたてが乗ったフライパンを調理台に置く)

そんじゃ、次いくでー。
嬢ちゃん、手伝いおおきになっ。鳥肉貰ってくで。
(ミンチにした鳥肉と刻んだ野菜を油で炒め、ダシ汁・醤油・みりん・酒・砂糖を加えて下煮する。)
…これで、具が完成やな。
(出来上がった具を一旦ボウルに移し、同じ鍋に油を引いて豆腐を解しながら炒めた後で、具を加えて良く混ぜ合わせる)
…(ひと摘み、食べてみる)んー、もうちょい味が必要かな。
(調味料を加えて味を調整)…よしっ…
(とき卵を手早く混ぜ、ポロポロになるように手際よく炒める合わせる)

よっしゃ!【炒り豆腐】完成やでー!
熱い内に分けてなっ!(中華鍋でジュージュー音立ててるのを調理台に置く)

…っと、そろそろこっちも出来てきた頃かいな?
(着込んでいたクワイにゴマ油を加えて火を止める。そして、冷ましつつ味を馴染ませる)
…もうちょい、やな。 ほなら、次はコレや。
(鳥肉のミンチにタマゴ・みりん・砂糖・薄口醤油・白味噌を加えてよく混ぜ合わせ、団子状にした後に串に刺して砕いた松の実と青海苔をまぶす。)
…せやけどワイ、ちゃんとおせち作れてるんかなぁ。…まぁ、ええか!
(串に指した味噌味風味の鳥肉団子をロースターでこんがりと焼く)

【鳥肉の松風串焼き】完成やでー!
どんどん並べてってやー(焼けたものから次々と皿に乗せていく)

…さて、もうえぇ頃合かいな?
(煮汁に漬けて寝かせておいたクワイを、一つ摘んで食べてみる)
…うんっ!我ながら完璧やでっ!

【くわいのうま煮】完成やでー!
もう分かっとると思うけど、盛りつけ宜しくなっ(

~~~

よ…よっしゃー… 何とか出来たでー…
燃え尽きたわ… あ、後は頼む…で…(ぱたり)
[225] 完成か!
さあ、これから何をしようか。
マルチェロ・キルシュ(cvxy2123) 2012-01-26(木) 02:03
こっちもテーブル拭き終わった!

>シャチ
お疲れ様!
じゃ、クワイは引き受けた。
芽を折らないように気を付けないと…。

>オルグ
重箱って、あるかな?

 

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[174] 【偽シナリオ】Visual Dreama
ヴィクトル(cxrt7901) 2011-12-03(土) 23:56
 ――魅せてくれ。 夢と散るその前に。

 ※ ※ ※

 目が覚めた。 目の先にはどこまでも、どこまでもまっさらな白。
 雲はない、それどころか空の青なんてものもない、果てしない白の世界。
 それが、ぼくに与えられた世界。 何もない、仮にあるとしたら、“餌”になるものだけ。
 たまに降ってくる“餌”だけが、“ここ”以外の場所が確かにあるのだと教えてくれた。

 ここから出たい、ここから出して。 ぼくは“ここ”以外の場所をもっと知りたい。
 けれどそれは叶わぬ願い、その事実を分かっていても、そう強く願うようになっていて。
 そとの世界の手がかりになるものを齧り、喰らいながら、啼いた、叫んだ。

「ここから、出して」

 そして、今。
 目が覚めた。 目の先にはどこまでも、どこまでも彩られたあざやかな世界。
 微かにひげや羽毛、着ているパーカーのフードが引っ張られる感覚が、なんだか不思議に思う。 これは“風”?
 見上げればまぶしい光、思わず目を閉じた。 体がぽかぽかと暖かい。 あれは“太陽”?
 すんと鼻を鳴らせば、今まで匂いなど感じたことのないそれは土と絵の具の匂いを嗅ぎ取った。 これは……なに?
 そして……、ここはどこなんだろう。 ここは、なんなのだろう。 ここは……。

「ここは……、“ここ”、じゃない……?」

 ※ ※ ※

「迷子のお知らせだよ」
 ディスと名乗った灰色の猫は人前だというのに、眠たげな目のまま一度大きなあくびをした。 宙に浮いていた『導きの書』がひとりでに開き、ページがぱらぱらと捲られていく。 やがて目当てのページが開けたらしい、導きの書はゆるやかに猫の目前に下りてきた。
「もちろん、覚醒したばかりのロストナンバーのことだよ? ちょっと急いで欲しい要因があるから、ぱぱっと説明済ませちゃうね」
 ぐしぐしと前足で顔を洗う猫は、左目の前につけた黒いモノクルの位置を調節しながら言う。 緑色の眼にはじんわりと涙が溜まっていたが、ただ眠たいだけで悲しいわけではないそうだ。 一度しか言わないから、と前置きを置き、前足で導きの書を示す。
「その子の名前はタリス。んで、行き着いた先はインヤンガイ、所謂暴霊域になっている地点で絶賛孤立中」
「暴霊域? 急いで欲しい要因というのはそれか?」
「話は最後まで聞いて欲しいなぁ、時間ないんだから。 ふあぁ……っ」
 横槍を咎める猫は急いでいるのかいないのか、曖昧な態度を取りながらまたページを捲る。 見て、と前足でとある町の絵をぽんぽんと叩いた。 様々な色がごちゃまぜになった、毒々しい鮮やかさに目が痛くなるような光景。 色の正体は、白い部分を余すことなく塗り潰すかのように描かれた無数の絵だった。 その横には“迷子”……保護対象だろうか、奇妙な姿が描かれている。
 体系は人のそれで、顔そのものは愛らしい猫のようだが、彼の顔や身体を覆う黒は毛皮ではなく、鳥類に備わっている羽毛のようなモノだった。 足もまた黒い鱗に覆われた鳥足を思わせる部位で、まるで黒猫と鴉を混ぜて生まれたような奇怪な姿。 それに見入っている人々の視線を無視するかのように、司書猫は説明を始める。
「ここがタリスが迷い込んでしまった場所ね。 今はヘンテコでニギヤカな街になってるけど……。 急ぐ要因その1、この辺り一帯は既に世界樹旅団の手によって造り変えられた世界になっている」
 場所が暴霊域で生きている現地人がいない点は幸いかなぁ、と灰色の雄猫は視線を逸らして呟く。 過去に上げられた報告書を紐解けば、ロストレイル襲撃事件の10号車や、ブルーインブルーのとある海上都市が丸ごと異なる世界に造り替えられた事柄を見られるはずだ。
「この造り替えられた世界にも、世界樹旅団所属のロストナンバーが一人だけ留まっている。 たったひとりの街で何がしたいのかまではわからないけど、世界のコトワリを乱す行いを見過ごすわけにはいかないだろう? この子を保護するついでに、この世界の情報を幾つか収集してほしいんだ。 ……で、ここから本題入るよ、しっかり聞いてね」
 急ぐ要因その2、と前足に備えた爪を二本立てた猫は、いくらか低い声で続きを述べる。 これだけは決して忘れてくれるなと、先ほどまで眠たげだった目を細めている。
「今回の迷子の件……ね。 急がないと、その子は君達が到着してから3時間後に消失すると、僕の導きの書は示した。 それまでにその子を保護し、パスホルダーを手渡して消失の運命から救って欲しいんだ」
「消失の運命だとっ!?」
 先の横槍を入れた襟巻蜥蜴の魔導師が声を荒げた。 猫は若干耳を伏せながら返答として頷いてみせる。 司書猫はさらにと悪いニュースを続けていく、急げ、急げと自身や話し相手を急かすように。
「急ぐ要因その3。 この子は君らが到着するその前に、この世界に留まっている世界樹旅団のツーリストと接触している。 図書館に関するあることないことを吹き込まれている可能性は勿論だけど……、旅団のツーリストはどうも、今回の迷子を気に入ったらしくてね……自分が愛するその世界で消失のときを迎えさせようとしているみたいだ。 旅団員として保護する意思はない……それってつまり、意図的に放置して消失させるってワケだよね」
「何をバカなことを……、消失の運命を迎えた者は徐々に忘れ去られ、やがては存在すらかき消されると言うのに」
「……その世界に残ってる彼の命も、これまでの報告書から察するにあと僅かだろうからね。 道連れが欲しくなったんじゃない? 迷子がそれを望むか望まないかは別問題だけど……世界図書館の仕事の一つに、ロストナンバーの保護も含まれている以上、頼まれてくれる人をこうして募集しているんだよね」
 口調そのものは他人事だが、長々としたセリフを間も無く喋り通した猫の焦りに気付いたものはいただろうか。 本に挟んでいたチケットを6枚宙に浮かせると、きりりと目を細めた。
「君たちに頼みたいのは、迅速な保護」
 よろしく頼んだよ、と猫は小さく頭を垂れた。

「……何故、世界樹旅団のツーリストに関して触れなかった」
 5名のロストナンバーの背中を見届けた後、襟巻蜥蜴の魔術師――ヴィクトルがチケットを片手に猫へ問う。 ふと顔を上げた猫は、バツの悪そうな表情を浮かべたあと、視線を逸らし、
「……放っておいてもどうせ、作り変えられた世界もろとも死ぬんだ。 彼らが知る必要なんかないだろう」
 吐き捨てるように、そう言い切った。 前足で目元をぐしぐしと擦りながら。 ヴィクトルはそうかと短く返し、5人の後を追うためその身を翻した。

 ※ ※ ※

 色あざやかな道を歩くと、ぼく以外のだれかに出会った。 何もない白の上に、あざやかな色を残すだれか。
 はじめてぼく以外のひとと会えたのがついうれしくて、だれかにおぼえたての声と言葉で話しかけた。
 だれかは目を宙に泳がせながらだけど、ぼくに言葉を返してくれる。
 うれしかった。 ぼくは、ぼく以外のひとと話してみたかったから。

 だれかはぼくに、この世界の色について教えてくれた。
 この世界で描かれた色は、色に込められた“おもい”によって動き出すんだと。
 “おもい”ってなに? そう尋ねたら、だれかは自分の胸をぽんと、自分の手で叩いて見せただけだった。

「“おもい”は、どこで知ることができる?」

 そう尋ねると、だれかはそっと、色の付いた筆と色の入ったバケツをぼくにくれた。
 この世界では、だれもが“グラフィッカー”になれるんだと、とてもほこらしげに語る。
 だれかは一度だけゆっくりとわらうと、ぼくの胸をぽんと叩いてからこう言った。

「お前も描いてみろよ。 そうすれば見つかるかもしれないぜ」

 だれか――クレオはわらっていた。 とてもうれしそうに、けれどさびしそうなえがおで。
 釣られてぼくもわらった。 ぼくとクレオ、ふたりに与えられた結末なんて、しらないままで。
 ぼくとクレオ以外、なにも動き出すことのないあざやかなまちで。 ただわらいあっていた。


〜〜発言が8件、省略されました〜〜
[183] (ほっとしつつ)
すごく嬉しいわ!どうも有難う!
ティリクティア(curp9866) 2011-12-05(月) 00:18
>ヴィクトル
まだ参加受付中なのね。良かった・・・!
勿論、参加希望するわ。

よろしくね!
[184] 参加者確定、OPノベル(2:45、公開)
ヴィクトル(cxrt7901) 2011-12-05(月) 00:20
「ねー、ヴィクトル」
 霊力都市・インヤンガイに到着した一行は、指定された一帯まで歩みを進めていく。
 トラベラーズノートに記された地図を見ながら先頭を歩くツィーダは、それに続くヴィクトルの名を呼んだ。
「どうした、ツィーダ」
「もしかして、今回覚醒した『タリス』って言う子のこと、知ってるの?」
 ちらっと背後を伺いながら尋ねるツィーダに、ヴィクトルは微かに目を細める。 暫くの間、どういった返答を返そうか決めかねている様子だが、やがてこう答えた。
「……以前、出会ったことがある。我輩が異界を越える力をまだ持っていた時の事だ。タリスはたった一人の世界で生まれたようだった。 タリス以外に存在していたものと言えば……瓦礫の山ぐらいだったろうか。 寂れた地だったと記憶している」
「あとさ……旅団のツーリストに関しての情報がなんか少なかったかな、って思うんだけど……これって、ディスの方でも分からなかったのかな?」
「ディスの予言も万能ではない。 旅団のツーリストと言えば、我々にとっては未知の世界の住民だ。 そのものの詳細を事細かに予言しろと言うのは酷な話だろう。 ……ただ」
 ふとヴィクトルが歩みを止める。 その背後を歩いていたゼシカ・ホーエンハイムにヴィクトルの何気なく揺れた尻尾がぶつかりそうになった。
「きゃ」
「む、すまない。 怪我はないか」
 引っ込み思案な少女の小さな声に気付き、ヴィクトルは尾を引っ込めてしゃがみ込む。 怪我はないか、と言う問いかけにゼシカはこくんと頷いた。
「我輩は少々不注意だったな。 ……疲れてはいないか?」
「ううん、ゼシはだいじょうぶよ。 ゼシね、ゼシと同じ迷子の猫さんが困ってるって聞いて……。 ゼシ、迷子の猫さんをはやくおむかえにいってあげたいの。 ひとりぼっちは、さみしいものね」
「そうか……まだ小さいのに、偉い子だ」
「ゼシはもうちっちゃくないのよ」
 ぷくっと頬を膨らませたレディに、ヴィクトルは暫く頭が上がらない様子だった。 やがて青いカードを3枚取り出して砕くと、ゼシカの体はふわりと宙へ浮かび上がる。 『浮遊』の魔術を行使したらしく、ヴィクトルはゼシカの手をそっと取る。
「少し休ませてやりたいが時間がない、これで暫く我慢してほしい」
「おい、蜥蜴」
 ふわふわと浮くゼシカの手を取るヴィクトルに声を掛けたのはミケランジェロだ。 猫司書が示した「様々な色が散りばめられた町」のようなつなぎを着た芸術の神は問う。
「ひとつ聞かせろ。 お前、司書と話してたみたいだが……世界樹旅団の奴がどんな能力を持ってるか、猫から聞いたか。 俺は頭を使うのが苦手なんでな。情報は先に得ておいた方がやりやすい」
「そうそう、情報こそ力ってね。 ディスから何か聞いてない?」
 横からツィーダが顔を覗かせる。 青い鳥の姿を認め、ヴィクトルは彼との話が途中だったことを思い出した。
「知ってんなら答えてくれ。知らねェんならそれでいい」
「……それは、『街』に到着してからの方が説明がしやすいだろう。 彼の世界の『役割』が生きていれば、だが」
 その言葉の後、一向は再び歩みを進める。 彼ら――いや、覚醒したロストナンバー、タリスに残された時間は、わずか3時間しかないのだからと。

 ※ ※ ※

「『Visual Dreama』……?」
「視覚的な……夢? いえ、綴りがちょっと違いますね」
 やがて一行は『街』に到着し、中央広場らしき場所で周囲の様子を伺っていた。
 ティリクティアが街の看板らしき板切れを見つけて小首を傾げていると、その横にダルタニアがやってきて文字を指でなぞる。
「『Dreama』とは、『Dream』――夢、そして『Drama』――ドラマを掛け合わせた造語のようだ」
 二人の背後に居たヴィクトルが説明を足す。 その背後ではツィーダがタリスの気配がしないかを探っていて、ミケランジェロは極彩色で無秩序に彩られた街をじっと眺めていた。
「夢とドラマ……、夢物語みたいなものかしら? ええと、視覚的な夢物語……ってこと?」
「これは、この『街』の名前なのでしょうか? それとも旅団員の世界の名前?」
「そこまでは分からぬが……旅団員が書き残したものならば、彼にとって何か意味のある名前なのだろうな」

「ねーミケランジェロ。 芸術の神様から見てどう、この世界の絵の感想は?」
「下らねぇ、反吐が出る」
「えっ?」
 タリスの索敵を一時中断したツィーダはミケランジェロに声を掛けていた。 ミケランジェロはしばらく街中に溢れ返った絵を眺めていたが、やがて不快感を露にした表情で言い切る。 芸術の神はかつて壱番世界の混沌とした美しさに惹かれはしたが、この『街』の色は彼にとっては「下らない」ものらしかった。
「ただ上っ面だけで描きました、ってだけで、これだけ見てても何も感じねぇ……何も篭っちゃいねぇ。 チッ、“グラフィッカー”とやらの世界にゃ興味がなかったワケじゃねぇが……これを“芸術”だと思い込んでるオメデタイ世界だってんなら、心底呆れるぜ」
「へぇ……、確かにクセのある絵だとは思ったけど、そこまで感じ取れなかったよ。 ほら、あの大きな家の壁に描いてある青い鳥なんて、キレイだなーって思ったんだけど」

「猫さん、猫さん」
「ゼシカ、一人で行くと危ない」
 極彩色に彩られた街並みを一人歩くゼシカを、ヴィクトルが見つけて慌てて駆け寄る。 その途中、ゼシカの視線がある一点を差していることに気付いたヴィクトルは、彼女の傍に跪きながらその視線を辿った。 それに気がついたティリクティア、ダルタニアも駆け寄ってくる。
「猫さん、ゼシね、猫さんをおむかえにきたの」
 天使のように愛くるしい少女が呼びかけるその先に、鮮やか過ぎる街並みの中で一つ浮いた存在が居た。
 着ているパーカーも、表皮を覆う羽毛も、鱗に覆われた鳥足も黒尽くめで、鮮やかな街に決して溶け込めない無彩色な存在。 深々と被ったフードの中で煌く小さな光は恐らく瞳だろう、微かに見える表情は骨格からして猫のそれだった。 フードを突き破って生えた耳がぴくぴくを動かし、ゼシカの声を聞いている。 彼の特徴は、出発前に猫司書が指した“迷子”とほぼ一致していた。

「おむかえ……?」
 猫の顔に鴉の羽毛を持った迷子――タリスは一瞬だけ首をかしげた。 そう、“一瞬だけ”
 次の瞬間には、タリスはゼシカ達に背を向け、手にした筆を振るっていた。 街並みの色に似た筆先から飛び出したのは、青い鳥、赤い猫、黄色い蝶……色とりどりの「絵」がタリスを庇うように躍り出る。 ティリクティアがすぐにタリスを追おうと走り出すが、フゥゥゥと唸る赤い猫の群れが行く手を塞いだ。
「タリス、待って! 私たちはタリスを迎えに来たの! 敵じゃないわ!」
 その声にタリスは答えない。 一瞬だけティリクティアの顔を覗き込むように振り返ったが、その瞳は恐怖に震えていた。 フードを突き破る尖った耳はぺたりと伏せ、震える声を絞り出すかのように泣き叫んだ。
「いやだ、いやだ、いやだいやだいやだいやだ! ぼくはここにいたいんだ! おむかえなんかいらない! もう“ここ”には帰らない! こないで、こないでぇ!」
 ティリクティアが差し伸べた手など見ずに、タリスは街の奥へと駆け出していく。 筆を振り回すことで生み出される『絵』をばら撒きながら。

 タリスの悲鳴に気付き、ツィーダとミケランジェロがゼシカ達と合流したときには、タリスの姿も、そしてタリスが生み出した絵も消えていた。

「おい、蜥蜴。 グラフィッカーっつうのは」
 ミケランジェロはすかさずヴィクトルに問い詰める。 『街』に着いたら説明するという、その約束を果たせとばかりに。 ヴィクトルはそれに素直に応じた。 その視線はツィーダの方を向いている。
「……グラフィッカーは描いた絵を実体化させる能力を持っている。 この世界のグラフィッカーに受け入れられたタリスも、その力を得ているようだ」
「でも待って! さっきの『絵』、『描く』って言うより『生み出して』た! あんなことまで出来るなんて……まるで」

 ――まるで、ボクの物質作成みたいじゃないか

 ツィーダがその言葉を言いかけて、ハッと一つの可能性に至る。 タリス、彼の姿を見てから、どこか正体不明の懐かしさを感じていた彼に、ヴィクトルは重い口をそっと開いた。

「……タリスの出身世界の名は“シムネット”。 ツィーダ、お前と同じ世界の出身者だ」

-----------------------参加者-------------------------

・ツィーダ
・ゼシカ・ホーエンハイム
・ミケランジェロ
・ダルタニア
・ティリクティア
[185] ※グラフィッカー、タリス、プレイングについて
ヴィクトル(cxrt7901) 2011-12-05(月) 12:35
※グラフィッカーについて
グラフィッカーとは、クレオの居た世界『Visual Dreama』で活躍していた職業です。
この街に足を踏み入れた全ての人物は、このグラフィッカーの能力を手にします。

グラフィッカーの能力とは、「描いた絵を実物化させる」こと。 ただしただ描いただけでは絵は実物化しません。
絵に強い“感情”を込めながら描くことで、絵はグラフィッカーの想いに答えて動き出すのです。
(今回保護対象になっているタリスの絵の場合は、彼の“恐怖”と言う感情に基づいて動いています。)
『Visual Dreama』という世界において、グラフィッカーの描いた絵に勝る力はありません。 グラフィッカーの絵には、グラフィッカーの絵で対抗するしかありません。 この場合、より思いの込められた絵が、相手の絵を打ち消すことが出来るようです。

グラフィッカーの力を行使するには絵を描く道具が必要ですが、素材はどのようなものを使っても構わないようです。 チョーク、クレヨン、絵筆は勿論、カラースプレーなども使用可能です。
周囲の建造物は既に別の絵が描かれていますが、その上から絵を描くことも可能です。

※タリスについて
今回、保護対象となっているタリスは自身の「物質生成」の力とグラフィッカーの力が反応を起こし、「瞬時にグラフィッカーの絵を生み出す」ことが出来るようです。
彼の絵に対抗するには、予め思いを込めた絵を書き溜めておいて、彼の生み出す絵にぶつける必要があります。
(勿論、絵を使わずにタリスの絵を物理的に打ち消すことも可能ですが、時間が掛かります。)

※プレイングについて
プレイングには、こういった要素を取り入れるといいかもしれません。

・絵を描く場合、素材は何を使うか、どんな絵を描くか。
・描く絵にはどのような思いを込めるか。
・逃走するタリスに対しどのように対応するか
・タリスが放つ絵に対しどのように対応するか
[186] 本編ノベル(公開日時:12/29 20:40)
ヴィクトル(cxrt7901) 2011-12-13(火) 00:00
「タリスは……未帰還者? いや、違う……」
 襟巻蜥蜴の次元旅行者から、今回の迷子の話を聞いた青い鳥――ツィーダは自らの世界の都市伝説をふと記憶の中から引き摺り出す。 未帰還者……膨大で果ての見えぬネット世界に意識だけを取り込まれ、現実世界に帰れなくなる者がいるという話だそうだ。 けれどその考えを隅に押しやると、タリスの叫びを思い描きながら、彼が立たされていた境遇を推理する。
「タリスは“ここ”には帰らないって言ってた。 恐らくタリスには“ここ”……、嫌々しながら住んでいた、いや住まされていたサーバーがあって、そのサーバーは……シムネットにいるアバターで溢れた賑やかな所じゃない。 ヴィクトルが言ってたような寂れた地……孤立してしまったサーバーに、ただ一人だけで住まわされていた、一人ぼっちのAIなんだ」
 “ここ”以外の表現の仕方を知らないんだろうね、と黄色っぽい手で頭を抱えてみせる。 ひとりぼっち、その言葉に胸をぎゅっと締め付けられる思いをした幼い少女――ゼシカ・ホーエンハイムは、その胸に自身の手を当てた。
「ゼシね、猫さんを助けたい。 このまま消えちゃうなんて寂しすぎるもの」
 ひとりぼっちの猫に残された期限は刻々と迫っている。 このままその時を迎えてしまえば、彼は消失の運命を手繰り寄せ、永遠にひとりぼっちとなってしまう。 そうなる前に助けたいと願う、かつてひとりぼっちだった少女はまっしろなクレヨンに自らの思いを託しながら絵を描いている。 ゼシカの“思い”に答えた絵はふわりと浮かび上がり、小さな背中にそっと根付いた。 天高くまで飛んでいけそうな天使の翼を広げ、彩られた世界へと羽ばたく。

 ここは絵に込められた思いが力となり、込められた思いが人々に力を奇跡を齎す視覚的な夢物語、『Visual Dreama』。
 孤独の恐怖に震える迷子の猫を救うべく、彼らは様々な思いを色に込め、世界に新たな絵を描き足していく。

 心宿らぬ絵があちらこちらに散乱している街の中、黒いつなぎを着た芸術の神――ミケランジェロは快く思えなかった。 普段の自分も街中の壁に絵を描いてはいるため、自嘲的な嫌悪の念が脳裏を巡る。 そしてそれ以上に、何の感情も込められずに動き出せない絵に触れて、苦い表情を浮かべた。
「絵を実体化させるための心を、喪ったのか」
 蜥蜴は絵に想いを込めて描くことで、グラフィッカーの絵はその想いに答えて動くのだと話した。 けれど、この地に留まっていると言う世界樹旅団のツーリストが描いただろう数多の絵は、自分達が『街』を訪れてから、一向に動き出す気配を見せずにいた。 描かれた不思議な獣達の瞳には光など描かれず、ただ呆然と虚空を眺めている。
「この世界を作った人は、どこにいるのでしょうね」
 白にに黒の水滴をいくつも落としたような毛並みを持つ犬獣人――ダルタニアは絵筆を片手にして思案する。 信仰深い彼は自らが崇める神たる白き獣、神狼(カムラウ)の姿を再現して見せていた。 荒々しい表情の中に垣間見える慈悲の念を描き足された獣の神は、心喪った街を見て何を想うのか。
「タリスは、こっちにいるわ」
 そう答えたのは予知能力を持つ姫巫女――ティリクティアだ。 彼女は自らがこの地にやってくる前に乗っていた列車、ロストレイルを描き、それに乗ってミケランジェロとダルタニアの前に現れた。 ターミナルでの楽しい生活を想いながら描かれた列車の脇にちゃっかりとヴィクトルが乗り込んでおり、ティリクティアを傍で支えるように立っている。
「無理をするなティリクティア、貴殿の予知能力は……」
 襟巻蜥蜴の魔導師は険しい表情で、臨時の車掌を勤める姫の身を案じている。 ティリクティアは詳細な未来予知――詳細であればあるほど身体に負担がかかるものらしい――を行った後のようで、列車の座席に座り込んでいた。 傍らのヴィクトルが魔力の一部をティリクティアに明け渡しつつ、彼女の指差す方へ想いのたくさん詰まった列車を動かしている。 ダルタニアは描き出されたロストレイルに「アクセラレーション」、動く速度を上昇させる魔術を行使してから乗り込んだ。 それに続いたミケランジェロは、車窓から自分達が先ほどまでいた広場を少しだけ眺めた後、視線を前へと向ける。

 誰もいなくなった広場に、響いたのは無数の羽音。 それが天へ行く様を見届けたのは、芸術の神ただ一人。

 ※ ※ ※

 狭い道が幾つも繋がり、まるで迷路のような路地裏を黒い迷子が横切っていく。 やがて走ることに疲れたのか、広い道に出たところでふと足を止めた。 息遣いが荒く、胸のうちはばくばくと高鳴っている。 ふと耳をぴくりと動かし、空を見上げる。 タリスはあおい空を横切る列車を見ていた。 空を翔る列車、それに乗って「おむかえ」は来るのだと言う絵描きの言葉を思い出す。
「いやだ」
 一言呟けば、記録されたことのない感情が込み上げてくる。 ここに居たいという願い、“ここ”には帰らないという誓い、そして……クレオの言葉を無垢に肯定し、「おむかえ」を頑なに拒絶する意思が入り乱れる。 人工的に生み出されたとある世界の管理AIは覚醒を経て、思考回路に深刻なエラーを発生させていた。

 ぼくはここにいる。 ぼくはここにいたいんだ。
 それだけ、ただそれだけなのに……、なぜ、どうして?

 ※ ※ ※

「見つけた」
 極彩色の街並みから上空、空を掛ける絵の列車の車窓からヴィクトルは言った。 赤茶色の鱗に覆われた指が差す先には、街の中でも広い道路。 その右端辺りに在る黒い人影は、フードを捲り上げて空を見上げていた。 彼の周囲には逃げる前に生み出した黄色い蝶が数匹、花びらのようにひらひらと飛びまわっている。
「猫さん、こっちを見てるみたい」
「……逃げる様子はないようだけど」
 白い羽を羽ばたかせ、ロストレイルの横を飛ぶゼシカと、車窓から顔を覗かせたツィーダが顔を合わせる。 ツィーダの言葉の通り、黒い迷子――タリスは先ほどのように逃げる姿勢を見せずに空を、ロストレイルを睨んでいた。 フードを外されて露になった、水晶のような瞳が鋭く光る。 それと同時に黄色い蝶の数が急激に増え始め――。

「来るぞ!」
 ヴィクトルの声とほぼ同時、車窓から見える景色は黄色一色に染め上げられた。 タリスが放った蝶の群れがロストレイル全体を覆いつくし、ティリクティアが描いたロストレイルに激しくぶつかってくる。
「うわ、ロストレイルが!」
 ツィーダの悲鳴が響く先で、蝶が当たった箇所からロストレイルがみるみる内に削られていく。 蝶は他者を傷付ける力は無くとも、『グラフィッカーの絵』には屍に群がる蟻のように貪って行く。 全員が乗っている車両が蝶に消される前に、ヴィクトルは青いカードを三枚、ティリクティアは真っ白な画用紙を取り出した。
「全員、列車から飛び降りるぞ!」
「ロストレイル、絵に戻って!」
 足場が消える前に『浮遊』の魔術が発動し、その場に居た全員の身がふわりと浮き上がった。 一部が欠けたロストレイルは黄色の群れに呑まれる前に、ティリクティアが持つ画用紙の中に収まった。
 周囲を覆う黄色に対し、適当に描いた線を周囲に撒くのはミケランジェロ。 緩やかなカーブのある線は「風」となり、蝶の群れを薙ぎ払っていった。 視界が開けた先からダルタニアと『神狼』の絵が飛び込み、その後をツィーダがゼシカの手を引いて追う。 やがて全員が蝶の群れから逃れて道路に降り立つカタチとなり、顔を上げれば皆がタリスを視界に捉えることが出来た。 タリスは再び――。
「わたくしは、あなたを助けに来たのです!!」
 ――筆を振るう前に、ダルタニアはすかさず言い放つ。 「助け」と聞き、耳を傾けたタリスは一瞬だけ戸惑ったような表情を浮かべるが、すぐに瞳をきゅっと閉じてしまう。
「いやだ、ぼくはここにいるんだ」
 聞く耳など持たぬとばかりに振るわれた筆先から次に生まれたのは、赤い猫の群れだ。 この猫達はタリスの庇うように全身の毛を逆立たせ、喉からフゥゥゥと威嚇音を漏らす。
「クレオはここにいていいって言ってくれたんだ。だから、もう“ここ”には帰らないって決めたんだ」
 だから、だからと消え行きそうな声を絞り出して訴える。 タリスにとって、この世界は大嫌いだった“ここ”ではない、いろあざやかで楽しい世界。 その魅力に取り付かれた無垢な迷子は、ただここにいることだけを望んでいた。 けれどそれは、このままだと叶えられぬ願いだとロストナンバー達は分かっていた。
「あなたに残された時間は……」
 その事実をダルタニアが告げる、その前に一歩タリスへ歩み寄るのはツィーダ。
「……わかったよ」
 物質生成により生み出されたタブレットにペンを走らせながら、呼びかけた。
「目を開けて。 君が知らないせかいを見せてあげるから」
 知らないせかい、そう聞いてタリスはハッと目を見開かせた。 それに応じるように笑みを浮かべた後、外部出力のモニターに描かれる色は“ここ”ではない異世界の光景。 緑豊かな大自然に各々の文化が眠る地はヴォロス、空と海の僅かに異なる青が共存する世はブルーインブルー。 それは世界図書館にいるロストナンバーには馴染み深い世界だが、タリスにとっては見知らぬ世界であり、初めて目にする光景だろう。 その上で天使の羽を羽ばたかせるゼシカもまた、にこりと微笑みを湛えながらだいすきなクレヨンで世界に色を足していく。 空に描かれる七色のクレヨンの線は虹となり、白のクレヨンは綿飴のようにふかふかとした雲となる。
「あのね、怖くないよ。 猫さんがどうしてもいやだっていうなら無理に連れてかないよ。 だからゼシたちのお話聞いてほしいの」
 足元に虹の橋を描きながら、ゼシカはタリスにゆっくりと近付いていく。 初めは警戒ばかりしていた赤い猫の群れも唸るのを止め、その身を少しだけ引かせた。 タリス自身もツィーダが魅せる世界に舞い降りる天使を見つけて、ネコ科の大きな瞳をぱちぱちと瞬かせる。
「猫さんは、神様って知ってる? いつでも空の上にいて、ゼシたちのことを見守ってくれてるのよ」
 白い羽毛をひらりと舞わせて振り返り、ブルーインブルーの空に掛かる虹を指差す。 この虹のずっと、ずーっと向こうにいるのと穏やかに語りかけて、タリスの警戒心を柔らかく解いていく。
「ボクらは色々な場所を巡るのさ。で、迷子になった君も一緒にどうかな、って」
 世界の影からツィーダが語れば、遥か空の向こうに幾つもの列車が飛び交う様子が見える。 様々な異世界を行き来する螺旋特急ロストレイルは、ティリクティアが描いたものだ。 ミケランジェロから借り受けたスプレー缶で描かれる新たな線路の上を走る列車は、まるで未来が描かれたかのように光を瞬かせる。
「私は少しだけ、貴方の気持ちがわかるわ」
 二回り小さなロストレイルの上に乗って、ティリクティアもまたタリスに語りかける。 私も貴方と同じ、白い箱庭の中でずっと暮らしてきたから。 だからこそ。
「私達は、貴方を寂しい“ここ”へ連れて行くために迎えに来たんじゃないの」
「でも……」
 暖かな色をいきなり目の当たりにして、もごもごと戸惑うタリスの頭に、ゼシカの小さな手がそっと乗せられた。 迷子の猫と同じ、一人ぼっちの寂しさを知る少女は、無垢故に傷付きやすい電子の獣を優しくなでる。
「ゼシと一緒に色んな色を見に行こうよ。ホントはね、世界ってキレイなのよ」
「でも、でも……」
 小さく黒い羽毛に覆われた身を震わせるタリス。 色の付いた絵筆をぎゅっと握り、二の腕で自分の胸を抱き締めて小さく、ゼシカの手を振り払ってしまわぬよう、本当に小さく首を横に振る。
「やくそくしたんだ、クレオと。 “おもい”をみつけたら、“おもい”を込めた絵を見せるって。 でも、でも“おもい”が見つからないんだ」
 分からないんだ、と言いかけたところで猫の瞳は潤んでいく。 まぶたを下ろせば零れ落ちる雫は顔を覆う羽毛が吸い込んでしまい、ぽろぽろと流れることはなかったけれど。
「……さっきは俺達が怖いって逃げて、今は“おもい”が見つからなくて悲しいんだろう?」
 極彩色の街に描かれた世界に囲われて、今もやや不機嫌そうな顔をしたままのミケランジェロもまたタリスに歩み寄る。 その人相にタリスがびくりと身を竦ませるが、芸術の神が迷子の顔と同じくらいの高さになるようしゃがみ込み――。
「その気持ちが、お前が探してた“想い”だ」
 とん、とタリスの胸に手を当ててやる。 その仕草を“だれか”の姿と重ねたらしいタリスは、自分の手で自身の胸を押さえつけた。
「これが、ぼくの“想い”……?」
 縋りつくような声に、誰もが首を縦に振る。 本来ならば管理AIに宿ることのない感情を得た迷い子の“想い”を、否定するものなどいなかった。
「これが、ぼくの“想い”……」
 その場にぺたりと座り込むタリスを、白いウエディングドレスを着た女性の手が優しく包む。 ゼシカがいつも大切に持ち歩いている思い出の写真に写るママに、とてもよく似た聖母の絵はタリスと一緒に、その絵を描いたゼシカを抱きしめる。
「マリア様がゼシと猫さんをぎゅってしてくれるから、もう寂しくないよ」
「そうです、わたくしたちは別の世界からあなたを救うために来ました」
 ゼシカと同じように、神の姿を描いたダルタニアも。
「貴方はもう一人ぼっちじゃないわ」
 白い箱庭で長い時を、孤独に過ごしたティリクティアも。
「この世界だけで満足する気か」
 彼の“想い”の在り処を見抜いたミケランジェロも、タリスを見ている。
 それと、と口にしたツィーダは懐を探り、取り出したものは、タリスのために発行された一つのパスホルダー。
「迎えに来た、ってのは言い方がまずかったね、ごめん。 だからさ、言い直すよ」
 もう迷子ではない、同じ世界を超える仲間として、そして同じ世界から訪れた仲間として。
「――ボクと一緒に、“ここ”じゃない外の世界へ『旅に出よう』よ?」
 青い鳥が差し出したパスホルダーを、黒の鴉猫は。
「…………んっ」
 世界の<真理>を受け入れ、新たな乗客の一人として、それを受け取った。 瞳からぽろぽろと涙を零しながら。

 ※ ※ ※

 世界が崩れる音がする。
 そんなこと、些細な問題だと思うことにした、つもりだった。
 けれど、今はなぜかそのことがとてもとても苦しいことのように思えてしまう。
「この世界、この絵、全部消えちゃうんだね」
 いつの間に来ていた物好き屋が感傷に浸るように呟く声がした。
 寂しさをさらけ出すと同時に、どこか悔しさを滲ませた声に、丸い耳をぴくりと、尻尾の先をゆらりと揺らして応じる。

「こんなことしちゃう前に、なんで言ってくれなかったの」
「言ったらアンタ、オレのこと止めただろう」
「止めたよ。 死んでほしくなんかなかったもの」
 けどもう遅いんだね、と乾いた笑い声が届いた。
「キミが描く絵、好きだったのにね」
 止めてくれ、と思う。 そんな甘くて優しい言葉、なんで今更。
「キミは信じてくれなかったけどね。 だからこんなことをしちゃったんでしょう?」
「オレの絵を好きになってくれる人なんて、いないと思ってた」
 本当、なんて今更だ。 筆を握る手が震えてくる。 筆先に宿る色は青に染まっていた、哀を思わせる青に。
「けど……、好きだって言ってくれるヤツがいきなり現れた」
「へぇ、その子の言葉は信じられたんだ。 その子が羨ましいなぁ」
「……アンタもオレの絵、好きだったのか?」
「過去形にしないでほしいんだけどな。 けど……いつかは忘れて、過去形になっちゃうのかなぁ、寂しいね」
「……本当、だったのか?」
「何度も言ってるよ。 何度も言ってたんだよ」
「……」

 ひらひらと、一枚の白い羽が降りてきた。
 ふと見上げてみれば、何も動き出さないハズの街で、無数の鳩が飛んでいることに気が付いた。
 ああ、そっか、世界図書館の連中が来たんだな、オレを消しに。 若しくはタリスを迎えに。
「じゃ、僕はもう行くよ」
 ホントは最期まで見てたかったけど、と物好き屋はこちらに背を向けた。
 面倒なコトになりそうだしと、立ち去り際に一度手を振って。
「なぁ、リーダー」
 今にも消えそうな背中に声を掛けた。 こげ茶色のブルゾンコートを着た物好き屋はピタリと立ち止まる、振り返らない。
「……アンタ、名前なんて言うんだ。 まさか“リーダー”とか“物好き屋”が本名ってワケじゃないだろ」
「僕の名前を冥土の土産代わりに、って? 嬉しいやら寂しいやら……」
 舞い降りてきた鳩達と少し戯れながら、物好き屋は悲しそうな笑顔を浮かべた。
 キミがあの子に“おもい”を聞かれた時、こんな顔してたかもね、と余計なことを告げた後。

「初めまして。 流杉(ルスキ)です」
 そしてさようなら、と、不思議な響きの名を言い残して、物好き屋はこの世界から瞬く間に姿を消した。
 そのすぐ後で、鳩の群れの中に一羽だけ、青い鳥が混じっていることに気がついて、ふと口許が緩んだ。

 ※ ※ ※

 この街の中央には、とても大きくて真っ白な壁がある。 『王の壁』と呼ばれるこの壁は何かを覆っているわけでも、何かを隔てているわけでもない。 ただ一枚の巨大な壁が、街の中央部に堂々と飾られている。 他の世界ならばきっと不思議に思うだろうこの光景は、この世界に留まった一人のツーリストにとってはごく自然な風景だった。
 一つの街の絵を自分の絵だけで支配出来たグラフィッカーは、『王の壁』に自らの名と絵を描く権利を与えられる。 この壁に名を刻むものの絵は、その街で永久に語り継がれるのだと言う御伽話があった。 けれどそれを実際に試したものなどいない。 なぜならコレだけ広い街を自分だけの絵で埋め尽くすなど、多くのグラフィッカーが存在する世界では到底不可能なことだからだ。 さらに御伽話の主役となる『王の壁』は、力のあるグラフィッカーの組織に厳重に護られているため、迂闊に触れることすら許されない。 そんな巨大な壁の前に敷かれたブルーシートの上に、クレオ・パーキンスは居た。 様々な色の入ったバケツがいくつも置かれた奥の脚立に腰掛け、色が塗られていただろう壁を白く塗り潰している。 着ている服は辺りにちらほらと塗料が散らばったワイシャツとジーンズ。 ジーンズの腰辺りから突き出した尻尾は、先端に筆のようなふさふさとした毛が生えていて、頭部には立派な鬣を生やした獅子の顔を備えた獣人の青年だ。
 物好き屋を自称する男が立ち去った後、彼の指先に止まった青い鳥をしばし眺めて、まどろむ様にと目を細めて微笑む。 何も動き出すことのないはずの街で羽ばたく青い鳥の出所を悟ると、彼は脚立からゆっくりと降りブルーシートを踏みしめた。
「お前は……タリスの想いで動いてる絵なんだな」
「ああ、そうだ」
 ブルーシートの外から聞こえてきた声に、クレオは丸い耳をぴくりと動かしてから、声した方へと顔を向ける。 そこに居たのは自分の服と同じように、所々が塗料に塗れたつなぎを着た銀色の髪の男だ。 先ほどまでクレオの周りを飛んでいた鳩の群れは、銀髪の男の周囲を囲うように集い始める。 その光景を見て、獅子の顔をへらりと崩した。
「この鳩はアンタが描いたのか。 とても静かで繊細で……けど見てるとなんだか、胸が熱くなってくると言うか……固い殻の中に、熱いなにかを閉じ込めたような……そんな鼓動を感じるよ」
「そうやって他人の感情を欲しがった所で、それがお前のものになるわけねェだろ」
「……その口ぶりだと、オレの絵のこと分かってるみたいだな」
 鋭く返されて、クレオは痛みと哀しみが入り混じったような表情を浮かべる。 他人の手で描かれた鳩と青い小鳥を物欲しげにじぃっと眺めた後、『王の壁』に振り返って見せる。 銀髪の男もブルーシートを避けて『王の壁』へと近寄る。
「オレはただ、静かに絵を描いていたかっただけなんだ。 けど絵を描くものはみんなグラフィッカーと見なされて、街の一角に領土を作って、奪い合う戦いを強いられる。 けどオレはそんなこと望んでなかった。 オレはただ、静かに絵を描いていたかっただけだからさ。 けど、それは『Visual Dreama』じゃ叶わないことだって分かりきってた」
「だから、人気のねェところに世界を生み出して、一人だけの世界を造ったのか」
 横から銀髪の男が顔を覗き込んでくる。 それに対しゆっくりと頷くクレオの瞳は虚ろだった。 静寂を求めた絵描きは、騒然とした絵師達の戦いに呑まれ、潰された後に絵を描く喜びを失ったようだった。
「お前の世界じゃ、力だけを求められてきたのか?」
「それはオレにも分からない……、けど皆は確かに力を求めたよ」
 力ない返答の後、銀髪の男は「そうかよ」と、不機嫌な調子で返してきた。 その手にスプレー缶が握られているのに気がついた後、男は空いたもう一方の手でクレオの腕を掴んでいた。
「?」
 なすがままにされ、そのまま男に引っ張られていく。 連れて行かれたのは『王の壁』の裏側だ。 その先にはこの壁の前で出会ったタリスと一緒に、青いローブを着た襟巻蜥蜴、見覚えの無い青い鳥と、白に黒ブチをいくつも落とした毛並みの犬、そして金色の髪をした少女と女性が立っていた。 恐らく世界図書館からやってきた「おむかえ」だろう、多くの人に囲まれて、もう一人ぼっちではないタリスを見て、クレオは一息ついた。
「そっか、アンタ達はクレオを迎えに……」
「お前に見せたいものがある」
「……見せたいもの?」
 タリスを含めた6人が見ている先に、クレオも目を向ける。 その先には真っ白な『王の壁』の裏側があるはずだった。 けれど――。

「!! ……これは……」

 ――そこには、彼が目にしたことの無い風景があった。
 植物の緑と空の青に満ちた広大な自然、木製の床が足場となる海上都市の営みと文化、ほのかな闇を秘めつつも活気ある街並みに、まるで夢を描いたような浮き島の世界。
 それらを繋ぐのは異世界を行き来する12車両の列車、車窓の中に見える人々はみな各々の世界から見聞した話を披露し合い、道中も賑わう様が描かれている。
 空に掛かる虹の橋の上を渡るのは愛らしい赤い猫や凛々しい青い鳥達だ。 そんな橋の上に一人腰掛けている女神は、真っ黒い猫と天使のような女の子を両腕で抱いて、優しい笑みを浮かべている。
 虹の向こう側に描かれているのは、神々しくも慈悲深い瞳を持つ白く大きな狼の姿。 その周囲を静かながら、嵐と見紛うような感情赴くままに羽ばたくのは無数の鳩の群れ。
 それぞれが異なるタッチで描かれた絵だと分かると、クレオは地に膝を付け、両手でぎゅっと己の胸を握り締めていた。 幾人の者の手で描かれた絵が共存し心通わせている様など、他者の絵を潰しあう世界の出身者であるクレオは見たことがなかったから。
「すごい……、こんな絵を見るのは、生まれて初めてだ」
 これ以上の言葉は思い浮かばないと言葉を失う孤独な絵描きに、己の名を奢らぬ芸術の神は手にしていたスプレー缶を差し出した。 視線を壁に描かれた新たなグラフィッカー達の絵へ向ける。
「想いが欲しければもう一度絵を描いてみせろ。 描きたい想いがあれば、それは上っ面の感情じゃねぇ」
 そうでなきゃ筆を折れ。これ以上芸術を愚弄するな。 神はそれだけを言い残して一歩下がり、一人のギャラリーとなる。 クレオがそっと振り返れば、そこには新たな絵が書き足されることを望む迷子と、その「お迎え達」が彼を見ていた。

 缶を一振りして描いた絵は、とてもシンプルな一羽の鴉だ。 タリスに良く似た瞳をした鳥を壁画の隅に描いていく。 次元が凍りついたかのように静まり返った時の中、絵の中の鴉は少しずつ形作られていく。 やがて嘴の先の艶や、鳥足に備わった鱗の一枚一枚を丁寧に小筆で補正した後、クレオはその場を振り返る。 その瞳にはやっと光が灯っていた。
「ライオンさん」
 クレヨンの箱を大切そうに抱えた少女が微笑みながら、手を差し出す。
「ライオンさんも、ゼシ達と一緒に行こうよ」
「はは……、そいつは素敵な提案だな」
 照れを隠すように浮かべた笑みは、本当に嬉しそうで、とても悲しそうな笑みだった。 絵の中の鴉が羽ばたく音がしたと思えば、遠くの方から何かが崩れ行く音が聞こえる。 その音に、かりそめの世界が消え去る音を聞いたことがあるのだろう犬獣人の神官戦士はそっと祈りを捧げる。 傍らに立つ姫巫女も、絵描きの逃れることが出来ない崩壊の未来を見て、目を伏せた。
「アンタ達に会うのが、もうちょっと早かったら……良かったのに……」
 それが、誰かとともに同じ壁画を描く喜びを初めて知り。
 崩壊を辿る道を選んでしまった事実を心の底から嘆いた、孤独だった絵描きの最後の言葉だった。


「クレオ!」
 身体の力が抜け、その場に崩れるように倒れる彼の名をタリスが叫ぶ。 今にも駆け出しそうな彼の腕を、ヴィクトルの手が掴んだ。
「まずいぞ……世界が崩れる!」
「でも、でもまだあそこにクレオが、クレオがいるのに!!」
「危ない!」
 ツィーダのトラベルギアであるリボルバーが宙へ向けて火を噴く。 その先に居たのは、今にもタリスに喰らい付こうとしていた暴霊の一匹だった。 運良く一発で仕留めても、新たに湧き出る暴霊の群れが瞬く間に追い寄せてくる。
「暴霊!? なんでこんなところに!」
「忘れたのか、ここは元々暴霊域なんだぞ!」
「……全く、少しは空気読んで欲しいよね!」
「みんなこっちよ、早く!」
 ティリクティアが壊れる街から脱出するためのルートを指で示せばダルタニアが先陣を切り、ミケランジェロがゼシカをひょいと抱えてそれに続いて駆ける。 今の彼の目に映る街の絵は、瓦礫の涙を零して泣き叫んでいた。
「ここはもう危険だ、タリス!」
 ヴィクトルがタリスの身体を『浮遊』の魔術で浮かしてむりやり連れ出していく。 いやだいやだと大声で泣くタリスを落ち着かせようと嘴を開こうとしたツィーダの視界の隅に、何者かの影が映った。
 強大な暴霊の視界に入らぬ小さな路地の隅に座り込んだ、一見すれば壱番世界の出身者に見える青年。 そちらに声を掛けようとしたところで、彼は路地裏の奥へと姿を眩ませる。 この場での追跡を諦めたツィーダは、泣き叫び荒れ狂う路上の地を強く踏み込んだ。

 どこかで鴉の啼く声が響く。 喜びと哀しみが入り混じった叫びにも似た声が。

 ※ ※ ※

 クレオの死を見届けた、彼の為だけの夢の世界は轟音とともに崩れ落ちる。 その音はこの地に本来留まっていた暴霊達の目覚めの合図でもあった。 崩れ落ちる瓦礫と襲い来る暴霊の猛攻から逃れるべく、7人のロストナンバーが消え行く世界の中を駆ける。 主を失った街の絵はその死を悲んでいるのか、目が痛くなるほどの彩度を既に失っていた。
 やがて一つの世界が終わる頃、とあるツーリストがこの地の片隅に留まっていた。 こげ茶色のブルゾンコートを着た青年は、一人の仲間の時間が永遠に止まった事実に泣き崩れた後、溶けるようにその場から姿を消したと言う。

 青年――流杉(ルスキ)と名乗った男の名が猫司書の口から紡がれる前、6人のロストナンバーによって保護されたタリスは色の付いた絵筆とバケツを大切そうに抱えていたと言う。 「たいせつなひとからもらった、大事なものなんだ」と、そう誇らしげに語った。
「けど」
「けど……どうしたの?」
 言葉を濁す鴉猫の子に、猫司書は首を傾げて尋ねる。

「たいせつなひとなのにね。 なぜだかそのひとのことが、思い出せないんだ」
[187] あとがき(偽クリエイターコメント)
ヴィクトル(cxrt7901) 2011-12-29(木) 20:43
 新年、あけましておめでとうございます。
 今年もディクローズの庭園に纏わるPCや、そのPLを宜しくお願いします。

 そして、この度の偽シナリオにご参加頂けた皆様に、改めて感謝を。
 どうも、ありがとうございました。 皆様のお蔭で迷子は保護されたようです。
 敵であるはずのクレオにも、暖かな説得の言葉をかけて下さったこと、嬉しく思います。
 きっとクレオの心にも届いたはずです……結末を変えるまでには至りませんでしたが。
 また、今回は顔見せとなった「物好き屋の流杉」ですが、今後は「VS世界樹旅団」系のシナリオに現れるかもしれません。

 タリスは後日、PCとして登録される予定です。
 スポットなどで見かけたら、声を掛けてやってくださると喜ぶと思います。


>ツィーダさん
 この度はタリスの出身世界やその詳細に付きまして、いろいろ相談に乗って頂きありがとうございます。
 そのお蔭でプレイングには、タリスの過去について文字数を裂かせるカタチになってしまいました……今後は気をつけねばなりませんね。
 もし今後も宜しければ、タリスと遊んでやっていただけたら嬉しく思います。

>ゼシカさん
 実を言いますと、ゼシカさんのプラノベを拝見させて頂きほくほくしていた身でした。
 その影響で、マリア様にはウエディングドレスを着て頂いてますが……マズかったらお申し付けくださいませ。
 過去から絵に馴染みあるお方の参加表明に、驚いたり嬉しかったりです、改めまして、ご参加ありがとうございます。

>ミケランジェロさん
 まさか芸術の神様が現れるとは……!(土下座の構え)
 お持ちの能力もグラフィッカーに類似されていることから、クレオの能力を分析、解説して頂いております。
 説得のお言葉、素敵でした。 プレイングを読み返すだけで時間が過ぎ行く罠が常時発動していました。
 ちなみに、クレオの説得に尤も多く字数を下さったのはミケランジェロさんでした。

>ダルタニアさん
 過去に作り変えられた世界へ赴いたことのあるお方として、参加して頂けて嬉しかったです。
 また今回のプレイングでは、唯一「タイムrミットは3時間」を考慮して下さったため、急ぎ足でタリスを保護するに至っています。
 ところで神狼さんの映写は、あのような形でよかったでしょうか……ドキドキしています。

>ティリクティアさん
 今回、尤も体力を消費された方かとPLは思っております。 ヴィクトルが独自の判断で、ティリクティアさんのサポート役に回りました。
 ロストレイルを描くと言うプレイングも素敵でしたし、予想外でもありました。 描かれた絵の中では、唯一被害を受けてしまった絵でもありますが。
 あと、今回はスパーン☆ なハリセンの出番を作れずに申し訳ありませんでした。

 

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[165] 【偽シナリオ】祭の夜・霧の森の幻術士
アルド・ヴェルクアベル(cynd7157) 2011-11-03(木) 02:51
 僕はいつでも、そこにいたよ。
 そこにいたのに、誰も僕を見てはくれなかった。 そう、君でさえも。

 ※ ※ ※

 ヴォロス辺境、《栄華の破片》ダスティンクルでの祭、「烙聖節」の夜が終わりを告げた。
 祭を楽しんだ者も、万一に備え警備に当っていた者も、夜が過ぎればやがて帰路へと向かう。

 町外れの森を警備していた少年、ニッティ・アーレハインもそのうちの一人である。
 一部では街中以上の盛り上がりを見せた地点もあったらしいが、それを彼は知る由もない。
 この森は思いのほか広大なため、その喧騒が聞こえぬところがあっても不思議ではないのだから。

「結局、なーんにも起こんなかったじゃん!」
 誰に言うわけでもなく、ニッティはそう不満げな声を上げた。
 答えるものはほんの僅かの静寂と、木々の小枝や葉が擦れる音しかない。

「もーぅ、不思議なことが起こるかも? っていうからちょっと期待してたのにぃ……こんなことならフツーに楽しんでおけばよかったぁ!」
 領主の館で行われていた『仮面舞踏会』のイメージを脳裏に浮かべてみる。赤、青、黄……その他の様々な色したランタンが行き交いながらの舞踏会。 こちらにも訪れようとは考えていたが、時間は誰にも平等で残酷なものだ。 後悔先に立たず、などという異郷の言葉を思いつつ、彼も重たい足取りで森の中を歩いていく。

「……むぅ?」
 ふと意味を成さない声を上げつつ首をかしげる。 先程から気がついてはいた現象が、すぐ目の前を横切っていったからだ。

「……これ、もしかして霧?」
 うっすらと白いもやは、いつの間にかニッティの辺りを漂い周囲を覆いつくさんばかりに広がっていた。 気がついていた頃こそは本当に気にも留めない程度のもやだったものは、今では視界を塞いでしまうほどの濃度を持っていた。

「やだー、これ迷子フラグじゃん!? ヤバいかも……っ」
 普段ならばつけていた「ちょっと」の言葉は出てこない。 霧は辛うじて翳した手が見える程度の濃度になっており、三歩先の状況を把握することすら満足に出来ない。フラグは既に立っていた。
 迷子の不名誉を得ることを覚悟し、支給品のトラベラーズノートを開いて助けを求める。 顔とノートの間を阻む霧のせいで、手元の文字がちゃんと書けているかの確認すら困難だった。

 がさり。

「……誰!?」
 反射的にノートを閉じ、手にはトラベルギアである槌を持って振り返った。先ほどまで自分以外の気配はなかったハズなのに、「誰かが近くにいた」という気配を感じたからだ。けれど振り返った先には誰も居ない、仮に誰かが居たとしても、見ることは出来なかった。 霧はもう伸ばした手の先が見えなくなるほど濃くなっていたから。

「ここまでくるとこの霧、自然現象なんかじゃないよね。 キミが起こしてるの?」
 槌をしっかりと構えて声を上げるが返答はない、ただ彼の視界が封じられていることを既に知っていて、それを愉しむかのように、木の葉を踏みしめる乾いた音だけが響き渡る。 白いもやに包まれた中で、ふと赤い光が走った。

 来る、そう感じて槌の柄を握り締めたとき、耳にしたのは歌だった。 ただし歌と呼ぶにはお粗末な、ただ猫がにゃあにゃあと可笑しなテンポで鳴いているだけの音。それをなぜ歌だと感じたのか……彼の中では既にどうでもいいことになりつつあった。
 槌を握る手から力が抜け、先ほどまで気張っていた意識が朦朧としている。 がさり、と大きく鳴った枯葉を踏み砕く音のするほうへ、緩慢な動作で振り返ると。

「退屈なんだ、遊んでよ。 ――ディナーの後にでも」
 一瞬だけ見えた、赤い瞳をした猫の顔。
 それが誰かなど判別する間も無く、首筋に何かが突き刺さった。

 ※ ※ ※

『ある所に、霧に覆われた大森林があるんだ。近くに住む人は「霧の森」と呼ぶ。近くに住む人々は夜になると、この森に近付こうとしない。何故なら、森には「幻術士」って呼ばれる銀色の猫がいるから。彼の歌を聴いた人は心を奪われ、森の奥へと誘われてしまうんだ。森へ誘われた人は、朝になったら帰ってはくるんだけど……でも首筋を見ると、猫に噛まれた跡や爪痕がいくつも残っていてね。その日から夜か来る度、歌に誘われて森の奥へと足を運ぶらしいよ』

 ※ ※ ※

 これは地表の多くを海で占めている世界で、とある領主の為に一人のロストナンバーが語った物語。この物語の主人公と、それを語ったロストナンバーは同一の者であった。
 近隣の人々を、魅了の歌と惑いの霧で森の奥地へと誘う「幻術士」。 誘った後の者に明白な「印」を刻み、また誘う銀色の猫のお話。
 それは『貴方』の記憶にある話かもしれないし、報告書で見知った情報かもしれない。 中には当然、知らないという人も居るだろう。

 いずれにせよ、『貴方』は深い霧が漂う森の奥地へと足を踏み入れてしまった。
 次第に濃くなっていく霧の中、まだ覆い尽くされていない視界の先に、ロストナンバーの少年が太い木の幹にもたれ掛かっているのを見つけた。
 服の肩の部分が僅かに破れ、首筋には獣の爪や牙の跡が痛々しく刻まれていたが、穏やかな息遣いで眠っているようだった。
 これほどの傷を負っているのにも拘らず、端から見れば出血の量は少ないように見える。 しかし顔色は僅かに悪く、肌に触れれば人肌とは思えぬほどに冷たかった。

「美味しかった。 けど……もう寝ちゃったみたいだね」
 がさり。
 深い霧しかなかったハズの所で物音がした、どこか楽しげで無邪気な少年の声も不気味な風に響く。

「せっかく後で遊ぼうと思ってたのに……って思ってたら、また来てくれた。 流石は世界図書館だ」
 先に響いた声とは別のほうから声は響く、たまにけらけらと笑う声もするが、それだけは周囲からじわりと迫る霧全体から響いているようにも思えた。

「おっと、僕は世界樹旅団の者じゃないよ。 キミ達とおんなじ、世界図書館側のロストナンバーさ。 少し姿を見せようか? コレで僕と分かる人がいれば、だけど」
 ひゅん、と霧の中から飛んできた銀と赤の物体。 それは枯れ草の上にかさりと音を立てて落ちる。 それは銀色の五角形を象るプレートに、緋色の猫の瞳のような宝石が埋め込まれたペンダントだった。 持ち主の名を口にするものが居れば、あははっ、と嬉しそうな声が聞こえてくる。
 ぎしり、と木の太い枝がしなる音に釣られて顔を上げれば、ペンダントの持ち主は口許を血の赤に染めたまま、にんまりと笑顔を浮かべていた。
 霧の森の幻術士、アルド・ヴェルクアベルは銀色だった瞳を緋色に輝かせ、右手で己の胸をぽんと押さえてから、言った。

「ねぇ、遊んでよ。この僕と」

〜〜発言が3件、省略されました〜〜
[169] 【参加表明】
通常・正面
飛天 鴉刃(cyfa4789) 2011-11-03(木) 19:43
「追い掛けてみれば怪しげな霧に……これか。
 これがお前の心配していたことか?」

追い掛けた龍人、迷い込み。
[170] 【参加表明】
…分析照合、完了… 君ト会ウノハ初メテ…宜シクネ…
幽太郎・AHI/MD-01P(ccrp7008) 2011-11-03(木) 21:16
「迷子ノ人ガ居ルッテ聞イテ来タヨ…
 …君…何処二居ルカ、知ラナイ…?」

ノートを見て駆けつけた機械竜、迷い込む。
[171] 参加者確定、OPノベル
アルド・ヴェルクアベル(cynd7157) 2011-11-04(金) 03:00
「迷子ノ人ガ居ルッテ聞イテ来タヨ……。君……、何処二居ルカ、知ラナイ……?」
「あははっ、何言ってるんだい? 霧に巻かれた時点で君も迷子だ、迷ってないのは、僕一人だけ」
 トラベラーズノートを片手に尋ねた鋼の竜――幽太郎・AHI/MD-01Pに対し霧の森の支配者は歌うように囁く。
 木の枝から飛び降りて、周辺がすっかり霧に覆われたことを知れば、ヒゲをピンと立ててまた哂う。

「追い掛けてみれば怪しげな霧に……これか。 これがお前の心配していたことか?」
 黒の龍人――飛天 鴉刃が投げかける問い、それを受けた銀色の猫は答えない。
 一応、声のする方へ向き返りはするが、その動作はまるでまたたびに酔っているかのように緩慢だ。
 事実、酔っているのかもしれない。 竜刻の力が満ちる夜は、彼にとってそれほどの力を持っていた。
  
「お祭り騒ぎで浮かれるのはいいんだけどさー……流石にちょっとやり過ぎ、じゃないかな? ……ねぇ、アルド?」
「……これくらいしなきゃ、みんな帰っちゃうだろう? そんなのやだ、つまんない」
 木に寄り添うように眠る少年を見てか、周囲に立ち込める霧を見てか。青い鳥――ツィーダの諭すような言葉を聞けば、アルドはぷいと視線を逸らす。

「真っ暗で、静かで、月も綺麗で、心地良い魔力に満たされた夜……だと思ってたのに、ひっくり返るくらいニギヤカなんだもの。 これじゃ僕のしたかった『遊び』が出来ないよ、つまんない。 けど……」
 一度逸らした視線をまた別の人物、鎧を纏った女性――最後の魔女に合わせてにたりと微笑む。
 普段通りの活発な光の篭らない眼を細めている仕草は、何かの品定めをしているようにも見えた。

「君らが遊んでくれるんだろ? 僕と、さ」
「いいわ、一緒に楽しく遊びましょう。 ……くくっ、たっぷりと、弄んであげるわ」

 ダスティンクルの烙聖節は、すでに最後の時を終えている。
 けれどこの一帯だけ、竜刻と夜と霧が齎す不思議な一夜が続いていた。


-----------------------参加者-------------------------

・ツィーダ
・飛天 鴉刃
・最後の魔女
・幽太郎・AHI/MD-01P
[172] 本編ノベル
アルド・ヴェルクアベル(cynd7157) 2011-11-19(土) 22:32
 ふっ、と口の端から小さな笑いが漏れた。
「何をして遊ぶのだ? 鬼事か、隠れん坊か?」
 祭の夜はとうに過ぎ去ったというのに、と飛天 鴉刃が嘲るように言う。先ほどの猫によく似た口ぶりに、それを受け取ったアルド・ヴェルクアベルは満面の笑みで返した。銀色ではなく、緋色に染まった瞳を歪に細める。 獲物を見つけた肉食獣の穏やかな笑みだ。
「それじゃ、両方で。 鴉刃達はかくれんぼで、僕は鬼ごっこ! ……一人も逃がさないよ?」
「ああもう、なら分かったよ」
 その手に生み出したばかりの長棒を握り締め、ツィーダは苦々しくも構えを取った。アルド……友達に刃物や銃口を向けることを嫌った青い鳥は、殺傷性の低いものを遊具に選んだのだ。
「満足するまで遊んであげる。 その代わりいろいろ聞かせてもらうからね」
 常人からすれば、決して「遊び」には見えぬ空気を前に表情を引き締めたのは、鴉刃とツィーダ。 彼等の背後に控えた巨大な竜の着ぐるみ――幽太郎・AHI/MD-01Pの表情は伺えないが、その傍らに立つ甲冑姿の女性、最後の魔女は猫とよく似た笑みを浮かべていた。
「メインシステム……起動……、情報取得……、開始……」
 どこか可愛い風のドラゴン着ぐるみの中から、か細い機械音声が聞こえる。 それを「遊び」の開幕と受け取ったアルドの瞳が、ギラリと怪しくきらめいた。
 その刹那。

「……――!」

 四人を包んでいる霧は、瞬く間に赤々とした炎へと変わった。 徐々に燃え広がるものではなく、一瞬のうちに焼き場へと放られたかのように、その身を焼き尽くされる――錯覚。
「くっ……、その様な術では私は惑わせぬぞ、アルド!」
 鱗が焼け爛れるように疼く痛みを感じながらも、鴉刃は正面へ立つアルドへと向かっていく。 その行動に驚いたのか、アルドは素早く霧の中へと身を投げて姿を眩ませた。 彼に追いつけなかった鴉刃もすぐさま3人の下へ身を翻す。
「熱センサーに反応はないよ、いきなり燃えたように見えたから驚いたけどさ」
「やはり幻術であったか……この様な霧の中だ、あれほどの炎が瞬時に燃え広がるのは非常に不自然だ」
「着グルミモ……燃エテナイヨ……」
 幻術に存在した違和感を見破った鴉刃に、熱源を見破る術を持つツィーダと幽太郎が応じていく中、くつくつと失笑するのは最後の魔女。 彼女は初めから炎に焼かれる幻など見せられてはいなかったようだ。
「子猫の手品にしては、なかなか面白いわね」
「手品ではない、あれがアルドの幻術だ。 この霧もアルドが起こしているものだろう」
「へぇ、この霧も? ならそれも“術”では無くなるわね」
 かつては自身がその身に受けた――その時は本当に「遊び」だったが――と言う鴉刃の忠告を、最後の魔女はばっさりと切り捨てる。  子猫と称した幻術士が消えた方へと身体を向ける。
「私の名前は最後の魔女。この世に存在する全ての魔女。ここには私以外の魔女は存在しないし、私以外に魔法を扱う者が存在してはならない」
 深い霧に呑まれた森は気味の悪いほどに静かで、その静寂を打ち破るように響く魔女の声だけが辺りに染み渡る。
「幻術を、そして霧を操る猫など存在してはならない。 そんな魔法のような力を持つものの存在はこの私が認めないわ。 なぜなら――」
 ありとあらゆる魔法の存在を否定し、その言の葉を重ねていく最後の魔女。 締め括りの言葉として、彼女は壮絶な笑みを浮かべて宣言する。
「私が、最後の魔女だから」
 まるで唄うような言葉の後、最後の魔女らを覆っていた霧は静かに退いていく。『最後の魔法』、彼女の否定し認められることのない全ての不思議な力は、その力と存在意義を失い消えゆこうとしていた。
 霧の森と化した一帯が、幻術士が愛した『霧の森』では無くなっていく中。 その中に身を隠していた銀色の猫が現れる。 その獣の表情から笑顔は既に消え、緋色の瞳に静かな怒りが灯っていた。
「自慢の手品のタネを暴かれた気分はどうかしら、子猫ちゃん?」
 幻術士たる力を封じられた子猫へ、「Witch of LastDays」たる最後の魔女が尋ねてみれば、忌々しげな唸り声だけが帰って来た。

 ※ ※ ※

 緋色の二つ光が夜の闇を駆ける、霧がなけれど「遊び」は継続されていた。
 喉の奥から威嚇音を漏らしながら、アルドは仕舞っていた獣爪をむき出しにして周囲を跳ね回る。 誰かとぶつかる寸前の距離を駆け抜け手を大きく広げれば、伸ばした爪は幽太郎の着ぐるみに引っかかる。 布を切り裂く音、鋼を擦る音の両方が響くと幽太郎はビクっと身体を震わせた。その反動で固いもの同士がぶつかる音がする。
「……ッ」
「ア、ゴ、ゴメン……」
 幽太郎は傍に立っていた最後の魔女とぶつかり、彼女から無言の一瞥を受けては涙目になりながら謝る。 この間にも彼の熱源センターとレーダーはフル稼働中だ。 背中合わせの位置に居るツィーダと無線回線で情報を共有しながらアルドの行動方針を探っている。 どうやら夜目の効かない最後の魔女と、身体の大きな幽太郎を優先して狙っているらしい。 特にあらゆる魔法の存在を無力化する魔女の存在は、銀色の幻術士にとっては非常に邪魔な存在だった為、集中的に狙われていた。 その証拠に魔女を庇う幽太郎が着込んでいた可愛らしい着ぐるみも、今となっては様々な箇所をズタズタに切り裂かれていた。
 猫の凶刃は幽太郎の脇を通り抜けて最後の魔女へと迫る。 その行動を分析していたツィーダは、最後の魔女がトラベルギア「最後の鍵」を構えるより早くアルドの前へ躍り出た。 両の手で握り締めた長棒でアルドの爪を食い止める。
「フゥウウッ!」
 ――邪魔をするな!
 そう言いたげな唸りを受けつつもツィーダは血にも見える瞳を見返す。 彼には“この”アルドに対して尋ねたいことがあったのだ。 同様に、伝えたいことも。
「君は一体、誰なんだろう。 アルドの一部なのかな」
「…………!」
「遊んであげる代わりに、いろいろ聞かせてもらう約束だろ?」
「うるさい! 僕はちっとも満足なんかしてないよ!」
 爪で押し付けられていた棒がふと軽くなる、アルドが棒を引き寄せていると気付いた時には遅かった。 突如引いた棒をアルドが勢い良く蹴り飛ばす。 くるりと回転しながら天へ上るそれを目で追ったツィーダは、肉食獣の爪にがっしりと捕らえられた。間髪を入れる間もなく喉笛を食いつかれ、後に続く声を潰される。 血を吸い出すどころか、肉を食い千切らんばかりの力を顎に込められ声にならぬ呻きを上げた。 その脇から現れた一陣の黒き風――鴉刃は、隙だらけになったアルドの腹を蹴り上げた。
「がふッ――」
 トラベルギアの力はなく殺さぬ程度に留めた一撃であろうと、暗殺の術に長けた竜の一撃は重い。痛みに耐え切れずにアルドがツィーダの喉から口を放す。 鴉刃は僅かに開けた間と隙を見逃さず、体捌きはそのままの勢いで尻尾を繰り出してアルドの胴へと叩き付けた。 薙ぎ払われる形で地に転げるアルドのその先で、予め仕組まれていたワンサイドゲームのチェス盤を盛大にひっくり返した魔女が哂っていた。 最後の鍵、未だ本来の用途が発揮されぬ――それその物が武器と見紛うほど巨大なそれを振り上げて。
「お遊びはここまでね。 ここからは――楽しい楽しいお仕置きの時間よ」

 斧のようにも見える鍵の先端が、地へ振り落とされた。

 ※ ※ ※

「起キテ、起キテ……」
 ぺちぺち。 幽太郎の爪先が彼の頬を優しく叩くが、反応はない。 空いた手に持ったトラベラーズノートを広げ、受け取ったメールを確認しながらさらに続ける。
「ボクニ、迷子ノメールシタノ、キミダヨネ……? 迎エニ来タヨ」
 現在の幽太郎の視覚は熱源センサーによって補完されている。 発見した当初は冷たくなっていた体が人肌の温度に戻っていることに気付いた彼は、「モシカシタラ起キレルカモ」と思い、懸命に声をかけていた。
 そこへ、ゆらりと黒く長い影が差し込んでくる。 それは記憶に新しい速度で迫り……。

「うひゃあぁっ!?」
 迷子メールを送信した少年、ニッティ・アーレハインは目を見開き、突如訪れた攻撃を右腕で受け止めた。 銅色の義手と漆黒の鍵がぶつかり合う、固い衝撃音が響く。
「ちょ、まっ……!? いきなりそんな仕打ちひどくない!? ボクがなにしたっていうのさ!?」
「目覚ましにするならこれくらいが丁度良いと思ってねぇ? くっくっく……」
 最後の鍵を手元に戻しながら、最後の魔女は笑う。 そのやり取りを間近で見ることになった幽太郎はまた涙目になるが、ニッティが攻撃に反応してすぐ目覚めたことに驚いていた。
「アノ……、ダイジョウブ?」
「大丈夫もなにも、この子、途中からもう起きてたわよ」
「エッ……? ソウナノ……?」
 じぃっと涙目の機械龍に見つめられ、ニッティはぎくりと体を震わせる。 それから視線を宙に泳がせるが、それは後に最後の魔女の視線と真っ向からぶつかってしまう。
「子猫ちゃんの魔法を解いた時、一緒に別の魔法も解いた感覚があったわ。 ……あなたの魔法じゃなくて?」
「……うぅっ。 ボクの『氷結化』解いたの、やっぱりキミだったのね」
「私の『最後の魔法』は、敵も味方も問答無用で巻き込んでしまうの。それに最初から可笑しいと思っていたわ。首筋の傷痕は最近付けられたもので、血も流れたばかりに見えるのに……もう体が冷え切っているなんて流石に有り得ないわ。なぜなら――」
「キミが、最後の魔女だから?」
 もう勘弁して、と言葉の先を持っていった不運の少年魔導師に、分かってるじゃない、と最後の魔女は嬉しそうに微笑んだ。
「……ところで、あの化け猫さんは?」
 ふと思い出したようにニッティが尋ねると、最後の魔女は視線をその方へと向ける。 視線の先には地に横たわる銀色の幻術士、その傍らには黒い竜人のアサシンと電子の青い鳥が座り込んで彼を見守っていた。


 金属同士がぶつかる音に、緋色の瞳が見開かれた。 目覚めたアルドすぐさま飛び起きようと四肢を動かすが、腹に強烈な痛みを感じて獣のように唸りを上げる。 
「この「遊び」はもう終わりだ、アルド」
 お前の負けだ――そう続けながら見下ろしている鴉刃を恨みがましく睨みつける。 それだけで発動するはずの幻術は起こらず、視界の端で最後の魔女が口を開くのを確認すると、諦めたように視線を逸らした。 彼の視界には捉えられなかったが、ニッティも幽太郎の大きな身を借りながら辛うじて立っている。
「あんまり動かないほうがいいよ。多分、肋骨が折れちゃってると思うから」
 噛まれた箇所から青いデータ片が零れるのを抑えつつ、ツィーダはアルドの身を案じた。 猫の急所とも言うべき柔らかい腹に鉄の塊が深々とめり込んだ瞬間と、何かが砕ける音を思い出すと苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。 その結果、こうしてアルドを無力化できたはいいが、友人の深手を喜んではいられなかったから。
「……もうちょっと遊んでたかったのになぁ」
 けほっけほっ、と咳き込めば、口から青い塊が吐き出される。 ツィーダの喉を噛み切った時、損傷したデータ片を飲み込んでいたらしい。 曖昧な笑みを浮かべた後、アルドはツィーダをギロリと睨んだ。
「僕は……一部なんかじゃない。 “アイツ”や父さんがどれだけ僕を否定したって、僕はアルドだ。 霧の獣王の息子で、幻術士のアルド・ヴェルクアベルだ! 一部だなんて言わせない……次にそんなこと言ってみろ、その忌々しい嘴、噛み砕いてやるッ!」
「“アイツ”……。 その“アイツ”とは、私達が普段接している方のアルドのことだろうか?」
 今にも再びツィーダに食らい付きそうなアルドに、鴉刃が横から割り込む。 人格の多重性を疑った問いに緋色の眼のアルドはまた視線を逸らした。
「……。 君達が言う「アルド」は“アイツ”なんだろうね。 けれどもう限界だろうなぁ。 だから僕が出てきてやったって言うのに……“アイツ”は僕を否定する。 誰も傷付けたくない、誰にも迷惑かけたくないとか、そんな綺麗事ばかり言ってさ……」
「限界?」
「鴉刃なら知ってるんじゃないの? 鮮血を目の前にした“アイツ”の様子がおかしいこと」
 尋ね返された鴉刃の脳裏には、かつて自分の世界を、そして自分自身を描いたというコンダクターを血まみれにした際、血を「大好物過ぎてガマンできなくなる」と言ったアルドが思い描かれていただろう。 それを見越してアルドは続ける。
「僕は……アルドは元からそういう性質を持ってるんだ。 他者の血なしじゃ生きられない、吸血鬼の性質。 それをあの手この手で……性質を呪いか何かだと思い込んで、いろんな世界から魔除けの小物みたいなの買い漁って、誤魔化して……。 抑え込もうと頑張ってるみたいだけど……、元々生まれ持った性質を、そんなもので消せるワケない……」
 気付いてるくせに。 アルドはそう呟くと全てを投げ出すように目を閉じ、全身の力を抜いて横たわる。 それを去り際と悟ったツィーダはアルドの手を取り、握り締めた。
「ゴメン……君もアルドなんだよね」
 アルドは答えない。 それでもツィーダは潰れかけた喉から声を絞り出す。
「普段のアルドも、今の君も、全部ひっくるめてアルドなら、ボクは君を受け入れるさ」
 銀色の手をさらにぎゅっと握って告げれば、緋色の瞳はツィーダの赤い目を見ていた。 先ほどまでの怒りに満ちたそれではなく、驚きと戸惑いが入り混じった目。 じっと見つめ合う形になるのが気まずかったのか、アルドは目を細めつつ視線を地に逸らした。
「……。 “僕”は眠るけど、起きたらまた人を襲うよ」
「それでも、受け入れる」
「血が必要ならば分けてやる。 それがお前にとっての助けになるなら」
 ツィーダが言い、鴉刃が続けた言葉がアルドの耳に入ったかどうかはわからない。 ただ、ツィーダが握っていた銀色の手は、かすかだがしっかりと握り返されていた。


 ダスティンクルの烙聖節は、すでに最後の時を迎えている。
 そしてこの一帯にだけ起きていた祭の夜もまた、霧の森の幻術と共に終焉を迎えた。
[173] あとがき(偽クリエイターコメント)
アルド・ヴェルクアベル(cynd7157) 2011-11-30(水) 23:43
 本編ノベル公開から一週間以上が経ちましたが、今更ここであとがきです。
 まずはこの突発的な非公式イベントに目を向け、参加してくださった皆様に感謝申し上げます。
 本当に、ありがとうございます。

 今回の偽ノベルは(PL的には)試運転と決め込んでおり、字数を短めにしようと思って執筆しておりました。
 結果、短すぎたなぁと反省中です、登場しているPCさんに偏りが出てしまったことには大変申し訳なく思っております。
 偽シナリオは運動会期間が終了した後、また別の偽シナを計画はしておりますが……PLの執筆力はこんな感じです。 再び参加してくださるお方が集まりましたら、ほくほくどきどきしながら頑張る予定です。

 そして最後にちまっと。
 ニッティとの会話を望まれたお方もいらっしゃいましたが、申し訳ありませんが省かせていただきました。
 理由としては、今回のニッティは重傷者として扱っていたため、誰かに寄り添って立つことが限界だと判断した為です。
 ちなみに彼を叩き起こす「適切な処置」とは「解呪」でした。
(問答無用で周囲を巻き込む魔法の効力により、自己防衛の魔法が解除されたものとしています。)

 

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[130] 霧を纏う庭園

アルド・ヴェルクアベル(cynd7157) 2011-08-05(金) 23:15
 どこかでスモークでも焚いているのかと思えるくらいに、深い霧が庭園を覆っている。
 しかし霧の中に入ってしまえば、不思議なことにその中を見渡すことが出来た。
 霧の中にあるいつもの庭園の中央に置かれた円形テーブルの横に、一人の猫獣人が椅子をせっせと用意している。

※雑談スレッドです。
〜〜発言が21件、省略されました〜〜
[160] (ん、と顔を戻し)
通常・正面
飛天 鴉刃(cyfa4789) 2011-10-04(火) 00:00
 使い魔と言えば身の周りを世話するだけで戦場では使わぬイメージだがな。
 あの時はたまたまいなかっただけか。
 ……。見たいのか?

 ま、まずは様子見というところであろう。動きがあればすぐ伝わる。
 トレインウォーのように集団戦に持ち込めればこちらにある程度強みは出てくる、と言うところか?また奇襲されたらかなわぬな。
 組織が個人に求めることが違うから仕方ないな。何らかの力、か。あちらと違いこちらはチャイ=ブレに直接求めるしかないか?

 いや、まぁその、何だ。
 再帰属の参考になるだろうかと、私自身の状況と照らし合わせて軽く考えていただけだ。
[161] 使い魔もいろいろ。

クアール・ディクローズ(ctpw8917) 2011-10-11(火) 00:01
 使い魔と一言で言っても、それぞれに異なる役割を与えている者も居ます。
 私もその内に入りますね……、殆どが攻撃型ですが。
 ……。 興味はある、とだけ。

 能力が均等である以上、大規模な集団戦であればこちらが優位かもしれませんね。
 奇襲は……これからも警戒が必要ですね、数少ない人数での冒険時は、特に。
 チャイ=ブレ、ですか。 求めるといっても、アレとどのように干渉すればいいのかすら……。
 ……私達自身がチャイ=ブレの全てを理解していないように、旅団のメンバーも世界樹の全てを理解していない、という可能性は……どうだろうか。

 …………。
 再帰属を、される予定ではいるのですね。
 貴女にとって、いい世界が見つかるといいのですが。
[162] ……男心というのは良く分からぬ物だ。
通常・正面
飛天 鴉刃(cyfa4789) 2011-10-14(金) 01:07
 ふむ。数手を自分で生み出せる、か。
 便利な物であるな。

 奇襲もそうだが、図書館以外にも消滅の危機から逃れられる手段としての旅団への所属もでてきたわけだからな。旅団側へと寝返ろうとする者も出てくるやもしれぬ。……特に力を制限されているであろう力強い者が、な。
 あの2人に関しては今までの報告を見る限りどうもそれとは違う感じ……というよりも場合が場合であったからやむなし、もしくは探りを入れるという感じはした。
 ファミリーに持ち掛けるぐらいしかどうすればいいのかは分からないのが現状ではあるが。
 そも、相手側の世界樹についてはこちら側はハンスへの質問でしか分かることができないから何とも言えぬな。
 ……ハンスの返答では、あまり知っている感じではなかったようだが。

 ん?ああ、今のところは特にそういうつもりはないぞ?
 元の世界には既に居場所などないしな。どこか特に思い入れのある世界も今のところはない。
 それでも……再帰属したいと思える世界が見つかった時、再帰属できるまでの年月などを思うと、と考えてな。
[163] すっかり間が開きました。

クアール・ディクローズ(ctpw8917) 2011-10-25(火) 21:44
 ええ、便利ですよ。 最初は操る作業に手が掛かりますが。
 慣れれば人手が足りないときも手伝わせることが出来ますし……過信は禁物ですが。

 ……世界樹旅団へ寝返るロストナンバー、と聞いてふと思ったのですが。
 世界図書館側が、寝返った対象への存在保障を断ち切らずに置いた場合……、その対象は能力制限を受けたまま、あちらに所属する形になるのでしょうかね。
 あちらへ行ってしまった二名に関しては、世界図書館側の支給品であるトラベルギア、そしてセクタンを所持したままのようですし……、もしかしたら。
 まぁ……そのまま敵対者として現れられたら、厄介であることに変わりはないようですが。

 こちらにも、制限を受けて尚相当な力を持つ方がいるくらいですし……現状では出来る範囲でどうにかするしか、でしょうね。
 今のところは「数で攻める」しかないようですね、ただ一人で五人を薙ぎ倒す相手が来たら、お手上げという状況はどうにかしたい、とは思いますが……。

 ……再帰属するに要する年月は、正に人それぞれ、ですね。
 数ヶ月程度で再帰属できた人も居れば、極端な話、二百年掛けても再帰属できない人もいるでしょうし。
 ……巡り合わせ、ですね。 こればかりは。
[164] しかし進展がないとどうにも。
通常・横顔
飛天 鴉刃(cyfa4789) 2011-10-27(木) 04:15
 なるほどな。
 ……聞けば聞く程羨ましいと言うか、魔法が使えぬこの身が恨めしいというか。
 過信が禁物、というとつまりどういうことだ?

 ギアの能力制限は受けたままであろうな。
 ただし、今現在でも分かっていることだが本人の力以外の物品は制限を受けない。
 ……あの部品もただ埋め込んだだけであり、本人の能力と認識されなければ、例えばコンダクターであれば強化の上にさらに物品の能力が加わることでより凶悪になりかねん。
 ノートは破棄されているようではあるがセクタンはいるとのことであるし……セクタンの気配を辿って向こうの居場所を特定できぬのか、とは思うのであるがな。
 前館長があれだけ厳重にセクタンを封印したのだ。その可能性は十分高いとは思うのだが。
 どうも隠されているようで不審に思えるが……今はその時期ではない、ということか。

 力の上限がこちらの方が低い以上、それ以上の数で攻めるか、もしくは先程いった能力制限を受けない物品を使うしかなかろうか。
 とはいえこちらも戦い方の心得を知らぬ非戦闘員も数多いしな……。ただ闇雲に数を揃えてもどうにもならぬのが。

 巡り合わせ、か……。
 ……まぁ、ゆっくりと考えることにしよう。幸いにもこちらの時間は無限にある。

 

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[103] シナリオ「【ロストレイル襲撃!】魚座:アフロディーテの棘」魚座号の個室

オルグ・ラルヴァローグ(cuxr9072) 2011-07-27(水) 01:30
 おう、みんな! 今の状況はわかってるな?
 一応確認しとくぜ……今、俺らが乗ってるロストレイル、魚座号は「世界樹旅団」からの襲撃に遭っている。
 連中が乗ってるUFOがその前兆だった、その後すぐに、最後尾に侵入者警報だ。
 俺たち6人が出くわしたのは、やたらと自信満々の女――たしか沙羅と言ったか……その実力は相当らしい。
 情けねぇことに、俺一人で相手取るのは無理だと感じた……故に、だ。
 俺の戦いにおける主義に反するところがあるが、状況が状況だ、贅沢は言ってられねぇ。
 俺たち6人の力を合わせて、世界樹旅団からの刺客を倒すんだ!

 6人っつーのは勿論――。
 まず俺、オルグ・ラルヴァローグ。
 坂上 健。
 蜘蛛の魔女。
 アキ・ニエメラ。
 ヒイラギ。

 最後に、上城 弘和だな……弘和の話によれば、沙羅は恐ろしく強いらしい。
 個々がバラバラに挑みかかっても、返り討ちに遭うだけだ……、だが、幸運にも。
 今、こうして話し合う場を与えられてるんだ、ここで沙羅に対する作戦を練る場をな!

 さあみんな、世界樹旅団のドヤ顔してる刺客に目にモノ見せてやろうぜ!

※PLより
 状況が非常に大変なことになっているため、勝手ながら意見提示、依頼相談の場を用意させていただきました。
 各OPのとおり、どの列車も制圧される寸前の状況にあります。 PL的にはこの状況を、単体行動で攻略できるものなのかと不安になってしまいました。
 そこでPLにとって二度目の試みですが……ロストレイル始まって以来の大きな危機を、皆さんと相談、協力し合い、乗り越えていきたいと考えています。
 お時間に余裕のある時で構いませんので、もしもご縁がありましたら、ご意見をお聞かせください。

 なお、このスレッドは個人PLが設立したもので、発言は決して義務ではありません。
 勿論ですが、このスレッドへの不参加などを咎めるつもりは毛頭ございません。
〜〜発言が16件、省略されました〜〜
[137] 威勢のいいこったな。

マフ・タークス(ccmh5939) 2011-08-28(日) 22:34
>蜘蛛の魔女
 オレは猫じゃねぇ、山猫だ。
 ……そういや名乗ってなかったな、マフ・タークスだ。 この拠点で庭師をやってるモンだ。

 制限がねェ可能性は十分に有り得るな、モフトピアに前線基地作るわ、壱番世界やヴォロスじゃ容赦なく住民を襲うような連中だ。
 世界の理を重んじてねぇんだろうな、そこだけがオレ達とヤツらの明白な相違点だろう。
 ……それ以外はまだなんとも言えねェな、どうこう言うにはまだ情報が足りない。

 トレインウォーか……、オルグは傷が癒えれば参加するだろうが、トラベルギアがな。
 修復にちょいと時間が掛かるらしいが……ま、アイツにゃまだ魔術がある、なんとかするだろ。
 ……おっと、思うままに殺すんじゃねぇぞ? オレ達の今回の目的を忘れるな。
 囚われた乗客の救出及び、奪われたロストレイルの奪還だ。 いい成果を期待しておくぜ。
[138] 俺、復活!

オルグ・ラルヴァローグ(cuxr9072) 2011-08-30(火) 00:44
 待たせたな!
(どーんとドアを蹴って参上。)

 ……とは言っても病み上がりだけどな。
 ギアも壊されちまって、今回のトレインウォーには間に合わないらしい、こればっかは仕方ねぇな。

 っと、遅れたが……今回の襲撃防衛はお疲れさんな。
 ちょいとカッコ悪ぃトコ見せちまったが……次はこうは行かないぜ……沙羅ぁ!!

 ……。 あー、ワリィ、ちょっと水飲む。(既にカップに入ってた紅茶を飲んでる。)
[140] 私達の戦いは始まったばかり!

蜘蛛の魔女(cpvd2879) 2011-08-31(水) 00:00
>マフちゃん

山猫だって猫じゃん!?(ああいえばこういうの法則)
…っと、私も名乗ってなかったわね。私の名前は蜘蛛の魔女。こう見えても蜘蛛の魔女なんだよ。

世界の理っつーのは良くわかんないけど、ワームを自在に使役してる時点で理もクソもないよねぇ。目的の為に手段を選んでないのか、もしくは手段の為に目的を選んでないのか。…う~ん、わかんないわ。

任せてよ、奴らなんか今度こそぴゅぴゅぴゅのぴゅーにしてやるわ。
みだりに殺しはしないよ。あんまり乱獲して生態系に影響が出たらいけないもんね。


>オルグちゃん

もう、オルグちゃんのバカバカ!死んじゃったかと思ったんだから!(ポカポカ)
私がどれだけ心配したと思ってんのよー!バカー!

ぜーぜー…、ともあれ、色々とお疲れ様ね。
私は奪還作戦に参加するけれども、まだ何をするかは明確には決めてないわ。
オルグちゃんが行けないってんなら私が代わりに頑張ってきてあげるから。
お土産なんか持ってかえってきてあげよ?
[142] ひっそりこっそり
ヒイラギ(caeb2678) 2011-08-31(水) 00:20
(いつの間にかいた)
こんな短期間で治るとは
医療スタッフの皆さん、いい腕をお持ちです(肩軽く動かし)

襲撃防衛ではお疲れ様でした
冗談みたいな強さの彼女相手に死人が出ずに済んでよかったです

そういえば…トレインウォーが行われるようですね
何をするかは決まっていないのですが、おそらく参加するかなと
[144] いよいよ反撃の時だ!

オルグ・ラルヴァローグ(cuxr9072) 2011-09-03(土) 00:26
>蜘蛛の魔女
 Σうおっ、いきなりバカとかなんだってんだ!?
 俺は頑丈なのが取り得なんだよっ、と……まぁ、心配かけちまったトコは悪かったと思ってるが。

 トレインウォーの話は聞いてる、他のロストレイルで囚われた仲間がいるってこともな。
 病み上がりってコトになっちまうが、俺も参加するつもりだ。
 まだトラベルギアは治ってねぇが、剣が無くても戦えるってトコを見せてやらねーとなっ。

>ヒイラギ
 おう、ヒイラギも無事退院だなっ。
 ……実際にやり合った後だ、沙羅の強さは確かに冗談なんかじゃ済まねぇレベルだな。
 気の力で素手から刀を出すわ、髪の毛で攻撃を凌いでくるわ……あとはアレだな、禊。
 ついでに……コイツは沙羅に限った話じゃねぇけどワームを意のままに操ることも出来るみてぇだ。 ったく、つくづく厄介な連中だよな……。

 俺も人のこと言えたクチじゃねぇが、トレインウォーに出るつもりなら気をつけてな。

 

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[102] シナリオ「【ロストレイル襲撃!】獅子座:ポイント・オブ・ノーリターン」獅子座号の個室

クアール・ディクローズ(ctpw8917) 2011-07-27(水) 00:52
 ……さて、大変な状況になりました。
 この獅子座のロストレイルに乗車されている方々ならば、今の状況をご存知でしょう。

 ただいま私たちの乗っている獅子座号は、「世界樹旅団」のロストナンバー並びに、ディラックの落とし子に襲撃され、既に占拠されています

 この状況下で行動が可能なメンバーは……。

 私、クアール・ディクローズと。
 清闇さん。
 リュエールさん。
 アレクサンダー・アレクサンドロス・ライオンハートさん。
 アラクネさん。

 そして、先程立ち去ったブラン・カスターシェンさんですね……彼とは連絡が取れるかはわかりませんが。
 状況、頭数、どれをとっても不利ですが……この個室に篭っている間、こうして話し合うことは出来ます、唯一のアドバンテージです。
 ……初対面で、初めましての挨拶とともにお願い事で、恐縮ですが……。
 少し、話をしませんか。 この状況をひっくり返すための、物語を描くために。

 ※PLより
 状況が非常に大変なことになっているため、勝手ながら意見提示、依頼相談の場を用意させていただきました。
 各OPのとおり、どの列車も制圧される寸前の状況にあります。 PL的にはこの状況を、単体行動で攻略できるものなのかと不安になってしまいました。
 そこでPLにとって二度目の試みですが……ロストレイル始まって以来の大きな危機を、皆さんと相談、協力し合い、乗り越えていきたいと考えています。
 お時間に余裕のある時で構いませんので、もしもご縁がありましたら、ご意見をお聞かせください。

 なお、このスレッドは個人PLが設立したもので、発言は決して義務ではありません。
 勿論ですが、このスレッドへの不参加などを咎めるつもりは毛頭ございません。
〜〜発言が8件、省略されました〜〜
[125] (まだちょっと寝惚けている)

清闇(cdhx4395) 2011-07-31(日) 17:08
あー、折角イイ夢見てたのに、目覚めたらこういうことになってるとは。
……まあ、ずっと寝てるってわけにもいかねえみてえだが。

とりあえず、詳細は省略するが、俺は人質の安全を優先して動くわ。
寝覚め悪ィだろ、馬鹿の所為で仲間が傷つけられるとか。
まあ、むかつくんで、あのワームの親玉はあとでぶん殴りに行くけどな。

俺はまあ、腐っても竜だ、頑丈だし一人でも何とかなる。
何か策があったら乗っかるから(※プレイングに、他PCさんとの
共同戦線も行う旨を記述済)言ってくれ、柔軟に対応するつもりだ。


つーことで、まあ、そんな場合でもねえが、よろしくな。
[126] (トラベルギアの下準備。)

クアール・ディクローズ(ctpw8917) 2011-07-31(日) 23:08
>リュエールさん
 なるほど、屋根伝いの移動ですか。
 それなら二両目にいる世界樹旅団の不意を付くことが出来るかもしれませんね。

 車内に目と言うと、能力で現在地以外の状況を把握できるということでしょうか……。(メモ書き中。)

>アレクサンダーさん
 襲撃……そうですね、一部のメンバーは真っ向から勝負を仕掛けるのも粋かもしれません。
 今更ですが、獅子座の車両に百獣の王が乗り合わせているというのは、凄まじい偶然ですね。

>清闇さん
 就寝中に起こしてしまい、申し訳ありません。(一礼)

 こちらも行動の区切りにノートで連絡を取るつもりなので、その時は宜しくお願いします。
 策は……二両目の戦闘時に一つ、考えていることがあります。
 大したことことではないのですが……突入する前に、閃光弾を放とうかと。
 勿論、通用するかどうかは分かりませんが……やってみる価値はあるかと思いまして。

 それにしても、頼もしい人達が乗り合わせていたんですね……足を引っ張ってしまわないかと心配になってきました。
 こちらこそ、宜しくお願いします。
[127] そろそろだな

アレクサンダー・アレクサンドロス・ライオンハート(czxd9606) 2011-08-01(月) 00:20
これから、わしはプレイングに入る。
あとは、結果だけだな。

>クアール
たしかに。
[128] 準備確認
リュエール(czer6649) 2011-08-01(月) 00:40
ブレは少し手直しをすれば(読み返し)

>クアール

そうだ、現在地以外の状況を把握できる。
3,4両目は屋根に上がるから、ワームがいる車両を通るときは
上から状況把握してサポートするつもりだ

食堂車での戦闘だが、皆が食堂車につくころを見計らって不意打ちをかけるつもりだ
あと、ワームが無尽蔵に入ってくると面倒だから少し対策をしている
[129] 抗う為の戦い。

クアール・ディクローズ(ctpw8917) 2011-08-01(月) 01:16
>リュエールさん
 はい、ワームの車両はそのまま通る予定なので……状況を把握できるのはありがたいです。
 リュエールさんもお気をつけて、屋根の上にワームが一匹もいないとは考えにくい状況ですから。


 ……そういえば、最初に襲われた時。
 ローズマリーとタイム、そう呼ばれていたワームの親玉は「花粉」を放っていましたね……。
 これの対策も考える必要がありそうです、効果は催眠でしょうか……それとも別の何か?

 

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[1] 『庭園』

クアール・ディクローズ(ctpw8917) 2010-05-27(木) 09:17
 季節の花がぽつぽつと咲いている庭園。
 紫陽花の木の傍には小さなテーブルが一つと、イスが幾つか用意されています。

 テーブルの傍には見覚えのあるカートがあります。紅茶くらいなら淹れられそうです。
 モフトピア産のショートケーキも置いてあります、とろける様な甘さが素敵な一品です。
 他にも飴玉やクッキーなど、色とりどりのお菓子が小皿に盛り付けられています。

 そんな簡素な庭園内で、無表情な青年はのんびりと紅茶を嗜んでいました。
 思い切って庭園を公開したものの、これからどうするべきかと悩んでいるようです。

(まったりとお菓子を摘んだり、紅茶を飲みながらの雑談はいかがでしょうか。
 出現頻度や同時出現などは気にしませんので、どうぞお気軽にお越し下さい。)
〜〜発言が17件、省略されました〜〜
[74] Teaで。
テンション低め
小竹 卓也(cnbs6660) 2010-11-02(火) 01:13
そういえばそんな話があったような気も。
防寒対策は……まぁダイジョウブデスヨ。寒いの苦手なのでその辺りはヌカリナク。

論争の余地なく殺さざるを得ないのは事実なんでしょうけどねー。
まぁばれずにやらなきゃいけませんし……周りからは認められませんしな。
そういえば持ちかえっていた気もしますな……忘れ去られているような気がしなくもないです。
もしくは本当に研究が進んでないか、でしょうけど。

ちなみにそのドリップ機械、凄くでかかったです。高さも2mぐらい計器もあって、もはやこれ何の機械だよと。
たぶん、実際に使うと言うよりはオブジェクトにする感じになってしまうんじゃないんでしょうかねー?

ああ、地雷を踏んでしまう、と。
……何気なく口にしたことで相手の地雷を踏んでしまったらもう本当にごめんなさいとしか言えませんしねー。

(眼の端に子犬をとらえ、素早く顔をロックオン)
おろ、飼い犬……と言う感じですかね?
随分と賢いようで。
[86] Tea or dog.

クアール・ディクローズ(ctpw8917) 2010-11-04(木) 13:42
 これからはもっと寒くなるでしょうし……今で万全なら今後も安心ですね。

 事実殺さなければ、被害が甚大なものへとなっていくのは確かですしね……。
 割り切れ、と言うのはカンタンですが、気持ちはそう簡単に変えられるモノではない。
 体の傷は後で癒せても、心の傷はほぼ一生ものですからね……。

 高さが2mもあるドリップ機械……確かに上等なインテリアになりそうですね。
 拠点のリビングにも一台置いてみようかな、ナレッジキューブが足りればの話ですが。

 ええ、地雷です。私も何度か踏み抜きました。
 もといた世界で狼の地雷をうっかり踏んでしまったときは、しばらく口も利いてもらえませんでしたねぇ……近寄ったら唸られるくらい。

(ロックオンされてる犬妖精を抱えてみる。)
 飼い犬、に近いですね。名前はウルズといいます。
 とりあえず、壱番世界で言う小学五年辺りの知識はある、ハズです。
 ……抱いてみますか?

(わふわふと前足を動かしてるウルズを差し出してみる。)
[95] dog(キリッ
テンション最高
小竹 卓也(cnbs6660) 2010-11-07(日) 03:17
>クアールさん
だが寒がりを舐めちゃいけません。普通の人が寒く感じない程度でもガタガタ震えることがあるのです。
……避暑地ならぬ避寒地で0世界で過ごそうかなぁ、いやでも大学の授業が。

心の傷かー……、うん……。思い当たる節はいくつかあります。
色々な場所にいける、安全でない場所にもいけるってことはそれも覚悟しなくちゃいけないですしね。
隠して生きていくことはできますけどねー。自分で見て見ぬふりして見るとか、そういうことは得意なつもりなんで。
自慢できることじゃないですけど。(苦笑

というかそんな機械が0世界に売っているんでしょうか、という疑問。
壱番世界で働いているのならお金を溜めて……いややっぱ何でもないです。

地雷を踏んだり他人のプライバシーに踏み入り過ぎて嫌われるかもしれないと考えて、口頭での他人の詮索が怖い自分がいます。
変えていかなきゃなーとは思うんですけどねぇ……人見知りの原因にもなりかねない。

へー、ウルズ君ですか。……君でいいですかね?
小5っ……?!
べ、別世界の犬って凄いんだなー。
(差し出され)
いいんですか?わーいありがたく抱かせていただきますー。
(すっごく嬉しそうな顔で受け取った)
もふもふー。
[98] Dog or……そろそろ止めます。

クアール・ディクローズ(ctpw8917) 2010-11-12(金) 22:35
>卓也さん
 確かに、気候の変化が無い0世界ならば避暑地に最適ですね。
 とはいえ、コンダクターの方々は元の世界での生活もある……大変ですね。
 それに、少し羨ましくもあります。

 心に傷を負っていない人と言うのは、恐らくいないでしょうね。
 異世界を行き来する旅人になってからは、傷付く覚悟も必要になってくるのでしょう。
 もっとも、私にはそれが足りないせいか、少し前まで隠居していたのですが。
 ……『それ』に関わるのにも、大きな覚悟が必要になってきますね。

 むしろ、0世界だからこそ売っている気もするんですよね。
 それどころか、そのドリップ機器よりも高性能なもの等も……なんて。
 機械科学が発展した世界から来られた方もいるでしょうし、後で店巡りでもしてみようかな。

 初対面の人に対して、口頭でいきなり地雷ワードを踏んでしまった時の衝撃は異常です。
 ……例えば私の拠点は獣人と称される者ばかりが住んでいるのですが。
 彼等を数える際に、「匹」で数えてしまうとトンデモナイことになりますね。
 更に怖いのは、なぜ相手が怒っているのかに全く気付けない時でしょうか。

 ええ、ウルズは雄なので、敬称は「君」で合っています。
 別世界の犬……と言うより、ウルズは正確には普通の犬ではないんです。
 私は妖精獣と呼んでいますが……犬の格好をしているので、どちらの呼びでも構いません。

(もふもふーっとされているウルズも、気持ち良さそうにしている。
 それに反応するかのように、腰に提げていた本がかたかたと動き出す。)
[101] もう2週間前の話になるんですなぁ。
テンション低め
小竹 卓也(cnbs6660) 2010-11-14(日) 01:54
はははー。まぁ帰れる場所でもあり、帰れる距離にある帰らなきゃいけない場所でもあり。
そんな場所がある身としてはいっその事遠くまでぶっとんでみたいと思ったりもします。
今現在壱番世界、就職難で将来不安ですし。

そういえば0世界の店って店先に良く分からない物が置いてあることが多いような。
……自分の世界以外に自分の世界の物売りだしても売れるのかなぁ?と。物珍しさは確かにあるでしょうけど。

ああ、匹……分かります。
相手が何故怒っているか分からない時も怖いですけど、怒っているかどうか分からない時も怖くないですかね?あ、あれ?今怒ってる?というような。

ふむふむ妖精獣ですか。なるほどなー。
犬の格好をしている、ということは他の姿にもなれるので?
……いやぁしかし実にいい子だ。(もふもふと撫でまわしている
……?(本に気が付いた様子

 

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[56] <終了>空中庭園<ハロウィン仕様>

ベルゼ・フェアグリッド(csrp5664) 2010-10-30(土) 00:04
 扉を開くと、そこは夜空の上だった。
 10フロアーにも及ぶ塔の最上階にあるこの地の名は、空中庭園。
 空が大好きだという蝙蝠が、自身の理想を叶える為にこの地を生み出したとされている。

 その庭園には今、赤い絨毯が敷かれていたり、林檎型のランタンが飾られたりしていた。
 果樹園の木にも林檎を模した色とりどりな飾りが吊るされ、パーティ会場とも言うべき賑やかさを醸し出している。

 Welcome to the my Garden!!

 猫の声とは異なる、渋めの声が庭園に響いた。
 扉に手を掛けたままの貴方を出迎えたのは、この庭の主にして今宵の宴の主催者。

「階段の補強、お疲れサンだ。礼にイタズラは抜き、精々楽しんでいきなァ!」

 やや乱暴とも言える開催の言葉と同時に、中央フロアーにライトが灯される。
 いくつかの丸型テーブルの上に飾られていたのは、ハロウィンにちなんだお菓子や料理の山だった。

 ただ。
 南瓜よりも林檎が目立っている気がするが、それはきっと主催者の趣向だろう。


※この度は突発イベント<階段の塔>へのご参加、ありがとうございました。
 補強を手伝って頂いたお礼として、ベルゼがパーティを開催したようです。
 テーブルに盛られている料理ですが、リクエストをして頂ければ使い魔が用意致します。

 未成年者の飲酒、喫煙はNG,それ以外は最低限のマナーさえ守って頂ければと思います。
 勿論ですが、<階段の塔>イベントに参加されていない方の参加も歓迎いたします。

 それでは、パーティの開幕です。
 期限は11月15日までを予定しております。
〜〜発言が9件、省略されました〜〜
[94] 別名毒見ともいう。
テンション低め
小竹 卓也(cnbs6660) 2010-11-07(日) 03:05
>アルドさん
色々とかかりますよー、出店代に準備費用、それと材料費も必要ですね。
ただまぁ、それ以上に売れればいいんで。
……正直な話、出店した時はあんなにも売れると思ってなかったんだ。パン屋が切り落したパンくずを揚げて調味料付けただけのモノがまさか売り切れるだなんて……。

あ、戻ってきましたな。噂をすればなんとやら。
……おに、ころ、り?えっなにその害虫駆除みたいな名前。
壱番世界には似たお酒はありますが。
あ、お酌いいんですかー?でもその前にあちらの蝙蝠さん……ベルゼさん?を先でいいですよん。
[96] 蝙蝠さんの用事の素。

キリル・ディクローズ(crhc3278) 2010-11-12(金) 22:05
 階段、長い、長くて、疲れた。
 ここは……塔の上? 雲の上? よく分からない。
[97] お子様にはジュースもあるよー。

アルド・ヴェルクアベル(cynd7157) 2010-11-12(金) 22:13
>卓也
 おおー、売り切れってすごいねっ、僕も行けたなら買ってみたかったかもー♪

 あー、ベルゼ帰ってきたみたいだね。
 手伝わされちゃった人もお疲れ様ーって、あれ、ドコの子?(キリルを見て首傾げ

 まぁいいや、ベルゼのははいこれーっ。(ずいっと注いだばかりのおにころり入りグラスを差し出し)
 卓也もおにころりでいいかな? ふふん、良かったら注いであげてもいいよ?(にこにこ)
[99] だれ?

バナー(cptd2674) 2010-11-13(土) 05:08
あれ?誰か、来たみたいだね。
ぼくはバナー。よろしくだよ。

>アルドくん
あ、りんご、ぼくも食う~。

0世界って、壱番世界のスケジュール通りに動いてるんだね。
だとしたら、次はクリスマスかな。
雪が降るかな??

ぼくは、ぶどうジュースでもいただこうかな?
[100] やだ何この子……かわいい……
テンション最高
小竹 卓也(cnbs6660) 2010-11-14(日) 01:37
(キリルさん見て)
えっなにこのさらにモフモフ分追加。
これは暴走しろと神が告げているのかそうなのか?


>アルドさん
買わなくてもパン耳を揚げて好みの味付けすればいいだけですけどー。
まぁお祭りで買う物は普段より美味しくなるような気がすると言うのは事実でしょうが。
わぁい猫獣人さんにお酌してもらえるなんて嬉しすぎる。

>バナーさん
クリスマスかー。
雪降るんでしょうかな。
まぁ0世界は今のところカップルあまり見かけませんしこう、暴動的な何かが起こることもたぶんないでしょう。
……もしかしたら依頼としてどこどこの世界のこの暴動を収めてきて下さいとかそんなことがあるかもしれない。

 

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[61] <終了>階段の塔(アナザーイベント)

ベルゼ・フェアグリッド(csrp5664) 2010-10-31(日) 00:22
 多くの人々の支えの甲斐あって、補強が完了した階段の塔。
 その頂上でパーティを開いたベルゼは、足早にその階段を下っていった。

 貴方はそんな彼の背中を追ってみることにした。
 けれど相手は蝙蝠、貴方の物音に気が付いて、9フロアー辺りで振り返った。

「チッ、付いてくンなっつったのに……まァいいや、ちょいと手伝え」

 何を、と尋ねる前に貴方の目前に差し出されたのは一枚の写真だった。
 見たところ、茶色い毛皮を持つ狼のようだが……。

「コイツさ、覚醒したばっかのロストナンバーで、俺が空中庭園で保護してたヤツなんだよ。 眼が覚めた途端に庭から落っこちやがったんだ」

 この高い塔の上から落ちた。
 そう聞いて、背筋がヒヤリとした人も居ることだろう。
 けれどベルゼはその人に構うことなく説明を続ける。

「落ちても雲海が無理やり塔ン中に誘導してくれッから、大事にゃならねェけどな。 とにかくだ……今、写真のコイツはこの塔の中にいる。 コイツを探すの、手伝ってくれ。」


※『階段の塔アナザー』ルール説明
◆塔内を彷徨う『覚醒したばかりのロストナンバー』の捜索を手伝ってあげてください。

※発言時に記録される時刻の数字下1ケタをどんどん足して行き、塔内を彷徨うロストナンバーに追いつければクリアーです。

※彷徨うロストナンバーもこのスレッドで発言をしては、下1ケタの数字分だけ皆さんから離れていってしまいます。みんなで追いかけて下さい。

 参加方法はカンタン! タイトルに【捜索】と書いて、このスレッドで発言するだけ!
 ただし【捜索】が出来るのは、1日1回とします。
 発言内容は問いません、彷徨っているロストナンバーを大声で探してみたり、ベルゼをもふってみたりもOKです。

※現在の数値(11月1日 17:19時点)
 イベント参加者【15】
 迷子のロストナンバー【34】

 期限は11月15日までとなっています。
〜〜発言が19件、省略されました〜〜
[88] わっ、わわっ。
キリル・ディクローズ(crhc3278) 2010-11-04(木) 22:47
 憚る者、効いてない? 効いてない。
 間違えた、阻む者、阻む者のほうが良かったかも。

 でも呼んでる時間、時間がない、足りない。
 ええと、どうしよう、どうしよう。

(振り返り、一瞬だけ驚いた表情を浮かべるとまた駆け出す。)

 えっと、かばん、かばんならあげる、あげるから。
 でも手紙、言葉、言葉は渡さない、渡せないの。
[89] 言葉?

ロボ・シートン(cysa5363) 2010-11-04(木) 23:08
>キリル
言葉だと?
とにかく、分からん。
どういう事だ?

>ベルゼ
いや、いなかったと思うが。
………あ、キツネザルなどの原始的な猿が、ちかい気がするかな?
[90] 【五日目の結果】
ベルゼ・フェアグリッド(csrp5664) 2010-11-04(木) 23:43
 五日目のお手伝いさん
◆黒燐さん
・捜索結果……【6】

◆ロボ・シートンさん
・捜索結果……【8】


◇迷子のキリル
・判定結果……【7】

「かばんならあげる、あげるから」
 小さくてもはっきりと聞こえる声で言いながら、キリルは逃げ出す。

「キリルさーん。何で逃げるのー?」
 黒燐の問いに応える余裕もないとばかりに、三角に尖った耳を寝かせたまま走る。

「言葉は渡さない、渡せないの」
「言葉だと?」
 ここでキリルはその足を止める。
 追いついたロボがキリルの前に立ち塞がり、行く手を阻んでいたからだ。
 慌てて振り返るが、上には黒燐とベルゼが控えている。
 それでも退路を見出そうとするキリルに、ロボが尋ねた。

「とにかく、分からん。どういう事だ?」


※五日目の捜索成果……【14】
・迷子のキリル……【7】

※累計結果
・イベント参加者……【44】
・迷子のキリル……【44】

※キリルに追いついた!
[91] えっと……。
キリル・ディクローズ(crhc3278) 2010-11-04(木) 23:59
>(黒燐)
 何でって……あれ、あれ?
 ……? ぼくを追ってた人と、違う? 違う人?
 てっきり、石をぶつけてきた怖い、怖い人かと思って。

 ……勘違い? ぼく、勘違いしてたのかな。

>(ロボ)
 狼が喋ってる、喋る狼??

(しばらく考え込んだ後)
 言葉は手紙、大切な手紙。大切な思いが篭った標。
 大切な言葉を「お届け先」に届ける、届けるのが、ぼくの仕事。
 だから、お届け先に着くまで誰にも渡さない、渡せない。(ふるふると首を横に振る。)
[92] イベントクリアだ、お疲れサン。

ベルゼ・フェアグリッド(csrp5664) 2010-11-05(金) 00:21
 ったく、メンドウかけやがってこのガキめ。
 いくら逃げるためだからって、塔から飛び降りンじゃねェよ!(ボカッ)

>黒燐
 ……この痛み具合だと、多分風化かもな。
 こりゃなかなか古い本だぜ……なんでこんなの大事に抱えてんだか。

 あー、そっかお前はクアールに会った事ねェのか。
 クアールのファミリーネームもディクローズってんだ、その理由は……後で話す。

>ロボ
 キツネ、ザル? ナンダそりゃ、キツネかサルかわかんねェヤツだな?
 んじゃーこのガキ(キリル)の場合はオオカミネコってとこかねェ? キシシシッ。


 っつーわけで。
 お前さん達のお蔭で、塔に紛れこんだガキが早く見つかったぜ。
 とりあえず礼は言っとく、ありがとな。

 んじゃ、空中庭園に帰るとすっかね。(ぴっ、と何かのスイッチを押す)

 あー、この階段、実はエスカレーターなんだよな。
 つーワケだ、すぐ庭園に着くから、またパーティの続きを楽しんでくれなァ、キシシシッ!

 

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[7] <終了>階段の塔(イベントスレッド)
アルド・ヴェルクアベル(cynd7157) 2010-10-20(水) 01:36
 いったい誰が建てたのだろう。
 ふと庭園の向こう側に目を向けてみれば、空に向けて聳える塔が見えた。
 塔のてっぺんは、雲に覆われていてここからでは様子を伺えない。

 当の麓まで来てみると、銀色の猫が云々と唸っていた。
 彼の傍には、何かを補強するための材木がずっしりと置いてある。

 ふと、猫は耳をピンと立てた。貴方の気配に気付いたようだ。
 猫は貴方のほうへ顔を向け、人懐っこい笑顔を浮かべると、こう言う。

「やあ、この塔登ってみたくない?」


※『階段の塔』ルール説明
◆階段の塔の荒れ果てた階段の補強作業を手伝ってあげてください。
 発言時に記録される時刻の数字下1ケタをどんどん足して行き、目標の数字を目指すイベントスレッドです。

 参加方法はカンタン! タイトルに【補強】と書いて、このスレッドで発言するだけ!
 ただし【補強】が出来るのは、1日1回とします。
 発言内容は問いません、補強を手伝ってみたり、アルドをもふってみたりもOKです。

 目標の数字はズバリ【100】!
 期限は10月30日までです。

「あ、計算は僕が1日置きにやるからねっ。 分からないこととか、分かりにくいコトも僕に聞いてくれればOK! それじゃ、塔登り、いってみよーっ!」
〜〜発言が32件、省略されました〜〜
[49] 九日目だよ、【89】からラストスパート!

アルド・ヴェルクアベル(cynd7157) 2010-10-28(木) 00:27
 ……ふぅっ、ついに雲を抜けたね。
 窓の外を覗いてごらんよ、辺り一面の青と白のコントラストは見物だよ!

 ……えっ、窓からじゃちょっと見にくい?
 ふふっ、それじゃあ早く「空中庭園」を目指さなきゃねっ。

 ああ、言い忘れてたけど……この塔の上にも庭園があるんだ。
 拠点のみんなは「空中庭園」って呼んでるよ、そこの管理もベルゼがしてるんだ。

>バナー
 にゃはは、確かに鳥に比べたら蝙蝠は妙な翼かもね。
 羽毛は一切生えてなくて、薄い皮膜で飛んでるって話らしいし……。
 ……今度、あの翼触っちゃおうかなー、なんだかぷにってしてそう。
 
 おっきなどんぐり……。
 んー、それってベルゼが空中庭園で育てようとしてる「ビッグアップル」より大きいのかな?
 ビッグアップルは確か、100キロはくだらないくらいの大きさだって聞いたけど……。

>黒燐
 そうだね、今の蝙蝠の羽音はベルゼのだと思うよ。
 ネコっぽい尻尾も生えてるせいか、たまに羽の生えた猫と間違えられるみたいだけどねー。

 くふふっ、階段の補強が終わってからならいーよ?
[51] 最後かな?

バナー(cptd2674) 2010-10-28(木) 11:17
あとすこしかぁ。
ものすごい高いところだね。
「樹上都市ユグドラシル」よりも、高く感じたし。
もうそろろそろだね。

>黒燐さん
うん、、いいよ。
ひっぱらないでね。

>アルドくん
げっ歯類連合には、ムササビってのがいるけど、彼らは「滑空」するだけだし。
蝙蝠の翼って、気になるんですよね。
不気味だし。鳥とは違うって言うか。
あと、ユグドラシルのどんぐりは20~30キロぐらいだったかな。
100キロは大きいなぁ。
[52] た、高っ
テンション低め
小竹 卓也(cnbs6660) 2010-10-28(木) 23:49
>アルドさん
ですです、だんれぼは踊るあれです。
GGはー、まぁ格闘ゲームの1つですな。攻めコンボゲー。
機会があればやってみてはどうでしょうかね。

>バナーさん
(流石小動物の勘……!)
な、なるほどなー。

>黒燐さん
オトゲーというのは音楽のリズムに合わせて演奏したりステップ踏んだりするゲームです。
GGは先程アルドさんにいったような格闘ゲームでして。


ふいー疲れた、ちょっと休憩。
[53] 【九日目の結果】
アルド・ヴェルクアベル(cynd7157) 2010-10-29(金) 00:02
 九日目のお手伝いさん
◆バナーさん
・補強結果……【7】

◆小竹 卓也さん
・補強結果……【9】

 耳をすませば、大空を過ぎ行く風の音が聞こえるだろう。
 バナーのいた世界にあるという『樹上都市ユグドラシル』よりも高いという場所に、彼らは来ている。

 まるで、0世界の記録に挑戦しているかのような長い階段。
 それは、ティリクティア、小竹 卓也、バナー、黒燐に補強により、ついに最後の一段を迎えた。
 
 階段が途絶えたその先は小さな小部屋となっていて、目の前には扉がある。
 自称現場監督のアルドはその扉を背にして、麓で出会った時の様に両手を広げて応えた。

※九日目の補強結果……【16】
・現時点の補強成果……【105】

※空中庭園に到達!
[54] 目標達成! 協力してくれてありがとう!

アルド・ヴェルクアベル(cynd7157) 2010-10-29(金) 00:31
 ふぃーっ、つっかれたぁ……。
 おっと、いけないいけない……現場監督がバテてちゃ示しがつかないや。

>バナー
 ああ、うん聞いたことあるよ。
 鳥みたいに羽ばたいて飛べる獣って、蝙蝠しかいないんだよねっ。
 んー、蝙蝠の翼ってたしか悪魔のモチーフにもなってるせいか、不気味がられることが多いかも。
 ああ、でも本人の前で「不気味~」とか言っちゃダメだよ? 彼、気にしてるから。

 ふむぅ、2~30キロのどんぐりかぁ……投げられたら硬くて痛そうだなぁ。

>卓也
 だよねっ、踊るアレだよねーっ。
 んー、壱番世界のゲーム……チェンバーに設置できないかなぁ?
 そうすれば、庭園でいつでもゲームし放題……ダメだね、体が鈍っちゃう。

 かくとうげーむ……ああ、向かい合った画面を見合って、キャラを戦わせるゲームだっけ?
 攻めコンボゲーかぁ……。 ちょっと興味あるなぁ。


 と、言うことで!
 皆が協力してくれたお蔭で、予定より早く階段の補強が終わったよ!
 すっごく助かっちゃった! みんな、手伝ってくれてどうもありがとうっ!

 ああ、そだそだ、庭園の準備は出来てるかな……?

 <ヤッベェ、もう着てるぞっお前ら急げっ! 急ピッチだ早く早くーっ!(バサバサッ)

 ……むー、まだみたいだね。
 ホントならスグにでも庭園に案内して、お礼のおもてなしをしたいトコなんだけど。
 その庭園がまだ準備中みたい……もう少し待っててね?

(29日~30日の間に、『空中庭園』スレッドが立てられます。)

 

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